異端者のクリシェ 鏡の前でリボンタイを締める。襟を正して眼鏡を拭いて、皺一つないベストに糊のきいたワイシャツ。袖にアームカバーを嵌めて文机の前に座る。机がずらりと並んだ狭い部屋には紙の束とインクと熔けた蝋の匂い。声を落として話す人々。羽ペンが紙を走る音。文机はいつも判子をつくたびにかくんと揺れた。書類が陽に焼けないように小さく設えられた窓のおかげで建物の中はいつも薄暗い。それでもわたしはこの明るい闇の中にある秩序を好んでいる。いや、愛していると言っても差し支えないだろう。私はずり下がった眼鏡を鼻に押し上げると、次の方と人差し指を掲げながら呼びかけた。
床板を軋ませながら私の目の前に現れたのは、鶲のように薄青い髪をした青年だった。私が椅子を勧めると青年は目礼をしてから席に着いた。
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