こういう話が読みたい。「残念だね、勇敢なる少年」
激痛と、焦げ付きそうなほどの熱と、脳が溶けてしまいそうな気味の悪い感覚が今にも途切れそうな意識を揺さぶる。
ここで倒れては駄目だ。何もなさずに終わっては駄目だ。それでは意味がない。
全て、全部、捨ててきた意味がない。
「君のような優秀で度胸もある有望な人材を失くすのは本当に惜しいよ」
守りたいから捨てたのだ。
大切だから。
大好きだから。
「でも、君ひとり如きの力では出来ることなどないんだよ」
この先も、皆にはずっと、幸せに笑っていてほしいから。
体中に纏わりついたコードを振り払いたいのに、指先1つ動かない。
俯くことも許されない状態で、視線に込める殺意だけは無くさなかった。
「…本当に、立派な子だね」
猫を撫でるような声とは裏腹に、冷えた目で見返してきた男が指先を振る。
「 !!!!?、!」
コードを通して身体中を駆け抜けた痛みに指先や頭が弾け飛んだようだった。
声として認識できない自分の声を聞いて、男がほくそ笑んだのが白濁した視界の向こうに見えた。
パリパリと肌が小さな音を立てる。焦げ付いた臭いがどこから来ているのか確かめるすべもなかった。
開いた口から飲み込む力も無くした唾液が溢れて伝う。
だめだ。まだ。
尋常ではない速さで胸を打つ心臓が、ビリビリと震えているような脳が、もう限界だと訴えている。
わかってる。でも、あと、少しだけ。
聴こえたのは、小さな音。
随分昔に録音していた、小さな相棒が両手を打ち鳴らす音。
かつて毎日、毎秒聞いていた、大好きな音。
ああ、良かった。
「…なんだ?」
違和感を覚えたのだろう、男が辺りを見回す気配がした。
もうよく見えない。でも、もう、良い。
こんな合図に使ってごめんね。
ここにはいない、もう立派に育った相棒に心の中で謝る。
でも、最後は、少しでも、
「…ライブの、クライマックス、は、」
傍にいてほしかった。
「やっぱ、派手に、…いかないと、ね」
その夜、パルデアの夜空を真昼のような閃光が覆った。