南泉一文字の受難とある本丸の南泉一文字は悩んでいた。
自身の猫の呪いでは無い、確かにそれも多少はあるがそれは極めてからはある程度受け入れると決めた。
では何に悩んでいるのか。
廊下を歩けば曲がり角で鯰尾藤四郎とまるで少女漫画のワンシーンのようにぶつかった。
階段を登れば躓いた後藤藤四郎が降ってきてお姫様抱っこをする羽目になった。
中庭を散歩していれば屈んでいた五月雨江に気付かず覆い被さるように転けた。
部屋から出るため障子を開けるとたまたま居合わせた物吉と正面からぶつかり慌てて抱きしめた。
出陣すれば敵を斬ったその勢いが止められずその先にいた山姥切長義を押し倒すような構図になった。
「......おや、猫殺しくんはこういう趣味がおありで?」
「ちっげーーーーーーよ!!!!!!」
そう、南泉一文字は自分のこのハプニング体質に悩んでいた。
「まあ、良かったじゃないですか。ラッキースケベ体質じゃなくて」
鯰尾は机の上に常備されてる胡麻煎餅をバリバリと食べながらそう言う。
「それだったらとっくに刀解をお願いしてる、にゃ」
「でもさっき転けそうだった僕を支えてくれた南泉さん、格好良かったですよ〜?」
寝転がり不貞腐れてる南泉を励ますように物吉は笑顔でそう言うが、「そういう問題じゃないんだよなぁ〜」と愚痴をこぼす。
「実害が無いなら別に悩まなくても良くない?南泉的にNG?」
「オレ的にというか、一文字的に...?日光の兄貴とかお頭とかにこんな事したらマジで折れそうだにゃぁ...」
「確かに……まあでも、不可抗力なら仕方ないですよね!ね、鯰尾くん」
「そうだね物吉!ほら南泉、この煎餅でも食べて元気出して。いち兄から貰ったやつだから美味しいよ〜?」
ぽいっと投げられた煎餅をキャッチして起き上がり、袋をあけバリバリ食べ始める。
「その体質ってそんな困るの?別に良いじゃん!かっこ悪い姿晒す訳でもないし」
「せめて相手が選べれるなら困らないんだけどよぉ...」
「でも、それは南泉さんが気をつければ解決できませんか?例えば転びそうになった時ちゃんと踏ん張るとか、ぶつかりそうだったら躱すとか...」
「それだとオレがまるでドジっ子みたいな言い分だな?」
「実際ドジっ子じゃないですか。さっきも山姥切さんを押し倒してたし」
「あれは事故だ!わざとじゃねぇ!」
「へぇ、俺にあんなことをしておいて責任を取らずに“事故”で一蹴するんだ見損なったよ猫殺しくん?」
「ゲェ...面倒なやつが来た...」
スパンと襖を開けてやってきたのは山姥切長義、その顔は南泉を弄り倒す気満々の笑顔だ。
「あーあ、可哀想な山姥切さん!俺だったらちゃーんと責任を取ってあげるのに」
「ふふ...鯰尾は良い子だね、俺も猫殺しくんから鯰尾に乗り換えてしまおうかな〜?」
「...、...南泉さん、僕はこのノリに乗るべきなんでしょうか?」
「無視でいいにゃ」
鯰尾と山姥切が戯れている中南泉は煎餅を食べ終わり、袋の口を丁寧に折りたたんでからゴミ箱に捨てる。そしてそのまま立ち上がり茶番をしている二振りを無視して部屋を出ていく。鯰尾と山姥切も突っ込んでくれないと分かると早々にじゃれ合いを止め南泉の後に続く。
「...なんで着いてくんだよ」
「「面白そうだから?」」
「...ですね!」
「山姥切と鯰尾ならまだしも、物吉まで...まあいいけどよ、ちょっかいかけんなよ」
南泉は後ろに続く三振りに呆れながらも特に気にせずそのまま歩き始める。
「ちなみにどこへ行くつもりなのかな?」
「主の部屋だよ。解決策として1番手っ取り早いだろ」
「まさか南泉さん、主さんにもその体質を使って...!?」
「そんなことしたら各方面から刺されるにゃ!!!」
鯰尾のぶっ飛んだ思考にすぐさまツッコミを入れる。全く、この鯰尾藤四郎はどこか愉快犯なところがあるから油断ならない。
そうこうしているうちに審神者の部屋の前まで来た。
「主、南泉一文字だけど、入ってもいいか……にゃ?」
「ああ南泉、どうぞ?」
許可をもらい襖を開ければそこには審神者と近侍の陸奥守がいた。どうやら政府へ提出する書類の整理をしていたようだ。
「もしかして、邪魔したか...?」
「いや、今ちょうど終わったところだから問題ないよ。それで、用事はなんだった?」
「あー...その、ちょっと聞きたいんだけどよぉ...、最近オレが誰かと居合わせた時にこう、なんか抱きとめたり押し倒したりする事多いだろ?あれって体質だから不可抗力なんじゃないかって言われて...」
「うんうん」
「……オレのこの体質を治す方法ってあるか?にゃ」
南泉は審神者にそう聞いた。後ろにいた鯰尾、物吉、山姥切は特に口出しをせずにことの成り行きを眺めていた。
「うーん、体質を治すのはちょっと難しいかな」
