アン・バースデイ・アントルメ/若忍+樹(若干仙樹仙に見えるかも) カチャ、と鍵のターンはダンスのステップのようにゆるやかに軽やか。キィ、とアパートの蝶つがいが鳴く。気が付けば出掛けていた樹が、そう時間をおかず帰ってきたのだろう。天気の不安定な時期なので、傘を持っていかなかったようで少し気に懸けていたけれど、しばらく晴れの予報が続くしまあいいか、どうにでもするだろう、と、忍は好きなゲームのレベル上げをしていたところだった。
「おかえり、樹」
玄関のほうに届くよう少し声を張り、セーブポイントまでのあと少しの間、プレイを続ける。相変わらず足音のろくにしない樹が、リビングまで辿り着くのと同時、電源を切った。
「ただいま、忍。ハッピー・アン・バースデイ」
樹の手に握られていた袋を差し出され、忍は、困惑するも受け取ってしまう。柄付きで半透明のそれのなかには、何やらラッピングされた、白っぽい、箱のようなものが入っていた。心当たりが一見なくて、けれどことばに、答えがあって。彼の唐突な行動は、たいてい、そんなかんじだった。
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