鮮血の瞳「空からゲッターが!?」
隼人はヤマザキに伝えられたことを繰り返す。
「はい、先ほど観測班から報告が」
「俺が出向く。何かあったら連絡を寄越せ」
空から落ちてきたのは真っ黒なゲッターだった。なぜかハッチが固く閉じられているらしく、今しがたスーパーロボット軍団に協力してもらい、ハッチをこじ開けようとしていたらしい。
直ぐ様ゲッターチームを呼び出し、真ゲッターにハッチを持たせた。その時だった。
「…………」
真ゲッターがそのまま動かない。
「どうしたの、號」
異変に気がついた渓が、イーグル号にいる號に呼び掛ける。そして、號は小さく呟いた。
「竜馬……」
「りょ、竜馬!?」
隼人が叫んだと同時に、真ゲッターがメリメリ音を立てるハッチを開け始めた。開けるというより剥がすようなその行程を、隼人は固唾を飲んで見る。
バキッ、と音を立ててハッチが取れる。そして、その中身を見た渓が小さく悲鳴をあげた。
「どうした!渓!」
その悲鳴を聞いた弁慶がたまらず走り出し、ハッチが取れたゲッターへ登る。
「た、大将!これって……」
同じ光景を見たであろう凱も震えている。隼人も弁慶の背中を追った。
「なんだこりゃあ!」
弁慶はその中身を見て驚愕した。
ハッチを剥がしたコクピットの中にいたのは、確かに竜馬だった。しかし、その光景は想像を絶するものだった。
竜馬の身体中に配線が繋がれていた。顔、胸、腰、腕、足、余すことなく全ての部位に刺さっている。
本人は深い眠りについていた。操縦レバーを握ったまま、人形の様に寝ている。髪も肌も雪のように白くなっていたが、まだ生きているようだ。
そんな弁慶の側に、かなり殺気立った隼人がやって来る。
「どうするんだ隼人」
「どうするもこうするもないだろう!」
隼人はスーツの内ポケットからナイフを取り出し、竜馬に繋がっている配線をスパスパと切り出した。その顔は必死の形相で、弁慶も滅多に見たことがない表情だった。全ての線を切り終えた隼人は、眠り続ける竜馬を肩に担ぎ、インカムで指示を飛ばす。
「すぐに医療班と、メディカルルームの手配を!」
メディカルルームに担ぎ込まれた竜馬は、かなり危険な状態だった。
適切な処置を施さなければすぐに生命活動を停止してしまう。
あらゆる管をつけられて眠る竜馬を、隼人は椅子に座って見つめる。
あのコクピットのような真似をしてしまうのは辛かったが、このまま竜馬が死んでしまうよりはマシだ、と判断した上で行った。
「……うっ」
「竜馬!」
あの出来事から三時間、竜馬が目覚めた。薄く目を開け、隼人を見ている。
「大丈夫か?俺が分かるか!」
そう竜馬の顔を覗き込む。
鮮血のような真っ赤な瞳。虚ろな二つは、隼人を捉えて離さない。
しかし、本人は小さく口を開き、こう呟いた。
「だ……れ……だ……」
「竜馬は、俺たちを覚えていないのか!?」
メディカルルームの外、弁慶がそう聞き返す。
「俺のことはおろか、お前のことも、武蔵のことも、號やあの13年前のことも、何一つ覚えていなかった。それに加えて、言語能力も大分衰えているらしい」
「どういうことだ?」
「幼児くらいの言語能力しかなかった。喃語も多かったな」
隼人はメディカルルームの窓を見つめる。ベッドの上で、13年前渡したあの銃を不思議そうに触っている竜馬がいた。
「おい、銃……」
「弾は抜いた。アレを持っていこうとしたらぐずられてな。もしかしたら断片的に何か覚えているのかもしれんな」
竜馬はぼんやりしながらその銃を見ていたが、その内うとうととし始め、こてん、とベッドに倒れた。力なく垂れ下がった腕には、銃がきゅっと握られている。
「本当に子供みてえだな」
「そうだな……」
隼人は再びメディカルルームへ入る。
竜馬は起きていた。そして、隼人の顔を見て呟く。
「し、れー。お、はよ?」
「覚えたのか……」
どうやらこの部屋で「司令」と呼ばれることが多いので、それで覚えたらしい。
「司令、は役職の名前なんだがな」
そう笑い、竜馬の頭を撫でて、そっと囁いた。
「俺は隼人だ。分かったか?竜馬」