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    xxx_83_xx

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    xxx_83_xx

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    ⚠︎注意事項
    ・初小説なので構成グチャグチャで読みにくい
    ・初小説なので構成グチャグチャで読みにくい(大事なことなので2回)
    ・モブ女視点
    ・作中でcreekが破局する
    ・キャラの口調ブレブレでキャラ崩壊ある
    それでもいいという心優しいもの好きな方のみどうぞ…

    #creek

    玉砕できない女の子の話サウスパークに住んでる住民でクレイグ・タッカーとトゥイーク・トゥイークの関係を知らない人はいないと思う。

    性格も素行もちぐはぐな2人が、町きってのゲイカップルとして一躍有名になったのは、エレメンタリースクールでのアジアンガールによるやおい事件がきっかけであったらしい。――らしい、というのは、私はハイスクールからこの町に引っ越してきたため、人伝に聞いた情報しか知らないからだ。

    当初、二人はゲイですらなく、仲も特別良いわけでもなかったという。たという。なのに無理やりカップリングに仕立て上げられたと聞いたとき、私はクラスメイトを心底気の毒に思った。
    私には理解できない。お互い興味も関心もない相手を妄想の中で恋人に仕立て上げるなんて。
    ……けれど、それ以上に理解できないのは、そんな二人がエレメンタリーから今に至るまで、円満に恋人関係を続けているという事実だった。

    クレイグ・タッカーという男は高身長で、黄色の毛糸玉のついた紺色のチュージョハットがトレードマーク。無愛想な態度で、他人と必要以上に関わろうとはしない。冷静沈着というよりは、ただ面倒ごとを避けたいだけに見えるその立ち振る舞いは、一見してとっつきにくく、誤解されやすい。けれど、少しでも彼を知る者なら皆、彼が極端なほどの合理主義者であることを口にするだろう。

    一方で、トゥイーク・トゥイークはその正反対だ。細身の金髪、常に神経質そうに目を見開き、あらゆるものに怯えている印象しかなかった。初対面の人間なら尚更だ。全力で警戒心をぶつけてくるのだから、なかなか疲れてしまう。ちょっと声をかけただけで「ッ!何!?僕に何の用なの!?」と尋常じゃないほどぶるぶると怯えられては、こっちがまるで悪いことをした気分になる。言動も滅茶苦茶で、唐突に話題が変わったり、被害妄想めいたことを叫び出したり――正直、会話するだけで神経を使うタイプだ。
    特に、クレイグに対してヒステリックに喚き散らしている姿を何度か見かけたときは、「本当に付き合ってるのか?」とすら思った。彼をよく知る人間は「あれでも落ち着いたほうだよ」と口を揃えて言っていたがどうしても信じがたかった。

    しかし、そんな心配は杞憂に終わった。クレイグはトゥイークのヒステリックな言動にも動じることなく、むしろ淡々と受け流していた。「落ち着けよ、ハニー」と肩を撫でるクレイグの慣れた手つきと「うぅっ……」と唸りながらも落ち着きを取り戻し、クレイグをしっかり見つめ返すトゥイークを見てようやく「ああ、ほんとに恋人なんだな」と実感することができた。

    でも、それからすぐだった。あの二人が“別れた”という噂を耳にしたのは。

    噂好きの高校生の間でゴシップなんてすぐ広まる。
    それが町きっての名物カップルの破局の危機ともなれば、餌に群がる鳩のように野次馬どもが騒ぎ立てるのは当然であった。
    今回の破局騒動は複数人の証言もあり、信憑性が高いことからゴシップではなく事実として広がっていくのも早かった。
    クレイグやトゥイークといつも一緒にいるクライドやトークン、ジミーからの証言が決定打だった。


    ◇◇◇◇◇◇



    「トゥイークがいつもの癇癪起こしてさ、クレイグが宥めてたんだけどトゥイーク機嫌悪かったぽくて、逆効果。んで、クレイグが言い返したらまたそれで怒り出して……後はいつものパターンだよ。こいつら喧嘩するたび毎回これだぜ?いい加減大人になれよな〜エレメンタリースクールじゃないんだからさ〜」
    「クライドにまで言われるなんて相当だな…」
    茶化すように言うクライドに苦笑するトークン。
    「こ、ここれからどうするの?」
    ジミーも心配そうにクレイグへと尋ねた。
    食堂でクライドとトークンとジミー、その他複数人がクレイグを取り囲み、まるで事情聴取するかのように話しかけていた。
    クレイグは取り囲む面々に一度「F×ck」と綺麗な中指を立てた後、マカロニを黙々と口に運び出した。