「......だよなぁ」
「もう個体差だと思って諦めたら?別に出陣とか任務に支障はきたしてないみたいだし」
「まあ、そうなんだけどよぉ…」
南泉ははぁ〜っとため息をつきながら自身の手に目線を下ろし指先を動かす。
「……ふむ、じゃあこれはどうかな?」
審神者が机から離れ部屋の隅にある棚から1枚の御札を取りだした。
「なんだこれ?」
「それはね、『ラッキースケベ体質解除の御札』だよ。この間物好きな審神者の友達からもらってね」
「...え、オレ別にラッキースケベ体質じゃ無いんだけど?」
「まあ両方ともハプニング体質ってことでだいたい一緒でしょ」
審神者は御札を机の上に置き南泉に手渡す。受け取った南泉はじーっとその御札を見るが特に変わった様子は無い。
だが、審神者の“だいたい一緒”という言葉に少し引っ掛かりを覚える。あまりにも適当すぎる、一緒じゃねーだろ、と。
この御札……本当に効果あるのか?と疑い始めた時、鯰尾が口を開いた。
「まあ、物は試しですよ!背中にでも貼っておきます?」
「とりあえず今日は様子見、ということでいいんじゃないですか?」
鯰尾の提案に物吉が意見する。御札が効力を発するには少なくとも一日はかかるだろう、との事だった。南泉は渋々ながら背中に張りつけ、自身の服で隠すように貼った。
「……これで体質治ると思うか?」
「まあ、多分?とりあえず様子見だね」
「主さま!もしこの御札の効果が出なかったらどうします?」
「うーん、その時はまた考えるよ。じゃあとりあえず今日は解散で!」
審神者の一言に鯰尾は元気よく返事をし、南泉と物吉は一礼してから部屋を後にした。山姥切もそれに続いて部屋を出ようとするが、ふと立ち止まり審神者の方へ振り返る。
「主」
「ん?なに?」
「その御札ってどこで手に入れたのかな?ちょっと気になるんだけど……」
「あ〜、これはね......」
審神者は周りに聞こえぬようにこそっと山姥切へ耳打ちをした。
「そういうことに精通してる友人の手作りだよ」
それを聞いた瞬間山姥切の顔色が変わり、「はぁ!?」と大きな声を出した。
「主!それは本当に大丈夫なものなんだろうな!?」
「大丈夫だよ!ちゃんと政府に届け出てるらしいし、許可も取ってあるから」
「でも...いや、まあそれならいいけど。じゃあ俺はこれで失礼するよ」
納得はしていないもののとりあえず納得したらしい山姥切はそのまま部屋を出ていった。
翌日、朝餉を食べ終わり南泉は自室で寛いでいた。鯰尾と物吉は出陣や遠征で本丸を留守にしているし、山姥切は非番のためどこかへ出かけたらしい。
暇だにゃ〜……と寝転がりながら天井を見ていると部屋の襖がすぱーん!と開かれる。そこにはご機嫌な陸奥守吉行がいた。
「おはようさん南泉!!はよ主んとこへ行くぜよ〜!」
「はっ!?なんだよ陸奥守、オレは今日は非番……」
「ええから!早う来いや〜!!」
南泉の首根っこを掴みズルズルと引きずりながら審神者の部屋へと向かう。道中何度もなんでだよとか離せとか言ってみるが聞き耳を立ててもらえずそのまま部屋まで来てしまった。
「主ー!!連れてきたぜよ!」
「ありがとうむっちゃん」
「なんだよマジで!?説明しろにゃ!!」
引っ張られて伸びた内番のフードの形を治しながら不機嫌そうな顔で叫ぶ。
「いやぁ...あの〜単刀直入に言うんだけど、昨日渡した札、『ラッキースケベ体質解除の御札』じゃなくて『ラッキースケベ体質の御札』渡したみたいで...」
「はぁ!?」
審神者の一言に思わず南泉は大声を出す。
「主、どういうことか説明してくれにゃ!!?」
「完全に渡し間違いです」
「じゃああの昨日貼った御札の効果って……?」
「はい、ラッキースケベ体質が発動します」
それを聞いて頭を抱える南泉。そんなまさか……と信じられないといった顔で呆然としていた。
「解除の御札渡しておくけど、効くのに一日かかるんだよね。...なので今日1日、頑張ってね!」
審神者の無慈悲な一言に南泉は膝から崩れ落ちた。
「あぁ......もうダメだ、今まででさえ恥だったのにこれ以上とかシンプル無理だにゃぁ...!!!」
南泉の悲痛の叫びは本丸中に響き渡った。
「どら猫、少し...」
「入ってこないでください、にゃ」
「何故だ」
「なんでもにゃ」
「おい」
「すんません日光の兄貴、今来られるとちょっと……」
「……ほう?」
昼頃、南泉と日光一文字は廊下で攻防を繰り広げていた。するとそこへ帰ってきた山姥切が通りかかる。
「日光?南泉の部屋の前で何をしているのかな?」
「山姥切長義か、ちょうど良いところに帰ってきた」
「え?」
日光は山姥切の腕をガシッと掴む。そしてそのまま南泉の部屋の中へ引きずり込んでいった。
「ちょ!?ちょっと日光!一体何なんなのかな!!」
