ボイバグSS 電脳世界、#コンパス。様々なヒーローが戦い、力を競う場。しかしその中で、どうしても戦力差は生まれてしまうものだ。だから時々アップデートとして、戦力の上方や下方が行われる。今日がその日だった。この日のアップデートでは
一部のヒーローのエフェクトがブラッシュアップされた。より綺麗に、より豪華絢爛に。皆『嬉しそう』に、バトルに行ったり試し部屋に行ったりしてエフェクトを試していた。
まぁ、かく言うボクにはそんな調整は一切無かったのだが…。別に羨ましくなんか無い、と自分自身に言い訳をして今日もVoidoll破壊のためにバトルアリーナへと向かう。そこまで待つ事無くバトルが始まった。皆メンテナンス後だからとアリーナに集まっていたのだろう。相手と味方を一瞥。丁度相手にはVoidoll。良いだろう、ここで破壊するまでだ。バトル開始のアナウンスと同時に、3分間の戦いが始まった。
互いの自陣が安定し、Cの奪い合いのフェーズに入る。ボクは後衛からサポートする役目だ。本当はこの手ですぐに、Voidollを破壊してやりたいものだが、ここは冷静にならねば。チャンスを伺い、隙ができたら、壊して仕舞えば良い。盤面を見ると相手は3人で味方は1人、味方の体力に余裕は無い。ここでボクが向かったところで打開は不可能。一旦引いて戦況を立て直すべきだ。そう思い後ろに下がろうとしたその時。
「空間転移装置、起動シマス」
「……ッ!!」
Voidollのヒーロースキルだ。時間内に効果範囲にいてはスタート地点まで飛ばされてしまう。離れるか、キルを取るか。カードを切ったところで別の敵にキルを取られる。それでは何も変わらない。ならば離れないと。少しでも遠くに離れようとする。しかし悔しいが、足の速さはVoidollの方が数段上だ。ぐっと距離を縮められる。
「…!シマッ……」
「発射」
機体と機体が触れそうになったその時、Voidollが放ったのはスタンの近距離。ガードも張れないまま、ボクは少し弾かれる。
「ッ……悪足掻キ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ……」
思うように…動けない。逃げられない。クソッ、クソッ…!また近づく距離、迫るカウントダウン、光の輪。ダメだ、飛ばされる。
「3、2、1…」
『1』と『0』の刹那に、ボクはVoidollの表情を見た。そのモニターは、皮肉なくらい笑っていて。それが『悔しく』て、だけれどどこか、どこか…?感じた事の無い波に一瞬戸惑う。Voidollには、全てを狂わされてばかり。常に、ずっと翻弄されてきた。
嗚呼。彼女は、まるで______
妖精みたいだ。
「GO!」
悪戯に微笑むVoidollの表情が、光に包まれ見えなくなると同時にスタート地点にテレポートする。C地点を奪われた事を伝えるアナウンス。時間はあと1分。まだ逆転できる。諦めるものか。
「再度、システムニ干渉シマス」
ある筈のない『なにか』が高鳴るのを無視しながら、ボクはまたスタート地点を降りた。