    「トゥイークは今日休みなの?心配だね」
    バターズがまん丸な目をきょろきょろさせてもう1人の当事者の姿がないことを確認する。

    クレイグは無言のままマカロニを咀嚼していたが、バターズの心配げな声に、ピクリと眉を動かした。
    スプーンを皿の上にカチンと置き、ようやく口を開いた。

    「……お前らさ」
    低い声がテーブルに落ちる。
    「俺がなんか言うの、待ってただろ」

    その場にいた全員が一瞬言葉を失い、気まずそうに視線を逸らす。
    クライドすら口を噤み、トークンが気まずそうに視線を逸らした。

    「別れたの?ほんとに?って、聞きたいんだろ?」
    クレイグの声は冷たくも、どこか突き放すような響きを持っていた。
    「なら教えてやる。アイツが『もう別れる』って言ったから、ああそう、って返しただけだ」

    「え……そ、それって、ほんとに……」
    ジミーが言いかけたが、クレイグはそれを遮るように続けた。

    「別にさ、アイツが泣いて騒いでようが、俺が黙って座ってようが、どうせお前らの中じゃ“もう終わったんだな”ってことになるんだろ。で、勝手に話膨らませて、勝手に盛り上がって、最後に俺の顔見に来て“それほんと?”って聞くだけ。答え合わせってか?勉強熱心なんだな」

    テーブルの空気が一気に凍る。
    さっきまでざわついていた周囲の会話も、自然とボリュームを落とした。

    「クレイグ……」
    トークンが何か言おうとしたが、クレイグはトレーを手に立ち上がった。

    「……俺が何も言わないのってさ、怒ってないからじゃねーよ。怒ってるけど、それを見せたら、またお前ら面白がるだろ。だから黙ってんだよ。気づけよ、ちょっとは」

    その言葉を最後に、クレイグはトレーを持ったまま背を向けて歩いて行ってしまった。

    カイルがぼそっと呟いた。
    「……あれは本気でキレてるね」
    「わーお、あいつマジで機嫌悪ぃな。ま、無理もねぇか。こっちは野次馬の見本市みてーな状態だしよ。クレイグが怒るのも無理ないぜ。お前らも人が悪いよな。二人が別れたかどうかってそんなに大事か?お前らマスゴミか?救いようがねぇな」
    「は?面白がって真っ先に『大ニュースだ!』って周りに吹き込んでたのはお前だろカートマン!」
    「言いがかりはよせよキャ〜〜イル」
    カートマンは肩をすくめて、とぼけた顔で言い返す。
    「おいらは報道の自由を行使しただけ。事実しか言ってない。あのゲイカップルが別れた事実をな。ただ事実を伝えるだけじゃ、お前らみたいな野次馬根性で性根の腐った連中が満足できないだろうと思って少し脚色しただけだ。多少の受け取り違いはあったかもしれないが、予想通りすぐに広まっていっただろ?」
    「ふざけるなこのデカッ尻!その“報道”のせいで事がでかくなってるんだ!!」
    「は〜これだからユダヤは膣に砂が詰まってるから困る。無視むーし、お疲れ様でした〜〜」
    「f×ck!!カートマン!!!!!」

    「だ、大丈夫だってまたすぐより戻すってあの2人ならさ…」
    慌ててクライド達がフォローに入るが、顔を真っ赤にしたカイルには届かなかった。

    ケニーはフードの奥で「(また始まった)」と冷めた目で見つめ、スタンは「ああ、もう」っと眉間に手を当てていた。
    「(……でも、今回はマジかもね)」
    ケニーの呟きはこの場にいる誰にも聞かれることはなかった。