山姥切がそう叫ぶも日光は無視して南泉の部屋に入り襖をピシャッと閉める。
「どら猫、説明しろ」
「いや……あの……」
「早く言え」
「……はい」
「...え?なんで俺巻き込まれたのかな?」
「山姥切が居れば場が和むかと。さあどら猫、話せ」
「俺はマスコットでは無いのだけれど...??」
有無を言わせぬ空気で日光に睨まれた南泉は大人しく説明し始める。
南泉は自分がハプニング引き起こし体質だということ、審神者が持ってきた御札で昨日からその体質を治すことができたと思っていたが実際はそうではなく“ラッキースケベ体質”になる方だったと。そしてこの運によって自分はおろか周りの人にまで迷惑をかけてしまうと。
それを聞いた日光は部屋を見渡しふむ、と少し考えるような素振りをする。
「山姥切、ラッキースケベとはなんだ」
「俺に聞かないでくれるかな……」
日光の言葉に山姥切はため息を着く。
「……まあ、簡単に言えばエロハプニングだ。」
山姥切がそう言うと日光はなるほど……と呟き再度部屋を見渡した。
「ふむ、どら猫。少し立ってみろ」
「え、なんで?」
「いいから立て」
南泉は首を傾げながらも言われた通りに立ち上がった。すると日光は南泉の後ろへ周り込みそのまま腰に手を回すように抱きつき始めた。
「こういうことか?」
「...いや、そうじゃないかな」
「...そうじゃないです、にゃ...」
南泉は若干青ざめた顔で日光にツッコミを入れる。すると日光はそうか、とそこから離れようとした時、バランスを崩して南泉の方へと倒れ込む。南泉は何とか体を支えようとするが、なぜだかわからないけれどその手は日光の服の隙間にするりと入り込んだ。
「ぁ、あああああああああ兄貴!!」
「...これか!」
「...俺は、見なかった振りをするべきか...?」
押しのけようとしてもお互い焦って上手くできず、その場でぎゃあぎゃあと騒ぎながらどうしようかと焦っているうちに部屋の外から一文字則宗が顔を覗かせてきた。
「どうしたんだ、騒がし...」
「あっ。すまない一文字則宗...!」
則宗が眼前の光景を目にする前に山姥切は彼を思いっきり殴打し気絶させた。
「や、山姥切!御前になんてことしてんだにゃ!!?」
「いや、だって...一文字のこんなみだらな行為を彼に見られたら不味いかと思って...?」
「お、おう...まぁ、そうだけどよぉ...」
確実にお互い混乱しているであろうそんな会話をしている時南泉にじわりと肌が熱くなる感触が伝わる。それを感じとった南泉は顔を赤くし日光から素早く離れようとした。だがそれが仇となり体勢を崩しまた日光の方へ倒れ込みそうになるのを今度は日光が受け止めた。そしてその衝動を抑えるよう南泉を抱きしめるような形で床に倒れ込む。
「…どら猫」
「……はい」
「これ以上犠牲者は増やしてはならないぞ」
「...う、うす...にゃ...」
日光は南泉から離れるとゆっくり立ち上がり、南泉を引っ張り起こしてから襖へ手をかける。
「気を付けろよ」
そう言って日光は部屋を出て、ついでに気絶している則宗を拾って自室へと帰っていった。
「難儀だね、猫殺しくん」
「おめーも近づくんじゃねぇぞ??」
南泉は鋭い目付きで山姥切を睨みつける。
「まぁ、巻き込まれたくないからね。...ところで猫殺しくん」
「あ?」
「解除の御札って今どこに貼ってるのかな?」
「え?昨日のおなじ背中だけど...」
南泉が立ち上がって服をめくり、ほらココと指をさす。それをじーっと眺める山姥切。
「……なぜ逆向きに貼ってるんだ?」
「え?……あっ……」
山姥切に言われて初めて南泉は気づいた。
「気になる。貼り直すから背中貸しなよ」
「ちょ...だから今の俺に近付くなって...」
南泉が勢いよく振り返る。その眼前には山姥切の顔。そしてそのまま唇と唇が重なる...までは行かなかったが、已の所で大事故を逃れた。
「……」
「.........」
2人は見つめ合ったまま固まる。先に沈黙を破ったのは山姥切だった。
「...へぇ、ラッキースケベってこういう感じなのかな?面白いじゃないか」
「うぅぁぁぁあああああ!!」
南泉はそのまま叫びながら部屋から飛び出して行った。1人取り残された山姥切は南泉から剥がした御札を見つめる。
「...いや、せめて持ってけよこれ!!」
山姥切はその御札をしっかりと手に持ち、飛び出した南泉を追いかけた。
「もう無理だにゃ...」
南泉は中庭の池の前にしゃがみ込み、池の中にいる鯉に向かって話しかける。
「お前らはいいよなぁ、こうやって近くにいても何も起きねぇし...」
南泉がそう言いながら鯉に手を伸ばそうとすると水面が波立ち、ピシャーン!!と鯉が勢い良く飛び上がる。まるで南泉の言葉に反応するかのように。
