とあるカフェでの日常一角 とある街の小さなカフェ。今日もその扉が開き、カランカランと来店を知らせる鐘が鳴る。そこの店主______ルチアーノとその妻は扉の方を一瞥する。扉から中に入って来たのは、黒い髪に青のメッシュを入れた少年と、白い髪をツインテールにまとめている少女だった。彼らはこのカフェの常連客なのだ。
「…来たか」
「いらっしゃい」
「こんにちは」
少女が挨拶し、少年は軽く会釈して2人はカウンター近くの席に腰掛ける。メニューを少し見てから少年が注文する。
「ブラックコーヒー2つ、あとパフェのLサイズ1つ」
そう言うと2人ともすぐ、宿題であろうテキストを机に広げ、シャーペンを持って解き始める。ペンが紙の上を走る音、コーヒーを淹れる音、コーヒーの香りで店内が満ちた。
「なぁボイドール、ここの問題なんだが…」
「バグドール、この問題お願いできますか?」
時に教え合いながら、順調に宿題を進めているようだ。そこにコーヒーが入ったカップを2つ持ったルチアーノの妻が、ボイドールと呼ばれた少女とバグドールと呼ばれた少年の座る席のテーブルにカップを置く。
「はい、どうぞ。ここに置いておくからね、パフェはもうちょっと待ってて」
丁度キリが良くなったのか、2人はテキストを閉じてコーヒーのカップを各々の方に寄せる。ボイドールはそのまま、バグドールはポットに入った角砂糖やミルクをとぽとぽと入れて飲み始める。かなりの量の砂糖とミルクを入れたバグドールを見て、ルチアーノは少し溜息混じりに声をかけた。
「少々入れ過ぎではないか?最初からカフェオレでも頼めば良いものを…」
「カフェオレは甘すぎる」
「そんなに入れていたら変わらん。むしろお前が今飲んでいるコーヒーの方が甘いくらいだ」
「そうですよ。そんなに苦味が嫌なのなら、意地など張らずにココアか何かでも頼めば良いのです」
「……っ!意地なんか張ってない!!」
バグドールが頬を膨らませて怒る。実際のところコーヒーの中には大量の砂糖が溶けており、もはやコーヒーと言っていいのか怪しいのだが。少し前にバグドールが格好付けてブラックコーヒーを飲んだところ、苦味に耐えられずに一口でリタイアした事がある。誰が見ても、彼が子供舌である事は明らかなのである。
「まぁまぁ、そんなに怒らないの。はい、パフェのLサイズ」
「!」
途端にバグドールの瞳がキラキラと輝く。彼の目の前に、バグドールの座高と同程度の大きさのパフェが置かれた。パフェスプーンを手に取ってすぐ食べ始める。細い身体のどこに入っていくのか、みるみるうちにパフェが消えていく。口の中をいっぱいにしながらモグモグと食べ進める彼の姿を見て、ボイドールには思い浮かぶものがあった。それは…。
「…リス…もしくは…ハムスター…?」
そう思わず呟いたものの、食べる事に夢中のバグドールの耳には入っていないようだった。
暫くして大きなパフェの器はすっかり空になっていた。満足気なバグドールを脇目にボイドールが支払いを済ませる。そして帰りの支度を済ませながらボイドールがバグドールに話しかける。
「…家に帰ったら、きちんと野菜も食べてもらいますよ」
「な……っ、ボクに野菜は必要ない」
野菜という言葉を聞いて、バグドールの顔色が一瞬で変わる。彼はかなりの偏食故、野菜も大の苦手なのである。
「野菜もしっかり食べないと免疫低下等に繋がりますよ。この前も風邪を引いて倒れていたでしょう?」
「それは……」
「…それに、今これだけ糖分を摂ったのですから、糖分が足りないとは言わせませんよ」
「ぐぅ…」
「さぁ、早く帰りましょう。ハカセも待っています。それではルチアーノさん達、さようなら」
「…ああ、気をつけろよ」
「ありがとね〜」
ブツブツ文句を言うバグドールを引っ張りながら、ボイドールは店を出て、ハカセが待っている家へと向かった。