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    60_chu

    @60_chu

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    60_chu

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    過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし

    #Pドル
    pDollar
    #諸星きらり
    kirariMoroboshi

    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
    「きらりさん、これもお願いしていいですか?」
     ショートボブにきりりと逞しい眉が似合う女の子が壁の飾り付けをしていた女の子に紫のモールを手渡す。受け取った女の子はにこっと微笑むと人懐こい表情でまっかせてとおどけて胸を軽く叩く。ふわふわのツインテールがレトリバーのしっぽみたいにゆれて。ハロウィンの仮装なのだろう真っ赤な悪魔の角がついたカチューシャも同じようにまたゆれて。あの子は「きらり」という名前らしいですね。
    「きらりちゃーん! 千鶴ちゃーん!」
     二人の幽霊がとてとてと走りよってくる。シーツから金と黒のツインテールが顔を出した。
    「とりっくおあとりーと!」
    「んーとぉ、お菓子はもってないからぁ」
     きらりちゃんはかがんで目線を合わせると、金色のツインテールの女の子をぐいと持ち上げる。
    「いたずらしちゃうにぃ☆」
    「たかーい!」
    「莉嘉ちゃんいいなぁ。みりあもみりあも!」
    「二人ともお持ち帰りしちゃうにぃ☆」
     鈴が鳴ったような笑い声に、微笑ましい気持ちになっちゃう。代わる代わるだっこするきらりちゃんもそれを見ている千鶴ちゃんも楽しそう。
    「きらりさんの悪魔だとさらわれても怖くなさそうですね。お菓子の家でおもてなしされそう」
    「千鶴ちゃんもすゆ?」
    「遠慮します!」
     たかいたかいが終わると二人は千鶴ちゃんに連れられて準備に戻っていくみたい。きらりちゃんは再び壁に向き直って続きをするのかな。必要なモールを手にとって残りは脚立の踏み板にかけておいて――
    「手伝おうか?」
    「ほぁ!」
     急な登場人物に私もびっくりです。
    「驚かせたかな?」
    「えへへ、急に声がしたから」
     私はビビビっと来ちゃいました。さては、この方、きらりちゃんの王子様なのでは? だって、きらりちゃんのほっぺが悪魔の角みたいに真っ赤になって、ツインテールがふわふわさっきよりゆれてる!
    「早く終わったから来てみたんだ。まだ準備中かなと思って」
    「ありがとぉ」
     王子様が脚立を登っていく。お揃いの紫色のモールを房飾りみたいにして。てっぺんに肘をつくと王子様ときらりちゃんは目線が同じ高さになったみたい。
    「きらりの見る景色はいいな。遠くまでみんなが見える」
    「そぉ?」
     もう、王子様! きらりちゃんは今はあなたしか見てないんだから、そっち見てあげて! 私の叫びが届いたのか、王子様はきらりちゃんと視線を交わすとはにかんで壁に手をついた。
    「おっと」
     バランスを崩しかけた王子様をきらりちゃんが支える。きゃあ。顔が近い。ユニゾンする心臓の音がこっちにまで聞こえそう。気をつけてね、ありがとうなんて平気なふりをしてるけどお顔が真っ赤ですよ。二人は慌ててすぐに体を離すとさっきよりも距離を空けて作業に戻る。千鶴ちゃんがいたずらをしたらしい莉嘉ちゃんをたしなめる声や、食器同士が立てる固い音、誰かの嬉しそうな鼻歌。ドキドキな雰囲気に、なんだかさっきよりも周りの音がはっきり聞こえるような。
     二人は黙々と手を動かしはじめたけど、きらりちゃんが項垂れているのを私は見逃しませんでした。私も気持ちはわかるから。いつだってあと一歩の踏み出し方ってわからないんだよね。その一歩が間違ってたらどうしようなんてずっと考えちゃったりして。赤い角に合わせた紅茶色のワンピースとその下のパニエがしぼんじゃってるように見える。私は気づいてもらえないのは承知の上で、きらりちゃんのための言葉を探す。背中についた深紅のコウモリの翼に手をかけて考える。
     勇気を出して。うーん、違うかな。がんばって。いや、月並みかも。あ、そうだ。
    「取り憑かれたことにしちゃえ」
     ちょっぴりいじわるで小悪魔なおばけにね!
