Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    すなの

    @sunanonano25

    👼😈👼
    書いたやつ‪‪𓂃 𓈒𓏸✎

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎢 🎆 🍹 🐤
    POIPOI 26

    すなの

    ☆quiet follow

    悪魔の機密資料アンソロ没原稿供養です🐈‍⬛
    アジクロ

    #アジクロ
    asbestos

    Equally cunning with dice 悪事に秘密はつきものだ。ゆえに、大概の悪魔は嘘が上手い。物理的に舌が二枚ある者もいるし、クロウリーのように姿かたちをまるっきり変えて相手を騙す者もいる。
    クロウリーはおかしな悪魔だった。言わく、「嘘で狼狽えるやつを眺めるのは好きだが、嘘自体は別に好きじゃない」らしい。嘘に限らず、彼は悪魔の仕事の大体においてこんなふうだった。そんなことを言いながら人を騙す訳でもないのにころころ姿を変えたりするのだから、全く変だ。当人はポリシーに沿って身なりを整えているだけなのでおかしいとは思っていないらしいが。
    そんな彼も変身を後悔したことがあった。それはやはり人間を騙すためでも、そもそも悪事を働くためのものですらなかった。……クロウリー以外の悪魔がやればとんでもない悪事にあたるかもしれない。天使へのいたずらなんてものは、そもそも彼以外の悪魔は考えつきもしないのだ。
    クロウリーは友だちの天使にいたずらをしかけるため、かわいらしい小さな猫に姿を変えたことがある。
    黒い被毛を選んだのは目の色が誤魔化しやすいから。あと万が一アジラフェル以外のだれか、例えばほかの天使か悪魔に正体がバレた時にふだんの自分とまるっきりかけ離れた格好で天使の膝でにゃんにゃん言ってるのなんて見られたら死ねるからだ。アジラフェルにバレるのでも同じだが、その時はさっさと元の姿に戻ってネタばらししてからお詫びとでも言ってディナーに誘うなりすればいい。幸い地獄は天国ほど奇跡の無駄遣いに厳しくない。浪費は美徳だ。入念に、非常に入念に姿かたちをすっかり変えてしまってからクロウリーは古書店の扉をカリカリと引っかいて心細げに「にぁお」と鳴いた。天使が見たらすぐに哀れんで膝の上に抱かずにいられないだろう儚げな佇まいだったが、アジラフェルは店の中で読書の最中なのか気づかない。辛抱強く小さな手で書店の扉をノックしては愛らしい声で店主を呼ばう。
    「ああら、どうしたの? ここの猫ちゃんかしら」
    そう言ってクロウリーを抱き上げたのは残念ながらお望みの天使ではなく、人間の老婦人だったが、彼女がそのまま戸を開けて「ちょっとフェルさん!」と店主を呼びつけてくれたおかげでやっと子猫のクロウリーは晴れてアジラフェルと対面することができたのだった。
    「お客様みたいよ、この猫ちゃん」
    「なんですって? 猫?」
    「そう、猫」
    差し出された子猫にアジラフェルはいかにも困ったふうに眉を下げた。ちょっと傷つかないこともないが、想定の範囲内だ。書店に動物を入れるなんて嫌がるに決まってる。
    「それから今月のテナント料のお支払いを……」とバッグの中の封筒を探る老婦人の腕からバタバタと手を伸ばす。バランスを崩して床に落っこちそうになるクロウリーをアジラフェルの手が慌てて受け止めた。
    ふくふくとした手に背中を受け止められて、おもわず「あっ」と声が出そうになった。
    「危ないよ」と頭を撫でられると両耳もぜんぶ一緒に手の中に収まってしまう。背すじがぞわぞわしてしっぽがふくらむ。
    アジラフェルが小さなものに向ける慈しみを、やさしい天使の手のひらを引け目なく味わってみたいと思った。
    大きな手に雑にひっくり返されて腹をまじまじと見つめられる。視線は甘く痺れを生んでクロウリーを身動ぎできなくさせた。親指がそっと毛並みを分けて恥ずかしいところを探ってくる。想像していたのより荒っぽい手つきで触れられて、それがまたよかった。ふだんの姿だったらどんなに頼み込んでもこんなふうに無遠慮な指で髪を乱してくれたりしないだろう。
    「女の子かな……いや、しかし困りますよ。本屋に猫なんて」
    「そんなこと言って、ずいぶんしっかり抱っこしてらっしゃるわ。その子も私よりあなたがいいみたいよ」
    婦人が「もしも本当にこのお店に置けないなら孫に相談してみますからおっしゃってね」と言い残して書店を去ってから、アジラフェルはそわそわと何度か腕の中の子猫と店のドアとを見比べて看板を下げるか逡巡したようだった。
