――昨晩は、少しはりきりすぎてしまったかもしれません。
巳波はそう自省しながら、隣で眠る恋人を優しく撫でた。
真っ白なシーツの中、無防備に身を横たえる彼は、あどけない寝顔を晒し、安らかな寝息を立てている。
重なることの少ないオフの日には、決まってこうして二人だけで過ごしていたが――昨晩は、つい、少々、派手にやりすぎてしまった。
自分の作った新曲を再び歌えること、同じパートでのハモリがいつになくうまく響いたこと――。
悠は小さな喜びを一つひとつ拾い集め、まとめるように巳波へ語りかけていた。
昼間のスタジオでも似たようなことを言ってはいたが、その時は他のメンバーやスタッフたちがいたから、さすがに自制していたようだ。
同じことを何度も繰り返すほどに楽しかったのだな、と半ば保護者のような気持ちで聞き役に徹していた巳波だったが、自宅に戻ってからの会話には、ここでしか滲ませられない色が混じりはじめ、それは巳波の胸の奥深くで花を咲かせていった。
――貴方がその気なら、私だって。
そんなささやかな対抗心をもって、巳波からも特別な色を添えた言葉を贈ると、悠はすぐさまその色に気がついてまさしく花のような笑みをうかべた。
極めつけに、「オレ、巳波と一緒に巳波の作った曲を歌えて、本当に幸せ」なんて言われてしまえば、もう巳波を止めるものなんて何もないに等しかった。
そうしてあれよあれよという間に触れ合いを重ねて、熱を交わしあい、すべてが終わった今は、明け方の静けさに包まれている。
情熱の痕を肌に咲かせることはできないけれど、その代わりに悠の頬は薔薇色に染まり、行為がいかに愛に満ちていたかを物語っていた。
それをみた巳波はほうと溜息をつきながら、すらりとした指先でその頬を撫でて、次いで口付けを落とす。
眠り姫へ贈る目覚めのキスは、唇にするものと相場が決まっている。
今しがた触れたのは頬であって、それはただ親愛を表すものだ。
たくさんの愛を受け止めた結果、くたくたになってしまった悠が目覚めるのはもう少しあとで良いと、そう願う巳波にとってそこは最適な場所だった。
レースのカーテン越しに見上げた空はまだ薄暗く、目覚めるにはいささか早い。
――私も、もう一眠りしましょうか。
寝具に再び身を滑り込ませた巳波は、目の前にある悠の寝顔を覗きこむ。
未だ目覚める気配を見せないが、その表情は安らぎに満ちていた。
「……愛していますよ」
そう呟いた巳波は、柔らかな目元をそっと伏せながら、愛しい恋人と共に再び眠りについた。