そして再び鯉は池の中へと潜っていった。それを眺めながらはぁ……と深いため息をつく。
「こんなところでどうしたんだ、南泉...?」
そう声をかけたのは山姥切国広。深く被っている布を少しだけ上げ、心配そうに南泉のことを見ていた。
「おぉ……国広の方か」
「……なんか元気が無いな、どうした?」
「いや……」
南泉は昨日あったことを全て話した。御札の効果でラッキースケベ体質になってしまったこと、そのせいで今現在周りに迷惑をかけているという事、そしてもう被害者が出ているという事。
「なるほど……それは災難だな……」
話を聞いた国広が憐れみの眼差しを向けると南泉はまたはぁ〜っと大きなため息をついた。
「あの、俺に出来ることであれば協力はするが...」
「……いや、いい。お前を巻き込む訳にはいかねぇ」
「しかし……」
そう国広が言いかけた時、バタバタと足音が聞こえてきた。そしてその後何者かに布をぐいっと引っ張られる。何事かと思い二振りとも後ろを向けばそこには山姥切長義が立っていた。
「猫殺しくん...札置いて行くなよ」
「あ、山姥切...あぁ、札...ありがとな...」
山姥切は南泉から気まずそうに御札を受け取ると向きを確かめてそのまま雑背中に貼り直す。そして山姥切は国広の方を見て口を開いた。
「じゃあ俺はこれで失礼するよ。……猫殺しくんをよろしく頼むよ、偽物くん」
「よ、よろしく……?写しは偽物とは違うが……分かった...」
そう言って二振りはそのまま別れた。残された南泉と国広はお互い見つめ合い、どうしたものかと思案する。
「あの、写しの俺なんかが心配するのは差し出がましいかもしれないが...南泉、本歌と喧嘩でもしたのか...?」
先程のやり取りに二振りの間では普段感じることの無い気まずさを察したのか、国広は南泉にそう尋ねる。
「あー、喧嘩ではねぇけど、なんかこう色々あって気まずいというか...」
南泉は視線を泳がせながらごにょごにょと呟く。それを見た国広は少し考えた後ポンっと手を打った。
「分かった。本歌から距離を置きたいんだな?」
「いや、そういうわけじゃ...」
「だったら俺が少し匿ってやる、写しに出来ることといえばこれくらいしかないからな」
「いやだからちげぇって!」
南泉の言うことなど聞く素振りも見せない国広は布をバサッと広げ、そこに南泉を引き入れてすっぽりと覆い隠す。そしてそのまま彼を抱えて自室へと向かった。
「ほんっとに、山姥切の付く刀はなんでこうも人の話を聞かないんだにゃ?」
「...ということがあってしばらく南泉を部屋に置いておきたいのだが...」
「うん、兄弟。理由は分かったけど南泉さんはそれに同意してるの?」
「もう好きにしろにゃ」
「だそうだ」
「うーん、僕はあまり賛成しないかな。南泉さんは渋々同意してる訳なんだし」
「だが……」
国広は南泉と並んで正座をし、目の前には堀川と山伏が腕組みをしながら座っていた。
「そもそもうち(堀川部屋)に連れてきたからと言って南泉さんの体質が治まるって訳じゃないんでしょ?なら南泉さんの部屋に返してあげるのが正解なんじゃないの?」
「……しかし」
「しかしも何も無い!ほら兄弟。責任をもって南泉殿を部屋へ送り届けてくるのである」
「分かった……」
山伏の気迫に押される形で国広は南泉を抱えながら部屋を後にした。そしてそのまま南泉の部屋まで送り届けて部屋を出ようとしたら南泉から声をかけられた。
「...なんでそんな頑なにオレを部屋に連れて行こうとしたんだ?」
部屋に置かれた座布団の上であぐらをかきながら南泉がそう言う。
「...仲良くなれるかと思って...本歌と南泉のように」
「そんなの、いつでも来ればいいにゃ」
南泉はそんなことかと言った顔で笑い、そう言う。
「今度、一緒に万事屋に行くか?」
「...いいのか?」
「いいに決まってるだろ?ほらもうお前も部屋に帰りな、にゃ」
国広はありがとう、とだけ呟き少し笑ってその場から立ち去った。
それからしばらく時間が経ち、昼餉の時間となった。南泉はもう犠牲者を増やさないという日光との約束を守るべくいつもと時間をずらして厨へと向かった。
「誰も、居ねぇよな...?」
キョロキョロと辺りを見渡し、そこらに誰もいないことを確認してから厨へ入り何を作ろうか思案する。
この本丸の昼餉は各自作るようにと決まっている。そのため食材は豊富に貯蓄されている。南泉はそれを眺めながら何を作るか悩んでいると、ふと背後に気配を感じた。
「珍しいね、南泉くんが遅めに昼餉って。何か作るのかな?」
「ゃっ!?し、燭台切...!」
いきなり話しかけられ南泉は鳴き声をあげる。そんな姿を見て燭台切はニコッ笑う。
「どうしたの?そんなに驚くことかな?」
「いや、少し……考え事してて……」
