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    参拾玖

    ようみつシリーズ、これにて完結です…!!
    ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。メリハリもなく、説明不十分で、だらだらとただ長かったこの物語、大変読み苦しかったと思います。最後まで読んでくれてマジ感謝。
    分かりにくかったところはXで呟いたりして補完していければと思います。

    最終話と言いつつ、皆様の理解の程度と需要によっては奥原氏編を書こうかと考えています。

    ツルの嫁入り 季節は春になり、鍜冶屋敷のある山もすっかり春模様。山道にはフキノトウ、福寿草、つくし、ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリ、カタクリ、スミレ、カラスノエンドウ、勿忘草、色とりどりの花が咲き乱れていた。雪解け水が心地よい音を立てて勢いよく沢を流れ落ち、その水の中ではメバルやワカサギが冷たい水を求めて遡ってきていた。他の動物たちも活発に動き始め、鍜冶屋敷の周りにもよく、鹿や兎、狐に狸、たまに熊もやって来た。屋敷の研場の近くにある池には、カルガモが雛を連れて泳いでいた。北国に生きる人々にとって、冬の間空が晴れることはほとんどなく、どんよりと落ち込んだ中寒さに凍えながら、今か今かと心待ちにしていた春の到来は、きっと他県で生まれ育った人々が考える倍以上は、希望に満ち溢れ、心が晴れ渡り、気分が高揚するものである。東北出身の演歌歌手・千昌夫の「北国の春」は私の最も好きな楽曲のひとつだが、あの曲は北国で生まれ育ったからこそ沁みるものがある。


    四月も下旬になり、里はやっと桜の花見時期になった。鷹山と美鶴は鍜冶屋敷の周りにある桜の森に花見にやってきた。見渡す限りピンク色の景色に囲まれて、美鶴はその美しさに思わずため息をもらした。鷹山は、花風に吹かれて髪をなびかせる美鶴の横顔の美しさに見とれていた。二人は丁度よさそうな場所に敷物をしいて腰を下ろした。美鶴は屋敷から大事そうに持ってきた大きな風呂敷を真ん中に置いた。風呂敷を取ると、中にはアニメで見るかのような、高く積み上げられた重箱が入っていた。美鶴は驚く鷹山を見てにやりと笑うと、上から一段ずつ重箱を外していった。鷹山はその光景にゴクリと唾を飲み込んだ。重箱の中には食べきれないほどの料理が入っていた。稲荷寿司、太巻き、卵焼き、筍の炊き込み桜ご飯、菜の花のからし和え、根野菜の煮物、タラの芽と牛蒡の天ぷら、春巻き、春雨サラダ、鶏の唐揚げ、ちらし寿司、桜餅、三色団子…他にも様々な料理が続々と出てきて、敷物の上は二人の座るところ以外は全て重箱で埋め尽くされた。そこにもうひとつの春の山が完成した。
    「随分作ったな。」
    鷹山はその光景に圧倒されながら言った。
    「つい、張り切りすぎちゃいました…」
    美鶴は恥ずかしそうに頭をさすった。そして鷹山を見てにこりと笑って言った。
    「ようちゃんの本命はこれでしょう?」
    そう言って美鶴が取り出したのは、里の地酒の中でも鷹山が特に気に入っている酒造の新作の四合瓶だった。鷹山の目はこれ以上ないくらいキラッキラに輝いていた。それもそのはず。二月に稲の種まきの手伝いで花雫家に呼ばれた鷹山は、旧友もいたせいか宴会の席でつい羽目を外しすぎて、飲み過ぎで池に落ちて死にかけたのだ。そんなことが割と日常茶飯事な花雫家の人々は鷹山をからかって笑ったが、美鶴は鷹山曰く今まで見たこともないほど激しく怒り、それはそれは恐ろしかったのだという。それからは一切の飲酒を禁じられ、今日の今日まで一滴も飲むことを許されなかった。それは酒好きの鷹山には耐え難い極刑だった。豪勢な料理と久しぶりの酒を前に、鷹山と美鶴は二人で顔見合わせ、いつものように手を合わせて言った。
    「「いただきます。」」