    ◇◇◇◇◇◇


    噂が事実だということを知って悲しまなかったハイスクールの人間は、多分私を除いていないんだろうな。
    「……別れたんだ、あの二人」


    私はクレイグ・タッカーが好きだった。


    男友達といる時だけ見せる屈託ない笑顔。気に食わない事や人に中指を立てて反発する姿。クールでダウナーな印象とは裏腹に賢くない所。冷めているようで実はノリがいい所。
    あげ出すとキリがない。


    クレイグ・タッカーを好きな女子の多くは、きっとその整った容姿とスタイルに惹かれているのだろう。もちろん私も、彼の顔が好きだ。というより、好みど真ん中だった。
    切れ長の目に長い睫毛、いつも気だるげな視線。帽子から覗く短く横に流した黒髪、すらりとした背丈と、どこか気だるさをまとった姿は、まるで雑誌から切り抜いたみたいに完璧で、私のストライクゾーンを正確に射抜いていた。
    全女子の理想のタイプを詰め込んだような顔であり、それはもう大変モテていた。彼がゲイで、恋人がいると言うのに、それでも諦めない女子が後を絶たないくらいには、彼は魅力的なのだ。
    けれどクレイグは、女子には冷たくて素っ気ない。どんな美女に寄ってこられても無反応で、誰に流されるでもなく、常に自分のペースを崩さない。
    興味のないことには徹底して無関心。だから周りが勝手に好き放題騒ぎ立てても、お得意の皮肉と中指を立てるだけで済ませ、何事もなかったかのように日々を過ごしていく。

    だけど。
    興味がないことには徹底して無関心な彼が、トゥイークのこととなると、ほんの少しだけ違って見えた。

    誰もが鬱陶しがるようなトゥイークの大声にも、クレイグは耳を塞ぐどころか、受け止めるように流す。
    ときには突き放すような言葉を吐きながらも、決して見放さない。
    その奇妙な優しさに、私は何度も目を奪われた。

    私はクレイグのそういう所に恋をしているのだ。

    だからこそ、私はこの2人が付き合っていることに納得ができなかった。

    普段の様子から想像もつかない程、クレイグはトゥイークに甘かった。
    どこに行くにも手を繋ぎ、トゥイークが安心できる場所へと連れて行く。トゥイークが不安で眠れず深夜にアポ無しで喚き散らしても、怒りもせずゆっくり落ち着けるように側に居て話を聞いてあげたらしい。
    「文句なしの素晴らしいカップル」
    「不安がっている恋人の側に朝まで寄り添うなんて素敵」
    周りがそんなふうに囃し立てるほど、ほど、私の胸の奥ではチリチリと焼けつくような違和感が広がっていった。
    「どうして?」と何度も自問した。
    どうして彼は、トゥイークをあんなにも大切にできるのだろう。

    みんなが口を揃えて言う『恋人像』って、一方がもう一方をお姫様みたいに持ち上げて、甲斐甲斐しく世話を焼くことなの?
    もしそうなら、私は大多数の考えには賛同できない。共感できない。
    あの二人の関係は、恋人というより介護に近い。釣り合いなんて、まるで取れていないのだ。

    だって一度でもトゥイークがクレイグにしてあげたことってあるの?クレイグがトゥイークにくれた分だけのものを、返して初めて対等な恋人って言えるんじゃないの?
    クレイグの「俺がついてるよ」も、トゥイークの「クレイグが何とかしてくれる」も、どちらも“役割”として定着してしまっていて、当たり前みたいに繰り返されている。
    そこに本当の意味での対等さや、双方向の「支え合い」があるようには、私にはどうしても思えない。

    恋人って、本来そういうものじゃないはずだ。
    お互いが寄りかかり、支え合って、欠けている部分を埋め合う――少なくとも私はそう信じてきた。
    なのに、あの二人は……一方的な均衡で成り立っているようにしか見えない。

    理屈ではわかっている。恋人同士だから。彼にとって特別だから。2人がお互いをちゃんと想い合っているのも充分わかっている。
    でも、そう簡単に納得できるなら――私は今ごろこんなにクレイグのことを好きになっていない。あの優しさを、あの真っ直ぐさを、ただ「恋人に向ける当たり前の態度」だと片づけられるなら。
    私の心は、こんなにも乱されることはなかった。

    彼が誰にでも冷たいのなら、私にも冷たくて当然だ。けれど、時折見せる小さな仕草や、柔らかい表情を目にすると、「もし、あの優しさが自分に向けられたら」と夢想してしまう。
    ……そして、その夢想がすぐにトゥイークによって打ち砕かれる。