「へぇ、何か悩み事かい?」
「……まあ、うん」
歯切れ悪く答える南泉を見て燭台切は少し考えるような素振りをする。そして何かを思いついたように手を叩くと南泉にこう提案した。
「じゃあ僕と一緒に昼餉を作ろうか!実は僕もまだ食べてなくてね。一振よりも二振り分作る方が楽だしね!」
「へ!?い、いいのか……にゃ?」
「もちろん!じゃあ早速作ろうか!」
「……おう」
南泉と燭台切はさっそく料理に取り掛かった。普段あまり料理しない南泉にとってまさかの助っ人に内心ラッキーと思った。しかしそれと同時になにか起きるんじゃないかという不安もあった。こんなところでラッキースケベなんて起こしたら大事故では済まないだろう、火元も近いし物は多いし...。南泉は不安になりながらも調理を進めた。すると燭台切が調味料を取ろうと横を向いた時、ボウルとまな板を洗おうとしていた南泉の肩が燭台切の肘に当たる。そしてそのまま体勢を崩した燭台切は南泉の方へ倒れ込みそうになりそれをなんとか堪えようとする。
「危な......っ!」
間一髪で何とか踏ん張った二振りだったがその努力も虚しく一緒になって床になだれ込む。するとどういうことか、南泉は燭台切の胸元に顔面から突っ込んだ。
「えっ……ちょ、南泉くん……??」
燭台切は心配そうに問いかけるが南泉は押し黙っている。彼の方を見上げるともう何もかもを悟ったような目をしていた。
「こうなる...こうなる気はしてたけどよぉ...っ!!!」
南泉はそう言いながらスっと立ち上がる。そして少し間を置いてから、はぁ……っと大きなため息をついた。
「もうなんかどうでも良くなってきたにゃ」
「……え?あ、うん……?」
そんなやり取りをしていると厨に誰かが入ってくる。
「おや、お二方とも。何をなさって...何をなさっているのですか!?」
そこには一期一振が立っていた。ことの一部始終を見ていたのか少し困惑した顔で彼らの事を一瞥し、厨の中へと足を踏み入れた。
「一期、悪いことは言わない、今の俺に近づかない方がいいにゃ」
「どうしてです?燭台切殿は……何故少し顔が赤いのですか、本当にやましい事があったのですか?」
「無いよ!?無い無い、僕がたまたま転けちゃっただけで...」
「分かった、分かった説明するから落ち着いてくれにゃ」
南泉は燭台切と一期をなだめ、こうなった経緯を説明した。ついでに己の不幸体質についても。
「なるほど……そういうことでしたか」
「南泉くん、それ最初に言って欲しかったな」
「気をつければ何とかなると思ったんだよなぁ、すんません...」
南泉はそう言いながら燭台切に軽く頭を下げる。そんな様子を見て一期はあることを思いつく。
「では、私が責任お二方を見張っていれば大丈夫なのでは?」
「……へ?」
そんな一期の思いつきに南泉と燭台切は顔を見合せる。
「要するに何か起こりそうになったら私が助けに入る、ということです」
「いやいや助けに入って巻き添え食らう姿が目に見える!もう俺だけで作った方が安心な気がするにゃ」
南泉と一期がやいのやいのと言い合っていると割り込むように燭台切が口を挟む。
「分かった!もうまとめて僕が作るよ!何せ僕は厨番長だからね、さあ南泉くんも一期くんもあっちに座ってて!」
「いやあんな目に合わせておいてさらに作らせるなんて悪い...」
「南泉殿、ここは従っておきましょう。燭台切殿は1度決めたらその意見を曲げることの方が難しいので」
「そう……なのか、じゃあ任せるにゃ……」
南泉は渋々了承し、一期に連れられて厨の中にある椅子へ座る。そしてこれ以上余計なことをしてはダメだとその場で大人しく燭台切が料理を完成させるのを待った。
「よし、できたよ!一期くん。運ぶの手伝って欲しいな」
燭台切がそう言って料理を乗せたお盆を持ってくると呼ばれた一期は立ち上がりそれを手伝う。
「「「いただきます」」」
そう言って南泉と一期は燭台切の手料理を食べ始めた。
「私の分まで作っていただいて...ありがとうございます、燭台切殿」
「いやいや、二振り分も三振り分も余り変わらないからね、気にしないで」
「相変わらずうまい、にゃ……」
「本当?嬉しいな!」
「しかし南泉殿のその体質……なんとか今すぐ治らないものなんですかね?」
「うーん、もうこれ以上何も無いことを祈るしかないね」
「本当にこれ以上巻き込みたくは無いにゃ...」
燭台切と南泉はそれぞれの感想を述べながら黙々と食べ進める。そしてしばらくして皿の上の物が綺麗に無くなり、ごちそうさまでしたと手を合わせた。
「じゃあ片付けは僕たちに任せて南泉くんは先に部屋に戻って良いよ。あっ、それとさっきはごめんね?怪我はないかな」
「おう……まぁオレの方は大丈夫だけど、燭台切こそ平気か……?」
「気にしないで、僕は大丈夫だよ」