     きらりちゃんの肩が私の声が聞こえたみたいにびくっと震える。下を向いていた顔を上げて一瞬だけ私の方を見つめて笑った、気がした。
    「あのね」
    「ん?」
    「テープ取ってもらってもいーい?」
    「ああ」
     きらりちゃんの方に上体を向けた王子様。脚立に乗り上げるようにしてテープをきらりちゃんの方へと差し出す。ぐんと近づく距離。少しだけ背伸びをしたきらりちゃんの手が王子様の肩にかかる。
    「どうぞ」
     多分、そう言いたかったんだろう。でもそれは言葉にならずにきらりちゃんの子犬みたいな唇の中へ吸い込まれる。ちゅって小さな小さな音が誰かの足音にかき消されてそれでもちゃんと、私の耳へと届く。
    「えっと、」
    「お顔真っ赤」
     驚いたままの王子様にきらりちゃんは照れながらこてんと胸に頭をもたれかけた。
    「いたずらしちゃったにぃ☆」
    「きらり……」
    「びっくりした?」
    「うん」
     脚立に乗った王子様としゃんと地面に立つきらりちゃんは、まるで逆さまのロミオとジュリエットみたい。ロミオ達ともう一つ違うところは二人は絶対の絶対にハッピーエンドだってとこ。
     あ、ほら。
    「きらり」
    「なぁに?」
     王子様が脚立の上でぐんと背筋を伸ばす。きらりちゃんを見下ろせるぐらい。それからそれから、そっと顔を近づけて――
    「あ」
     きらりちゃんが息をのむ声も驚いてまん丸になった瞳も、王子様はまとめて腕に巻いた紫色のモールをカーテンにして隠してしまう。さっきよりほんのちょっぴり長い時間二人の陰が重なって、そしてゆっくり離れていく。
    「俺もはぴはぴにできた、かな?」
    「うん!」
     あーあ、私が天使だったら二人の周りを飛び回って、ラッパを鳴らして祝福するのにな。でも、幽霊だからそれは叶わないので代わりに割れんばかりの拍手を贈ることにする。おめでとう、きらりちゃん! おめでとう、王子様!
    「ねーねー、みんなで記念写真撮ろうよ。いったんこっちに全員集合!」
     明るい声が二人の世界からパーティー会場へと引き戻す。きらりちゃんと王子様は一瞬だけ照れくさそうに笑い合うと、みんなが集まっているところへ歩き出した。
     気のせいかな。さっきよりもきらりちゃんの背筋がピンと伸びてる気がする。ううん。気のせいじゃないよね。だって、さっきよりちょっと大人になって、もっと素直になったんだもん。
     じゃあ、私はそろそろお暇しようかな。みんなのパーティーの邪魔しちゃ悪いし。
    「一緒に……来ないの……?」
     誰かの視線で次は私の背筋がピンと伸びる。振り向くと、色の白い小柄な女の子がこちらをじっと見ている。前髪で隠れていない方の瞳と目が合う。え? 見えてるの?
    「きっと、大丈夫……だよ……。」
     透き通るような金色の髪をした不思議な女の子に曳かれて、私はきらりちゃんと王子様が並んでいるところにふわりと舞い降りた。
    「いくよー。五」
     スポーツバッグと学生鞄を重ねた台に、セルフィーに設定したスマートフォンが鎮座している。瞳のようなレンズに向かってみんなの指がピースを象ってカウントダウンを続けていた。さっきの幽霊ちゃんたちは小さいので前方の真ん中あたりにぎゅっと固まって、それから千鶴ちゃんやお菓子の準備をしていた子たちはその後ろで中腰に。最後に、きらりちゃんと王子様など背の高い人たちがそのまた後ろに。特に大きな二人が真ん中で肩を寄せ合ってポーズをとっている。私はそのほんのちょっと後ろで二人の祝福の天使になったつもりで浮かんで見下ろします。あーあ。誰も見てないからって背中に腕なんか回しちゃって! いいぞ、その調子なんだから!
    「三、二、一!」
     フラッシュ無しに小気味いい音を立てて、シャッターが自動で押される。ばっちり撮れていることが確認された後、緊張した空気がふにゃりと弛む。きらりちゃんは別の女の子に呼ばれて給湯室の方へと消えていく、王子様もちびっ子たちに呼ばれてテーブルの方へ。しばしの別れ、ね。なんて。そんなからかいの言葉もひっこんでしまうくらい、愛に満ちた二人の視線が交差する。一秒にも満たない間だったけど、それは、なんていうか、スクランブル交差点の百万人の人混みではぐれても見つけるよとか、もし猫に生まれ変わってもキスしてあげるねとか、明日地球が滅びても手を繋いでいようね、みたいな。そんな壮大で絶対な二人だけの約束みたいだった。
     紅茶色のワンピースが揺れる。私はお幸せにと囁くとそうっと窓からおいとました。さようなら。きらりちゃんと王子様。