    クレイグの視線は、いつだってトゥイークに向いている。
    あの2人には他の誰も入り込めない確固たる境界線を感じてしまう。

    私はきっと、クレイグがトゥイークを甘やかす姿を見れば見るほど、彼に恋をして、同時に強い嫉妬と敗北感に苛まれていくのだ。

    私なら、彼に甘えるだけじゃなくて、同じように寄り添ってあげられるのに!
    私なら、ただ守られる存在じゃなくて、彼を支えられる存在になりたいのに!

    そんな傲慢な考えをしてしまう自分に、胸が締めつけられるほど苦しくなる。
    嫌な女だ。醜い嫉妬心だ。そうわかっているのに、止められない。


    ◇◇◇◇◇◇


    数日が経っても、学校中で広まった“破局”の噂は収まる気配を見せなかった。
    むしろ、「やっぱりマジだったんだな」「今回は長引いてるぞ」と憶測だけが肥大して、食堂でも廊下でも、ちょっと耳を澄ませばクレイグとトゥイークの名前が必ず混じっていた。

    トゥイークはまだ学校に姿を見せていない。
    不安が爆発すると一気に寝込むこともあるらしいから、それが原因かもしれない。けれど、そんな事情を知らない人たちは「フラれたショックで引きこもってる」と面白半分に笑い飛ばす。
    胸の奥がざわついて、私は思わず机を爪で引っ掻いた。

    一方で、クレイグは――驚くほど、変わらなかった。
    いつも通り無愛想で、いつも通り気だるげに授業を受け、誰かに呼ばれれば面倒くさそうに応じる。
    あんな噂の渦中にいるのに、まるで影響を受けていないように見えた。
    けれど、放課後、偶然見かけた彼の横顔は――何かが少しだけ違っていた。

    人気のない教室でクレイグはひとり、スマホをじっと見つめていた。
    画面に表示された名前は、見なくてもわかる。
    トゥイーク。
    指が何度も画面にかかっては止まり、結局はスリープに戻して、煙草を吸うみたいに大きく息を吐く。

    (……連絡すればいいのに)
    思わず心の中で呟いた。

    それは私の願望でもあった。
    もし彼が本当にトゥイークと終わるなら――私の入り込む余地が、初めて生まれるかもしれない。
    でも、そのためには彼が前を向いて“次”へ進んでくれなくちゃいけない。
    まだ未練を抱えたままなら、私はまた蚊帳の外に立たされるだけだ。

    私は深呼吸して、意を決した。
    (今だ、話しかけるなら)
    そう自分を奮い立たせて、彼の方へ歩き出す。

    「……ねえ、クレイグ」
    声が震えていないか不安だったけれど、彼はちらりと視線をよこしただけで、「あ?」と気のない返事をした。
    近くで見ると、やっぱり格好いい。切れ長の目に、覇気のない表情。けれどどこか沈んだ影が差している。

    「その……トゥイークとは、本当に別れたの?」
    核心を突く言葉を口にした瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。
    彼の唇が一瞬だけきゅっと結ばれ、やがて吐き出される。

    「……アイツが“終わり”って言ったら終わりだろ」

    淡々とした答え。
    でも、ほんの一瞬、声が掠れていた。
    やっぱり彼は平気なんかじゃない。

    私はその隙間に手を伸ばしたくてたまらなかった。

    (私じゃだめなの?)
    ブロンドの髪、細身で柔らかい身体、成績もそこそこ。
    好きな人が困っていたら助けたい――そんな私でも、クレイグが自然に触れたくなる存在になれると思ったのに。

    「だったら……」と続けかけたその時――

    背後からガタガタと足音が響いた。
    振り返れば、顔色を真っ青にしたトゥイークが立っていた。
    シャツは皺だらけで、髪もくしゃくしゃ。けれど、その目だけは爛々と輝いていて、狂気じみた必死さがにじんでいた。