燭台切はそう言って笑う。それを見た南泉は二振りに軽く頭を下げてお礼をするとそのまま部屋へと戻って行った。
「お、お頭...」
「子猫、戻ったか」
南泉が部屋に戻るとそこには山鳥毛が居た。彼は南泉が部屋に戻ってきたのを確認するとこちらへ、と手招きをする。
南泉は首を傾げながらも彼の言う通り彼の近くへと歩み寄った。
「あの……お頭、何か用ですか、にゃ?もしかして俺を呼びに来たとか……?」
南泉がそう言うと山鳥毛はゆっくりと首を横に振る。
「いや違う。ただ子猫に渡したいものがあってね」
そう言って山鳥毛は懐から何かを取り出す。南泉はそれを覗き込むように見つめると目を大きく見開く。
「こ、これ!」
「ああ、先程万屋で買ってきたものだ」
それは以前南泉がテレビで見たスイーツ専門店の数量限定プリンだった。その時何気なく食いたいを発言していたのを山鳥毛は覚えていたのだ。そしてそれが今目の前に置かれていることに驚きを隠せない南泉を見て山鳥毛はふっと笑った。
「お前にしては珍しく興味を持っていたからな……是非と思ってね」
「あ、ありがとうございますにゃ!お頭っ!」
南泉は目を輝かせながらプリンを受け取る。そんな彼の様子を見て山鳥毛は再び微笑んだ。
「さて、私はそろそろ戻るとするかな」
山鳥毛はそう言って立ち上がり出口に向かおうとしたその時、南泉が彼の袖をきゅっと掴む。
「なんだ?子猫」
「いや、あの...お頭も今度一緒にこれ、食べませんか?にゃ...御前も日光の兄貴とか姫鶴の兄貴とかといっしょに」
「いいのか、これは子猫が欲しがっていたものだろう?」
南泉はなれない誘いに恥ずかしさから少し目を伏せながらも頷く。そんな彼の誘いに山鳥毛は少し驚いたような顔をしていたがすぐに柔らかい笑顔になる。
「……そうだな、ではその時はよろしく頼む」
「うす、にゃ!」
そう言うと山鳥毛は部屋を後にした。南泉はいつにしようかな、とワクワクしながらそのプリンを自室の小さな冷蔵庫の中へと仕舞った。
「あれ、そういや今...何も起きなかったな...?」
南泉は冷蔵庫の扉を閉めながらふと疑問に思った。自分は先程まで誰かと出会えばうっかり事故が起きてしまうほど不幸体質だったはずなのに、何故今回山鳥毛とあんなに近くにいて何も起こらなかったのか。
もしかすると解除の御札の効果が効いてきたのかもしれない。
「いや、たまたまかもしれない...これで調子乗ってまた外に出たらまたあんなことやこんなことに...」
そう考えるだけで身震いする。やっぱり今日はもう部屋から出ない方が身のためだと改めて思い直した。
気づいた時には外はすっかり暗くなり、酒飲み連中が騒ぐ声が聞こえ始めた。いつの間に寝ていたのだろう、南泉は目を覚ましぐっと背中を伸ばす。その横には五虎退の虎が三体ほど彼に寄り添うように眠っていた。南泉はその虎たちを起こさないようにゆっくり立ち上がると、部屋の襖をそっと開ける。
昼餉が遅かったせいか、腹は空いてない。寝るにはまだ早いしその前に風呂には入らないといけない。
「風呂、風呂かぁ〜〜...」
風呂場なんてラッキースケベのオンパレード会場みたいなものだろう、実際はどうなのか知らないけれど南泉はそう思った。「でも入らずに寝るのはちょっとなぁ...どうするか...あっ!」
南泉はふと離の小さなシャワー室の存在を思い出した。あそこなら滅多に使われることがないし、誰かと鉢合わせることもないだろう。
善は急げ、寝巻きと風呂グッズをまとめ廊下へ出る。向かう途中で男士たちとすれ違わないよう細心の注意をはらいながら、なんとか離へとたどり着く。
気づいた時には外はすっかり暗くなり、酒飲み連中が騒ぐ声が聞こえ始めた。いつの間に寝ていたのだろう、南泉は目を覚ましぐっと背中を伸ばす。その横には五虎退の虎が三体ほど彼に寄り添うように眠っていた。南泉はその虎たちを起こさないようにゆっくり立ち上がると、部屋の襖をそっと開ける。
昼餉が遅かったせいか、腹は空いてない。寝るにはまだ早いけど、なんにせよその前に風呂には入らないといけない。
「風呂、風呂かぁ」
風呂場なんてラッキースケベのオンパレード会場みたいなものだろう、実際はどうなのか知らないけれど南泉はそう思った。
「でも入らずに寝るのはちょっとなぁ...どうするか...あっ!」
南泉はふと離の横にある小さな浴室の存在を思い出した。あそこなら滅多に使われることがないし、誰かと鉢合わせることもないだろう。
善は急げ、寝巻きと風呂グッズをまとめ廊下へ出る。向かう途中で男士たちとすれ違わないよう細心の注意をはらいながら、なんとか離へとたどり着く。
「よし、誰もいないな…」
南泉はシャワー室の扉を開くと急いで服を脱ぎ始めた。そして脱いだ服を乱暴にカゴに投げ入れると、中に入りシャワーを浴び始める。
