二日目一期は昨日の失敗を深く反省した。
普段の職務が菓子作りのみとはいえ、店頭に立ってしまえばそんなことは言い訳にしかならない。
「切り替えなければ」
今日も他の予約が入っていたはずだ。
早朝、自室を出ると、本丸内の厨では朝餉の支度が始まっていた。厨担当の数振りに挨拶をして玄関へ向かうと遠征前の刀が数振り居て、その中には鬼丸と二振り目の一期一振も居る。
「一期殿、おはようございます」
こちらに気付いた二振り目は、その笑顔に少し戸惑いを滲ませながらも挨拶をしてくれる。
「おはようございます。鬼丸殿、一期殿」
大丈夫だ。
ちゃんと笑顔を作れているはず。
二振り目は嬉しそうに微笑むのに対して、鬼丸はちらりと此方を見ただけで、あからさまに面白くなさそうな顔をする。
「まだ続けているのか」
鬼丸は一期が本丸の外で働くのを良く思っていない。
お前が二振り目の教育係をしたらいいだろう、だの。他にも本丸内での仕事はあるだろう、だの。散々言われてきたのだが、一期も頑なに聞き流している。鬼丸が何故そんなことを言うのか全く理解できなかった。
二振り目が困ったように身を縮める。
「厨も人手は足りているようですし、問題はないはずです」
だいたい内番も新人を中心に回さざるを得ない。
それに一期だって本丸の仕事を優先しているし、そのように勤務も組んで貰っているのだ。
事務的に返答すると、鬼丸はムッとして無言でその場を離れる。二振り目がこちらに会釈をして、慌てて後を追って行った。
二振り目が顕現するまで、あんなあからさまに嫌悪を向けられることはなかった。教育係として口煩かった自覚はあるものの、その時ですら冷たい態度をとられたことはない。
二振り目には柔らかい表情を見せるのに、どうして。
抱えたくない感情がじわじわと溢れてくる。
振り切るように深呼吸をひとつ。
十二月の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。
「…切り替えなくては」
忙しくしていれば忘れることができる。
その場しのぎだけれど。