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    HanaO0na0o

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    HanaO0na0o

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    嘘つき駒鳥、食べられる 初夏の柔らかな光が差し込む自室で、姿見の前に腰掛けると髪がさらりと揺れるのを感じる。
     背後に立ったジュードさんは髪を掬い取るとゆっくりとブラシを通した。
     恋人たちの時間の始まりだ。

    「俺の留守中、一歩も部屋から出てへんやろな」
    「……はい。ずっと部屋にいました」

     優しくブラッシングをされながら、鏡の中で赤い唇が嘘を語る動きを見つめる。
    (クラウンの私室でみんなとお茶会をしたなんて絶対に言えない…!)
     そもそも部屋からの外出禁止は一方的な命令で、約束ではない。それを言い訳として、堂々と嘘を吐くしかない。

    「それならええわ。近頃フォーゲルの奴らがおかしな動きしてはるからな」
    「ニカはいつもどおりに見えましたけど」
    「お前に悟られるほどの阿呆やないってことやろ」
     意地悪な言葉に頬をぷくっと膨らませながらも、嘘がバレなかったことに胸を撫で下ろす。 

     こっそりと鏡に映るジュードさんに目線を動かしても視線は交わらない。彼はブラシを通すたびに光を反射させる髪ばかりを眺めていた。
     そのまま恋人にブラッシングをされるゆったりとした時間に身を預けていると、髪を整え終えたようでブラシが台に置かれた。静かな部屋にことりと音が響く。

    「ほんまにいい子にしてたんやろな」
    「えっ、もちろんそうですよ」
     何気ない確認に動揺してしまった。
     こういう時は普段どおりに振る舞うのがいいはずだ。いつもの私ならきっとご褒美を期待するに決まってる。

    「えらいですか?」
    「はいはい。言いつけ守れてえらいえらい」
     素っ気ない口調で、ジュードさんが一本の乱れもない髪に両指を滑らせた。その指先の優しさにきゅんと胸が締め付けられる。嘘がバレないように自然体に振る舞おうというのは建前で、大好きなこの人に甘えたい欲求に素直に従う。
    「ご褒美に撫でてください」
    「はっ」
     彼は要望に答えてくれた。大きな掌で頭を撫でられると気持ちがいい。嘘を吐いた罪悪感がちくりと胸を指したけれど、心地よさが勝ってうっとりと瞳を閉じる。

    「呪いに従順な子犬やな」
     ジュードさんが頭を撫でていた手を頬にするりと滑らせた。その掌に頬ずりをすると、彼は目を細めた。
     しばらくすり寄る頬の感触を味わっていたジュードさんは小さくほくそ笑んでから、静かに窓の外に視線を向けた。

    「そういやお前が気にしとった花。やっと開いたんやな?色が見えとるわ」
    「そうなんです!今朝から開き始めたんですよ。色鮮やかで綺麗ですよね」

     明るい声を発したその時。ふっと冷笑がうかんで、柔らかな空気が消えた。片方の口端が無慈悲に吊り上がる様にぞくっとする。

    「あぁ間違った」
    「え……」  
    「この部屋から見えとるんは、まだがくん中やわ。しっかりつぼんでるで」

     さぁ…と血の気が引いていく。咲くのを心待ちにしていた花は広い庭園の各所に植えられているのだ。

    「なぁ、どの部屋から見たん?」
     その低い囁きに美しい花びらはまだ暗闇の中にあるんだな、なんて思わされる。
     言葉が出ずに黙り込んでいると、指の腹が唇をひと撫ですると口内に無遠慮に入り込む。
    「んぅっ」
     指で舌を挟まれて、くにくにと弄られる。顔を上げれば、涙目の苦しげな顔をつまらなそうにみつめ返される。その瞳は冷ややかだ。
    「おら、ごめんなさいは?」
    「っ…。こ、ぇん……ら…」
    「ふはっ。なに言うとるか、わからんわ」
     ジュードさんが指で舌を虐めるせいなのに。
     それでも、いつもどおりの嗤い声が上がって、本気で怒ってないことがわかった。
     安心すると今度は虐め倒される予感がひしひしと湧いてくる。こんな時、彼がどれほど愉しそうに私を虐めるのか痛いほど知っている。

    「嘘つきは舌ぬかれるって教わらなかったん」
    「んっ、それ知ってますけど、私の家では嘘つきは鼻のびるって」
    「あぁ……ドMらしいおねだりなこって」

     鼻先をつままれて左右にゆすられて、たまらずに声をあげる。

    「俺が帰るまで部屋出るないうたやろ」
    「でも……みんなで部屋に籠もって食事をすればフォーゲルさんなんか怖くないって、アルフォンスさんが……」
    「はぁ?頭も貞操観念ブッ壊れてるんか」 

     誰の部屋でヴィランたちと集まったのかを洗いざらい吐くと、大きなため息が吐かれた。
     お姫様抱っこでベッドまで運ばれると、ぽいっとマットレスへ放られた。お仕置きなんてされたくない。慈悲を求めて許しを懇願しようという思いつきは、覆いかぶさってきた迷いなき嘲笑で砕け散った。
     ジュードさんは嘘を吐いた唇に甘噛をした。
    「舌抜かれた奴、鼻が伸びた奴。それから――」
    「んっ」
    「狼に食われた嘘つきもおったっけ?」
     身の危険を感じて暴れても無駄だった。その宣言どおり嘘吐きな駒鳥わたしはぱくりと食べられてしまったのだ。
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