「ふぅ〜気持ちいい〜......」
温かいお湯が身体全体を包む感覚はとても心地よいものだった。しかしここで油断してはならない、いつ誰が入ってくるか分からないからだ。南泉はなるべく早く、だがしっかりと身体を洗い終えると横で溜めておいた小さな湯船に浸かり体を休める。
「……なんか今日は疲れたなぁ」
そう呟きながら天井を仰ぐように見上げると自然と瞼が重くなる。
「……寝ちまう前に早く上がんねぇと……にゃぁ……」
そう言いながらも南泉は湯船に体を預けるようにゆっくりと瞼を閉じた。そして数分後、彼は完全に眠りについてしまった。
「あれ、南泉居ない?」
鯰尾は後藤を連れて南泉の部屋に来ていた。昨日のこともあって心配で出陣帰りに様子を見に来たのだ。しかし部屋には南泉の姿は無く、もぬけの殻だった。
「んー、食堂に居ないから部屋に居るのかと思ってたんだけど……」
鯰尾はそう言って首を傾げるが後藤の方は思い当たる節があるようで少し考え込むように顎に手を当てた。
「そういえばさっき燭台切さんに聞いたんだけど、昼餉が遅かったから夕餉には来なかったんだってさ。だからここに居ないなら風呂とかじゃないのか?」
「あー……ありそう、大浴場見に行ってみようか」
鯰尾と後藤は本丸内にある大浴場へと向かった。
「南泉?悪いが見てないね」
「僕たちもここに30分くらい居ますけど南泉さんは見てないですよ?」
色んな刀に行方を聞くが全員が彼を見ていないと言う。
「うーん、いっそ本丸に居ないとか?でも俺たち第二部隊と物吉たちの第三部隊の遠征以外にゲートが使われた痕跡がないし……」
「案外厠に籠ってたりしてな!本丸中の厠の扉叩いて回ってみるか?」
鯰尾と後藤は話しながら廊下を歩く。そして突き当たりを曲がろうとした時、突然誰かにぶつかってしまった。
「うわっ、と...ごめんなさい!前見てなくて...!」
「おっと!ごめんね、大丈夫かい?」
ぶつかった相手は石切丸だった。彼は優しく微笑むと鯰尾と後藤の頭を撫でる。
「あ、はい……大丈夫です」
鯰尾は恥ずかしそうにしながらそう返す。後藤続けてごめんなさいと謝った。
「ところでこんな所で何をしていたんだい?君たち粟田口部屋とは反対方向だと思うけれど...」
石切丸に問われ鯰尾が答える。
「南泉を探してたんです。石切丸さん、見かけませんでしたか?」
「ああ、彼なら少し前に見かけたよ」
「本当ですか!?どこでですか!?」
鯰尾は食いつくように質問する。そんな彼を宥めるように石切丸は彼の肩を掴み落ち着かせる。そしてそのまま言葉を続けた。
「ええと、1時間くらい前かな?離れの方に向かっていたよ」
「離れ、ですか...」
鯰尾は顎に手を当て考えるような仕草をする。その様子を見て後藤が尋ねる。
「どうしたんだ?」
「いや、なんで離れに向かったんだろうな〜と思って」
「……確かにそうだな。鯰尾兄、とりあえず行ってみようぜ」
後藤と鯰尾は石切丸にお礼を言い、急いで離れへと向かった。
「おーい南泉〜、いるなら返事してくださいよ〜?」
鯰尾は大声を上げながら離れの中を探した。しかしそれに対する返事はなく普段使われない離れはしんとしていた。
「うーん...本当に離れにいるのかな?もうどこかへ行ってたりして」
「でも本丸の中はほとんど聞いて回っただろ?もうあとここくらいしか...」
そこまで言って後藤は何か思いついたかのようにどこかへ向かって走り出す。
「ちょっと後藤!急にどうしたんだよ!?」
「風呂場だ!離れにある風呂場、多分そこにいるんじゃねーか!?」
「あ…あーーー!!存在すっかり忘れてた!!!確かに誰かと鉢合わせになりたくない今の南泉にとって都合がいい場所だね!行こう!」
二振りは急いで離れ風呂場へ向かった。石切丸の言っていた1時間前というのが本当で、南泉が風呂場にいるとしたらあれから既に30分、合計して1時間半、ここから出てきてないということになる。二振りにとっては憶測でしかないが、昨日今日の彼の様子を聞くと心も身体も...特に心の方が疲れきっておりそんな状況でこんな静かな空間で風呂に浸かったとして眠くなるのも仕方がないだろうと考えた。ましてや本丸の大浴場でもたまにうつらうつらしてることのある南泉のことなので尚更心配だった。
「南泉、居る!?」
ガラガラと少し古びた木製の扉を開く。中は狭く最大でも二振り、短刀で三振りが限度くらいの広さだ。なので鯰尾と後藤は探す手間もなく衣服カゴに南泉が普段着ている内番着が入っていることに嫌でも直ぐ気づいた。
「あちゃぁ…」
後藤は手で顔を覆い空を仰いだ。そして最悪の事態を予想して覚悟を決めた。鯰尾はそれを見た途端、戦場で見せるかの如く機動で浴室の扉を開け放つ。
