無題「京極さんが昨夜、帰るところがなくなったから泊めてくれ!って言って僕の家に転がり込んできたじゃないですか。覚えてないんですか?」
「あ〜……うん、なんかそんな気がしてきたな。ごめんな歩!迷惑かけちまって」
「全く…京極さんのそういうところですよ、まぁ、僕だからいいですけど…」
「ほんと、わりぃと思ってるよ……何かお礼はするからな」
「はいはい、期待してますよ」
京極さんに対する文句を言いながらも、僕は心の片隅でこの状況をとても好ましく思っていた。だって、僕の家には京極さんがいて、そして僕の作った朝ご飯を美味しそうに食べている。更に言うと、京極さんは明らかにおかしいこの状況を微塵も疑っていないのだから―――。
「ねぇ、京極さん」
「ん?なんだ?」
「もし、僕があなたを自分の家に連れ込みました、と言ったらどうします?」
「はぁ?何バカなこと言ってんだよ……お前にそんな度胸があれば、俺は構わねぇけどな、はは。まさかお前がそんなことする質だとは思わねーな。」
京極さんはそう言って笑った。でもそれは僕にとっては笑いごとじゃない。僕は今この瞬間も、あなたを独り占めしたい。だって、あなたに僕だけを見ていてほしいから……。
「……ふーん、そうですか」
だから、僕は心の中でそっと呟くことにしたのだ。
「やっぱり、あなたはバカだ。」
その一言は京極さんに届くことはないのだけれど。
でももし、あなたの目が僕以外を映してしまうのなら、僕はきっと京極さんのことを離してやれなくなる。まあ、現時点で逃がす気もないし逃げられはしないだろうけれど。
ああ、どうか気づいて京極さん。僕があなたの事が好きで好きで好きで好きで……好きでたまらない。あなたは知らないだろうけれど、僕の思いはあなたが想像しているよりも遥かに重いんだ。
だからどうか、早く僕のところに堕ちてきて。そしてもう逃げられないと悟ったなら、あなたから僕の手を取って……。
僕は心の中でそんなことを思いながら京極さんの隣で笑っていた