    「ク、クレイグ!!……っなんで電話に出ないんだよ!!!いつもはすぐ返信くれるのに!!!!」
    声は裏返り、手はぶるぶる震えていた。

    私の心臓は、まるで氷水をぶちまけられたみたいに冷えた。
    だって、クレイグは――その瞬間、心底呆れたように、でも心底ほっとしたみたいに目を細めたから。

    「……まだ10分しかたってない」

    ーーきっと、普段からこんなやりとりを毎回してるんだろうな。
    そう、理解してしまった。
    クレイグの声は低く、わざと怒っているような声色をしていた。まだ、完全な仲直りはしてないんだと思う。これはきっと、トゥイークへの当てつけなんだろう。「俺はまだ許していない。怒っている」って。でも声色には怒りと呆れが滲んでいるようで、それでもどこか安心したような響きがあった。
    迷惑そうな表情の中に、やっと来たかっていう気持ちが、見えてしまった。

    「じゅ、10分!?……僕には永遠みたいに感じたんだ!!」
    トゥイークは頭を抱えて、声を震わせながら吐き出す。
    「クレイグが僕のこと嫌いになったんだって、ぜ、ぜったい他のやつと一緒にいるんだって……ッ!頭の中がぐちゃぐちゃで!もう、どうにかなりそうで――!」
    私は、トゥイークが言葉がまとまらないまま自分の感情を吐き出していく様子を、ぼんやりと見つめることしかできなかった。何もかも現実感がなかった。
    二人の世界に割り込む余地なんて、最初からなかったみたいに、私の存在は空気よりも薄く、その部屋に確かにいたはずなのに、もう居場所がなくなっていくのをはっきりと感じていた。

    クレイグは黙って立ち上がり、トゥイークの前に歩み寄った。
    可哀想なくらいに震えてぐらつきそうな身体を、当たり前のように支える。

    「……トゥイーク」
    たったそれだけ。名前を呼ぶだけで、トゥイークの荒い呼吸がほんの少しずつ落ち着いていく。
    その様子を、私は固まったまま見つめていた。

    「ほら、落ち着け。俺はここにいるだろ」
    「……っ、う、うん……」

    小さく頷いたトゥイークは、子供のように彼の胸に額を押しつけた。

    その姿を見た瞬間、私は――惨めなほど理解してしまった。
    この二人の世界に、私の入り込む余地は一ミリもないのだと。

    私なら、クレイグを支えられると思っていた。
    彼の隙間に手を伸ばして、寄り添えると信じていた。
    でも、本当は違った。
    彼が欲しているのは、私が差し出そうとする「対等な支え」なんかじゃなくて――トゥイークという存在そのものだった。

    あの日、町全体から2人はカップルだと認定されてしまった。
    ふざけたアジアンガールの“やおい事件”で、笑い半分の空気のまま既成事実のように。
    最初はただの悪ふざけで、ただの噂でしかなかったはずなのに――時間が経つにつれて、あれは二人にとって切り離せない「物語」になってしまった。

    誰もが笑って信じたカップル像を、クレイグとトゥイークはそのまま受け入れて、役を演じているだけだと思っていた。
    だけど違った。
    あれはもう、噂でも、作られた物語でもない。

    クレイグが欲しているのは「恋人」という肩書きでも、「支え合い」という理屈でもなかった。
    ただ、トゥイークその人。
    混乱して、泣き叫んで、震えて、面倒でどうしようもない彼を――クレイグは、誰よりも必要としている。

    それが真実だった。

    「……勝てるわけ、ないじゃん」

    唇を噛んだ。
    私がどんなに理屈を並べても、どんなに正しい恋人像を思い描いても。
    あの人の隣に立つのは、いつだってトゥイーク。
    合理的でもなく、釣り合いなんかまるで取れていなくても、
    欠陥だらけで未完成な形でも、お互いが特別な存在。
    ――それが二人の形なのだ。

    羨ましさと嫉妬で胸が潰れそうになりながらも、頭の片隅で冷静に理解してしまう。
    (きっと、この先も二人は別れたりくっついたりを繰り返すんだろう。でも、最終的にはまた一緒にいる。そういう二人なんだ)

    胸の奥で、何かがじりじりと音を立てて焼け焦げる。
    視界の端が滲んで、立っているのがやっとだった。

    「……っ、じゃあね」
    誰にも届かないくらい小さな声で呟いて、その場を離れた。

    ほんの一瞬だけ、扉の隙間から中の様子が目に映った。
    クレイグが、トゥイークの肩に手を置いて段々と重なっていくのが見えた。
    完全に影が一つになったのを見て、胸の奥で何かがぐしゃりと潰れた気がした。