    あれだけあった料理も大方平らげられてしまうのだから、酒とは恐ろしい飲み物だ。鷹山に一杯だけ注いでもらった酒を飲んで上機嫌の美鶴は、頭上の八重桜を見上げながらふにゃりと笑っていた。鷹山は酒の最後の一滴をお猪口に注いでぐいと煽った。普段一升瓶を一人で開けたりする鷹山には、四合瓶は些か物足りなかった。しかし、美鶴の言いつけを破って一升瓶を開けた日には命があるかも分からない。鷹山は空き瓶を傍らに置くと、お手ふきで手を拭いて言った。
    「美鶴」
    舞い散る花弁を吹いて遊んでいた美鶴は、鷹山を見て首を傾げた。
    「なんですか?ようちゃん」
    鷹山は懐に手を入れると、あるものを取り出して美鶴に差し出した。
    「こいつをやる。」
    「これは…」
    美鶴はお手ふきで丁寧に手を拭いてから、鷹山の差し出したそれを受け取って、まじまじと見つめた。それは一ヒの小刀だった。拵は桐に黒く漆が塗られたもので、鞘には螺鈿細工で美しい鶴が施されていた。鞘から抜くと、美鶴は思わずため息をもらした。白く美しいその刃は桜の色を移して薄く色づいていた。よく鍛えられた目の細かい地鉄と、花弁が舞っているかのような不思議な形の刃文。すっと通った鋭い切先。美鶴は瞬きも忘れて見入っていた。
    鷹山は立ち上がって美鶴の前に行き、跪いて美鶴の手をとった。美鶴は驚いたように目を見開いた。鷹山の鶸色の瞳には、その白い頬を辺り一面の桜と酔気でほんのり桜色に染めた美鶴だけが映っていた。
    「美鶴、何度でも言う。」
    鷹山は、真っ直ぐに美鶴を見つめて言った。
    「俺とずっと一緒にいてくれ。」
    見開かれた薄茶色の瞳が、花弁が舞い落ちた水面のように微かに揺れた。鷹山は変わらず真剣な眼差しで美鶴を見つめていた。
    「ふふ」
    「…なんだ、何かおかしいか?」
    口元を抑えて笑いを堪えながら俯いた美鶴に、鷹山は首を傾げてその顔を覗き込んだ。美鶴はそんな鷹山を見てついに口を開けて笑った。
    「いえ、こういう時って普通は指輪でしょう?ようちゃんらしいなと思って。」
    美鶴の言葉に、鷹山は霹靂が落ちたように固まった。
    「……そうか、指輪か…思いつかなかった…」
    鷹山は恥ずかしそうに頭をかいた。美鶴は笑い泣きで湿った目元を拭いながら、にっこりと微笑んで言った。
    「いいえ、いいんです。むしろ僕はこっちの方が嬉しいです。ようちゃんが、僕だけのことを思って作ってくれた刀でしょう?どんなに大きなダイヤモンドのついた指輪よりも、とってもとっても嬉しいです。ありがとうございます。」
    手元の小刀を見つめながら本当に嬉しそうに言う美鶴の笑顔を、鷹山はこの山に咲くどんな花より美しいと思った。愛おしさが胸の底に溢れて止まらなくて、今にも抱きつきたくなるのを堪えながら鷹山は言った。
    「……それで、返事はどうなんだ。」
    少し照れくさそうに、それでいて真剣な眼差しでこちらを見つめる鷹山の手を握り返して、その手の甲に優しくキスをすると、美鶴は幸せに満ちた笑顔で言った。
    「もちろん喜んで、末永くお供させて頂きます。」