     お風呂から上がって部屋に戻ると、ローテーブルに置いていたスマートフォンがぶるぶると震えていた。通知に従ってメッセージアプリを開くとこの間事務所でやったハロウィンパーティーの画像を未央ちゃんが送ってくれたみたいだった。確認しようとすると、瞬く間に画面がお礼の言葉とスタンプで埋まる。そんな中「ありがとう」ではないメッセージに目が留まった。
    「きらりの」
    「肩のとこ」
    「なんか白くない?」
    「集合写真の」
     杏ちゃんの疑問を皮切りにみんながいっせいに思っていたらしいことを口にする。
    「私も思った」
    「なんか雲みたいなのあるよね」
    「心霊写真だったりして」
    「えっ こわいです」
    「見れないんですけど笑」
    「でも、なんだか不思議と怖くなくない?」
    「わかる」
    「それな」
    「きらり見た?」
     杏ちゃんから個別にリプライが飛んでくる。
    「まだみてない」
     そう返事をしてから汗ばんだ手で画面を何回かタップする。小動物の足跡みたいな音を立てて、指が触れる度に画面が切り替わる。スクロールすると思い出が下から上へと流れていく。正方形に切り取られた画像の一つをタップする。スマートフォンを横にして拡大する。怖いものを見ることになるかもしれないのに、あの日の唇の感触を思い出してドキドキしてしまう。親指と人差し指で自分をなぞる。なぞる度に私が大きくなる。隣のあの人より少しだけ大きな背をした私。あの日は悪魔の格好をしていたっけ。
     指を止める。薄いテラコッタのワンピースを着た私が満面の笑みでいつもの「にょわー」のポーズをとっている。その後ろにちょうど私の背中からはみ出るように確かにみんなの言っていた通り白いもやのようなものが見える。幽霊かと言われるとそうかも。けど。
     私はその画像をあの人に転送した。
    「何に見える?」
     そう送る前にメッセージが返ってくる。通知音が鳴りきる前に次々鳴って最後に来たメッセージに釘付けになる。
    「でも、その白いやつ天使の羽根みたいだよな」
     あ。
    「おんなじこと思ってたんだぁ」
     ベッドに寝転んでスマートフォンを抱きしめる。通知音が鳴り響くそれは小さな生き物みたいに胸の中で熱を持つ。あのとき、見守ってくれている何かがいた気がするから。私にほんのちょっとの勇気といたずら心を与えてくれた何かが。
    「なんて返信しようかにぃ」
     みんなにメッセージを返すのも髪の毛を乾かすのもちょっとだけ後回しにして、もう一度だけ悪い子になってあの人の返信を考えることにした。


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    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
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     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
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    DOODLE過去作

    カヅヒロ
    シンデレラは12センチのナイキを履いて まるで二人にだけピストルの音が聞こえたみたいに、まるきり同じタイミングでカヅキとヒロは青信号が点滅し始めたスクランブル交差点に向かって走っていった。二人はガードレールを飛び越えてあっという間に人ごみに消えていく。さっき撮り終わった映像のラッシュを見ていた僕は一瞬何が起こったかわからなくてたじろいだ。
    「速水くん達どうしちゃったのかな?」
     僕の隣で一緒にラッシュを確かめていた監督もさっぱりだという風に頭を振って尋ねてくる。
    「シンデレラに靴を返しに行ったんですよ。ほら」
    はじめは何がなんだかわからなかったけれど、僕はすぐに二人が何をしに行ったのか理解した。
     赤信号に変わった後の大通りにはさっきまであった人ごみが嘘のように誰もおらず、車だけがひっきりなしに行き交っている。車の向こう側から切れ切れに見える二人はベビーカーと若い夫婦を囲んで楽しそうに話していた。ぺこぺこと頭を下げて恐縮しきっている夫婦を宥めるようにヒロが手を振った。その右手には赤いスニーカーが握られている。手のひらにすっぽりと収まるぐらい小さなサイズだ。カヅキがヒロの背を軽く押す。ヒロは照れたように微笑んで肩をすくめるとベビーカーの前に跪いた。赤ちゃんは落とした靴にぴったりの小さな足をばたつかせる。ヒロはその左足をうやうやしく包んで爪先からスニーカーを履かせていく。
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