    私の「じゃあね」は、きっと二人の耳には届いていない。
    あの狭い部屋には、トゥイークの掠れ声と、クレイグの低い声しか存在していなかったから。
    私なんて、初めからいなかったみたいに。

    悔しかった。
    存在ごと無視されたような、透明になったような悔しさが、喉の奥に苦い鉄の味を残していく。

    外の空気は妙に冷たくて、肺の奥まで刺すようにしみた。
    あんなにも胸が熱く焼けていたのに、今はまるで氷に閉ざされたみたいに冷えている。


    ◇◇◇◇◇◇


    あの日から数日が経った。
    噂はもう、クラス中に広がっていた。いや、噂なんて言うまでもなく――誰が見ても明らかだった。

    「ほーらな!やっぱりヨリ戻っただろ!」
    「戻るにしても早すぎんだろ!!一週間しか経ってないじゃん…くっそ〜賭けはクライドの勝ちかよ」
    「スタンは最長記録更新中だもんね。ウェンディと別れて今2ヶ月目だっけ?」
    「せ、正確には1ヶ月と3週間5日目だから2ヶ月じゃない!」
    「そこまで正確なのキモいよスタン……」

    「お前ら俺らで賭けしてたのかよ」

    呆れ声で割って入ったのはクレイグだった。
    隣ではトゥイークが落ち着きなく視線を彷徨わせながら、「アッ!賭け事にされるなんて、こんなのプレッシャーだ!」と顔を真っ赤させたり青くさせたりして忙しい。

    「だってお前ら、くっついたり離れたり忙しいんだもん」
    「正直、見てて飽きないよな」
    「……ッ!!!」
    トゥイークは耐えきれず髪をぐしゃぐしゃに引っ掴んだ。
    その様子を見ながら、ジミーが小さく笑った。
    「ク、クレイグとトゥイークは、バンドみたいなもんだな。解散しても、結局すぐ再結成してツアーに戻る」
    隣でトークンが肩をすくめる。
    「ただしファンクラブは常に不安定、ってわけだ」
    「はぁ!?フ、ファンクラブって誰のこと!?」
    トゥイークが叫ぶが、誰もまともに取り合わない。

    そのやり取りを廊下から覗き見していた女子二人が、ひそひそと声を交わす。
    「よかった復縁したんだ!このまま本当に破局しちゃったらどうしようかと思った…」
    「ほんとほんと。見てるこっちが不安になるんだから……もう二人はくっついたままでいてほしいわ」
    「でもさぁ、またすぐ喧嘩するよきっと」
    「え〜?でも結局いつもすぐ戻るじゃない。次別れるなら1ヶ月後なんじゃない?」
    「え〜?」
    二人は肩を寄せ合ってクスクス笑った。
    まるでテレビドラマの続きを茶の間で楽しんでいるみたいに。

    教室の中ではまだ、クレイグとトゥイークを冷やかす声が続いている。
    その賑やかさを背に、女子二人は「ね、こうして見るとやっぱりお似合いだよね。なんだかんだで、二人じゃなきゃ成立しないって感じ」
    もう一人が頷いて、軽く笑う。

    二人の笑い声に混じって、クラスのざわめきがいつも通りに戻っていった。

    私は扉の外で立ち尽くしていた。
    彼女たちの何気ない言葉が、胸に鋭く突き刺さる。

    ――あぁ、終わったんだ。

    静かにそう悟る。
    私の恋は、誰にも知られないまま。
    透明なまま、始まる前に終わってしまった。

    (玉砕すらできなかった)

    教室から聞こえる笑い声とざわめきは、まるで遠い世界の音楽みたいに響いていた。
    私は一人、誰にも気づかれず、背を向けて歩き出すしかなかった。

    彼女たちにとっては、ただの恋愛ドラマのワンシーン。
    クラスにとっては、いつもの日常。

    けれど私にとっては――たったひとつの恋の終着点だった。

    誰にも知られず、報われることもなく、ただ静かに幕を閉じた。
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