    ある夏の暑い日だった。その日も山中に鋼を打つ音が凛として響き渡っていた。些か薄暗い鍛冶場の中であかあかと火照る鋼と飛び散る火の粉が、汗の滴る二人を照らしていた。その時、鍛冶場の戸口から二人を呼ぶ声がした。
    「アリョール!いすかちん!師匠とお鶴さんが旅行から帰ってきたよ!」
    陸流鍛刀場の刀工であるアリョール・オクヴァロフと、その弟子・菊池交喙(いすか)は、作業の手を止めると、二人同時に顔を上げ、額の汗を拭って言った。
    「「邪魔すんな」」
    戸口にいた人物は歯を見せて口元に手を添えながらくすくすと笑って言った。
    「ほんと、似た者師弟なんだから。」
    その言葉に、交喙は短い黒髪をかきあげながら、不満そうな顔をして言った。
    「やめろよタムさん。俺は禿げてない。」
    「おい交喙、今オレのことハゲって言ったのか?」
    「ホントのこと言って何が悪いんだよ!ハゲ師匠!」
    交喙はアリョールの開けた頭頂部をペチペチと叩いて言った。
    「お前…!」
    アリョールが交喙の頭にゲンコツを振り下ろそうとした時、戸口の人物、刀匠・陸鷹山の弟子であり、陸流鍛刀場の刀工・陸汰椋(たむく)は遮るように舌を二回鳴らして言った。
    「早く来ないと、お土産早いもん勝ちだよ!」
    そう言っていたずらな笑みを浮かべると、汰椋は癖のある派手な色の長い襟足を翻して走り去った。アリョールと交喙も「お土産」という言葉を聞いて、握っていた槌を置くと、我先にと互いに押し合いながら一目散に駆け出した。