    「……まあいいだろう。君もここにいるならお客が来たらちゃんと出迎えないといけないからね」
    言うが早いか、アジラフェルはクロウリーを胸に抱いてさっと店の奥へ引っ込むといつもの椅子へ腰掛けて、改めて子猫を膝の上に招いた。見下ろしてくる目の蕩けようといったら!
    「ようこそお嬢さん」
    そう呼びかけられたクロウリーの方も大概骨抜きになってしまっていて「にゃあ」と返事をするのがやっとだった。
    「ああ……かわいい君、お名前は? 」
    頭の隅では猫に名前を訪ねるなんておかしな天使だと思ったが、この体ではそもそもそんなふうに打ち返す言葉もないし、そうする必要もない。爪の先までめろめろになってアジラフェルの太ももを弱く引っ掻く。
    「大人しくていい子だね。みんなともうまくやってくれそうだ」
    みんな? みんなって誰だ? 不思議に思って目を上げると、押さえ込まれるように額を撫でつけられてすぐにそんなことどうでもよくなってしまう。「にぁう……」と小さく鳴いたのを肯定と取ったらしいアジラフェルが満足気に笑う。
    「私は趣味でマジックを嗜んでいてね」
    一瞬で目が覚めた。今それがなにか俺の処遇に関係あるか?
    「私には君みたいな……帽子の中から出てきたり、瞬間移動したりしてマジックのお手伝いをしてくれるお友だちがいるんだけど、その子たちとも仲よくやってくれるとうれしいな」
    逃げよう。これはよくない。
    クロウリーはそっと体を起こして書店の入口を確認した。閉店の札は出ていない。奇跡的に客が入ってきたらすぐにこの膝の上から降りて外へ逃げなければ。悪魔は喉を鳴らすのをすっかり止めて表の通りに誘惑のつけ入る隙があるやつを探した。突然今夜どうしても古くさい官能小説を家に呼びたくなった男が書店の前で立ち止まる。
    「そうだ、君の名前なんだけれどこういうのはどう? ミスト……」
    チリン、とドアベルが鳴ると同時にアジラフェルの膝を駆け下りた子猫は素早く外へ飛び出すとマジシャンのように姿を消した。後に残されたアジラフェルは急いで彼を追いかけたが、すでに往来にそれらしい姿はない。しょんぼりして店に戻ると、いつ訪ねてきたのか友だちの悪魔がさっき入ってきた客になにやら言い聞かせていた。
    「ようエンジェル、こちらのお客様がここの本を所望されたのでお前の代わりに違う娯楽をおすすめしてたところだ」
    首を傾げながら店を出ていくお客にクロウリーは珍しく愛想よく手なんか振ってやっている。
    「あー……クロウリー、今店に来たところか?」
    「そうだ。さっき来た」
    「来る時、猫を見なかったか? 小さな黒猫を……」
    「いいや? 見なかったけど」
    がっくりと肩を落とす天使を見るとさすがに心が痛んだが、あのままでは自分の方がかわいそうな目に遭っていただろう。
    「この辺で生まれたやつならまた見かけることもあるんじゃないか? 見かけないなら誰か優しい人間に拾われたんだろうさ」
    そう言ってやると渋々だが「うん……」と頷いてみせたので、飲みにでも行こうと店を連れ出す。その夜は天使がいつまでもさみしそうにするので、結局翌日のランチまで付き合ってやった。
    落ち込むアジラフェルがあまりにかわいそうだったし、二度目は逃げおおせる自信もなかった。だからもうあの変身は二度とやらないし、アジラフェルにも永遠に秘密にするつもりだ。
    ただ、体を撫でてくれた大きくてあたたかな手のひらの感触はたまに思い出す。あれはよかった。

    アジラフェルはアジラフェルで、ほんのわずかな時間ではあったが心を通わせたかわいい子猫のことを時々思い出したりする。せっかく膝に乗ってくれたのにキスする前に逃げてしまった。またふらりと姿を見せてくれたりしないだろうか。
    天使はそこら辺の通りで生まれる猫や犬なんかの小さな生きものを人間と同じくかわいく思っているが、いちいち彼らの名前を気にしたりはしない。だれか一匹に入れこんだりもしないということを、悪魔はどうやら知らないらしい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💖🙏😭❤❤❤❤❤❤🐈
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
    2330

    related works

    recommended works