そこに南泉一文字は居た。風呂に浸かり、体は真っ赤になり炬燵で溶けた猫のようにぐったりしていた。
「ゆ、茹で猫ーーーーー!!!??!!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!助けないと!!」
後藤の声に鯰尾ははっとし、何とかして湯船の中から南泉を引っ張りだしバスタオルでサッと拭き寝間着をぱっと着せる。極の短刀脇差にかかればこれくらいものの数秒で終わる。そして二振りは南泉の頭部と脚部をそれぞれ持ち上げる。
「よし行くよ後藤!目指すは南泉の部屋!」
「了解!鯰尾兄!」
72+145の機動で二振りはすたこらさっさとその場を離れた。
「...あ?オレの部屋...?」
「あーー!南泉、目が覚めた!鯰尾兄、南泉目を覚ましたぞ!」
彼が目を覚ますと目の前には後藤が心配そうに顔をのぞかせていた。鯰尾は良かったぁ、と言いながら胸をなでおろした。そして直ぐに事の顛末を南泉に話す。
「...そうか、オレ風呂で」
「そうなんだよ!もうホントびっくりしたんですからね!?」
「それは、悪かった、心配かけたにゃ...」
南泉はバツが悪そうに鯰尾から目をそらす。そんな様子に後藤も思わず苦笑する。
「ま、無事で良かったぜ」
そう言って後藤は立ち上がると鯰尾と一緒に部屋から出ていった。すると入れ違いになるように部屋の襖が開く。入ってきたのは燭台切だった。
「あ、起きたんだね。体調はどう?」
「問題ない、にゃ」
「それなら良かった。入浴中のうたた寝は危ないからもうしないようにね?」
燭台切はそう言って笑いかける。南泉はおう、と短く返事をした。するとそのタイミングでぐぅーと彼のお腹が鳴った。
「……まあ昼餉の後何も食べずお風呂入って、こんな時間まで寝てたらそりゃお腹空くよね」
「うぅ…」
申し訳なさそうに俯く南泉に燭台切はまた笑って言った。
「ふふ、良いんだよ。そうだ、何か食べたいものとかある?簡単なものなら作ってあげるけど」
「えっ!本当か!?じゃあ……卵焼き!」
「オーケー、任せて」
燭台切はそう言うと厨へと戻っていった。
「へへっ、やったぜ」
南泉は嬉しそうに顔を緩ませながらもう一度布団に潜る。
とんだ災難な1日だったけれど、最後の最後で好物の燭台切特性の卵焼きが食べれるのだから逆上せたことくらいはチャラにできる。そして今日1日を最も悩まされた不幸体質も寝て起きればオサラバだと思うと幾分か楽な気分になった。
「……もうこんな不幸体質は懲り懲りだ、にゃ」
そう呟いて布団を頭まで被り、燭台切が戻って来るのを待ちわびた。
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書く上で考えてた設定(読まなくていい)
南泉...巻き込まれ不運値MAX。普段から何かと苦労刃で、徳美組の兄貴分兼ツッコミ役。卵焼きが好きだがゆで卵は嫌い
鯰尾...ボケ担当。仲間思いで世話焼き気質。いつも後藤を連れ回してる。馬糞は投げる。朝餉はパン派
物吉...ツッコミを結構前に放棄した。割と悪ノリしちゃうタイプ。普段は貞宗部屋で編み物してる。目玉焼きには塩派
後藤...振り回される苦労刃枠だが悪い気はしてない。自分がボケだと思ってるツッコミ。しっかり者。かき氷はメロン味
山姥切...悪ノリしかしないタイプ。自分がツッコミだと思ってるボケ。バカするのは徳美組内だけ。赤味噌派
五月雨江...南泉救出に一緒に向かったけど機動差で追いつけなかった。大抵雲さんと一緒に縁側に居る。カルピスは牛乳割り
陸奥守...近侍、始まりの一振。事務全般が得意。朝に強く夜に弱い。南泉とはマブダチ(だと思ってる)。下戸
燭台切...厨番長。自他ともに認める本丸のママ。おなかいっぱい食べさせることに喜びを感じてる。好きな日本酒は黒龍
国広...修行に出たがらない故蓄積だけが貯まる初。人の話は聞かずなかなかに頑固。猫を飼いたい。白味噌派
堀川...正論bot。兄弟でも容赦ない。口が達者で兼さんすらも言いくるめる。本丸モーニングコール担当。朝餉はごはん派
山伏...笑い声で周りの空気が震える。キノコ検定2級。この間何もしてないのにパソコンを壊した。魚は頭から尾まで食べる
日光...南泉の保護者その1。本当は沢山構いたい。言葉足らず。ツッコミだと思ってる天然ボケ。種なしスイカを育てている
山鳥毛...南泉の保護者その2。金銭感覚と時間感覚がちょっとおかしい。貢ぐことに喜びを感じている。コーヒーはブラック
一期...ちゃんと弟たちに慕われるタイプのいち兄。面倒見は良いがすぐ自分の弟にしようとする癖がある。ラーメンは醤油
審神者(♂︎)...全ての主犯。こいつのせい。呪うならこいつを呪ってください。主も割とラッキースケベな体質。