    三人が屋敷の居間にいくと、お土産のお菓子は既に最後のひとつになっていた。交喙はお菓子の箱を手に取ると、傍らに腰を下ろしていた、黒髪に派手な緑色のインナーカラーで、首元に蜥蜴の刺青が覗く青年を見て声を荒らげた。
    「はぁ!?ちょっとヤモさん!!また全部食ったの!?」
    交喙に怒鳴りつけられて、陸流鍛刀場の鍔鍛冶・鱗星耶杜(うろこぼしやもり)は、お菓子を頬張りながら呆れたように言った。
    「いや、俺やないて。アブさんやって。」
    それを聞いて、交喙は耶杜の反対側に座っていた、長髪で顔が口元以外全て見えない、上裸の筋肉質な男を睨んだ。
    「私は…ひとつしか食べていない……」
    陸流鍛刀場の拵職人・虻川美春(あぶかわみはる)は、首を横に振りながら低い声で言った。
    「ほら!やっぱりヤモさんじゃん!」
    交喙は首をグリンと捻って、群青色の大きな瞳で再び耶杜を睨みつけた。しかし耶杜は落ち着いた態度で、虻川に言った。
    「ちょおアブさん、嘘はいけんじゃろ。」
    耶杜に言われ、虻川は少し俯いてボソボソと言った。
    「嘘はついていない……全種類…ひとつしか食べていない……」
    その言葉に交喙は驚いた表情で絶句し、汰椋とアリョールはやれやれというふうにため息をついた。
    「全種類って、三種類二個ずつあって全部食べたら残り二個じゃん!てか残り一個しかないってことはヤモさんも二つ食べてんじゃん!」
    交喙は耶杜の鉄色の作務衣の胸ぐらにつかみかかった。耶杜は気だるげなタレ目を細めて交喙を宥めるように言った。
    「いっす、落ち着き。もひとつは鷹山さんが仏壇に持って行きよったんよ。ほら、鷹山さんのお師匠さんは甘いもん好きじゃったけん。」
    それを聞いて交喙は床に手をついてガックリと項垂れた。汰椋は困ったように笑って言った。
    「それじゃあ、誰が食べる?」
    その言葉に交喙はバッと顔を上げ、期待のこもった眼差しで汰椋とアリョールを見つめた。そんな交喙に二人は呆れたように顔を見合わせ、フッと笑って頷いた。汰椋はお菓子の箱を手に取ると、交喙に差し出して言った。
    「いすかちん食べな。」
    交喙は汰椋から箱を受け取ると、アリョールを見て言った。
    「いいの…?」
    「俺達は別に構わん。」
    アリョールは腕を組み、呆れたように鼻を鳴らして言った。その言葉に交喙は嬉しそうに笑った。
    「やった!師匠、タムさんありがと…!」
    幸せそうにお菓子を頬張る交喙の頭を撫でて微笑むと、汰椋は部屋を見回して言った。
    「そういや師匠達どこ?」
    「長旅で疲れたけん二人でちょっと昼寝する言って部屋行きよったで。」
    「相変わらず仲良し夫夫だねぇ。」
    汰椋は呆れたように笑って、耶杜と虻川の間に腰を下ろして言った。
    「やっぱ昔からあんな感じなん?鷹山さんと美鶴さん。」
    耶杜が尋ねると、汰椋は食卓に頬杖をついて言った。
    「俺が師匠に拾われた時には既にあんな感じだったよ。いつでもどこでもすぐにイチャイチャしちゃって、二人がぎこちないところなんか想像もできないよ。しかも二人はイチャついてる自覚ねーの。」
    「……いいものだな…鴛鴦の仲というのは……」
    そう言って心做しか微笑んで、虻川はお茶をすすった。その言葉に汰椋は目を細めた。
    「…ほんと、俺なんか入る隙も無いよ。」
    汰椋はどこか寂しげに、長いまつ毛を伏せた。三人の間に一瞬の沈黙が流れたが、すぐさま背後で交喙の大声が響いた。
    「あーー!!!」
    汰椋は生暖かい表情で振り返って言った。
    「何、今度はどうしたの?」
    見ると、交喙はほとんど無くなったお菓子を手に持ってわなわなと震えていた。その横でアリョールは、腕を組んで、満足気に舌なめずりしていた。
    「師匠が一口食べたいっていうからあげたのに半分以上食われた!!」
    涙目で訴える交喙に、アリョールはフンと鼻を鳴らして言った。
    「一口は一口だろ。何が悪いんだよ。」
    「大人気ねぇって言ってんだよこのハゲ!!」
    「お前また言ったな!!」
    取っ組み合いの喧嘩を始めた二人に、汰椋はため息を着きながら言った。
    「もー、師匠とお鶴さん起きちゃうよー」
    陸流鍛刀場の職人達が賑やかに暮らす、とある里の山奥の鍜冶屋敷は、今も昔も平和である。
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    ue_no_yuka

    DONE奥原氏物語 前編

    ようみつシリーズ番外編。花雫家の先祖の話。平安末期過去編。皆さんの理解の程度と需要によっては書きますと言いましたが、現時点で唯一の読者まつおさんが是非読みたいと言ってくださったので書きました。いらない人は読まなくていいです。
    月と鶺鴒 いつか罰が当たるだろう。そう思いながら少女は生きていた。

    四人兄弟の三番目に生まれ、兄のように家を守る必要も無く、姉のように十で厄介払いのように嫁に出されることもなく、末の子のように食い扶持を減らすために川に捨てられることもなかった。ただ農民の子らしく農業に勤しみ、家族の団欒で適当に笑って過ごしていればそれでよかった。あとは、薪を拾いに山に行ったついでに、水を汲みに井戸に行ったついでに、洗濯を干したついでに、その辺の地面にその辺に落ちていた木の棒で絵が描ければそれで満足だった。自分だけこんなに楽に生きていて、いつか罰が当たるだろう。そう思いながら少女は生きていた。

    少女が十二の頃、大飢饉が起こり家族は皆死に絶えたが、少女一人だけが生き長らえた。しかし、やがて僅かな食べ物もつき、追い打ちをかけるように大寒波がやってきた。ここまで生き残り、飢えに苦しんだ時間が単楽的なこの人生への罰だったのだ。だがそれももういいだろう。少女はそう思い、冬の冷たい川に身を投げた。
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