王子の夢部屋の隅でぼーっと空を眺める小さな王子に男は話しかける。
「王子、今日は上の空ですね」
男の名はアサルト・バスター。この小さな王子、ミラージュの教育係兼剣術の師匠でもある。
「今日の夢がとても、、その、不思議な夢だったのです。」
「どんな夢だったのですか?」
「誰かが私ではない誰かを呼んでいるのです。でもその誰かは私を見ていました。」
「ミラージュ王子、では無い…と?」
王子は頷く。
「その方はとても美しい方でした。宝石のように輝いていました。周りも宝石で埋め尽くされ、とても暗い暗い場所のはずなのにとても眩しくて…」
「もしかしたら地下洞窟だったりするかもしれないですね。例えばですが、この国にある大穴とか…」
大穴、この国の中心部にある謎の穴。穴全体は雲で包み込まれ底が見えず入るもの全てを拒む未だ謎に包まれる、冒険者の心を掴んでやまない大穴。
「…その穴の底にそのひとがいるかもしれない…ということですか?
以前私も穴について調べては見ましたがやはりよく分からなかったのです…実際に行って見てみたいです。」
アサルトは微笑む
「王子にはもっと城の外のことを見てもらいたいです。世界は広いですから。」
…
とても暗く、しかし明るい。とても静かな、
美しい
ᚲᚨᛏᚨᚹᚨᚱᛖ
私のたった一つのᛏᛟᛗᛟᛞᚨᛏᛁ
ᛟᚾᛁᚾᚷᛁᛃᛟᚢ
…
ミラージュはいつか見た夢を思い出しながらぽつぽつと呟く。
「帰っておいで、帰っておいで、フォーカスライト。私の……フォーカスライト。碧の瞳の私とあなた。帰っておいでフォーカスライト。深い深い暗闇の底でわたしは貴方を待っていますよ……」
「何者だ。」
振り返るとそこには大きな赤い翼を持つ龍がいた。
「見たことない顔だな。地上の者か。」
「すみません。勝手に入り込んでしまって。ここは貴方のナワバリでしょうか…」
「ナワバリ?フン笑わせる。ここではない。この穴自体こそが偉大なるスカーレット様の庭だ。私の名は天空(テンクウ)、スカーレット様の庭を守る番人でありこの穴のもの達の長でもある。
地上人、何用にここに来た。」
威圧感。野生の目をしている。彼の言っていること全てが事実であることを彼自身の姿が物語っている。
彼は強い。
「……探し人がいるのです。」
夢で俺を呼んでいた
「“フォーカスライト“という方を探しているのです。ご存知ないですか?」
テンクウは後ろに振り返る。
「さあ、聞いたことあるような、」
嘘をついているような、そうでもないような。
「そうですか。ありがとうございました。」
「用が済んだら早急に去れ。庭を汚すなよ。」
汚すな、か
「言い忘れていました。私の他にもう1人連れがいるのですが、彼が変な行動をした際は…殺してもらっても構いませんよ。」
「言われなくとも庭を汚すものには死を与えてやる。
……?」
と、テンクウは何かを思い出したかのようにこちらを見た。
「あと1つ。
貴様、最近もここに来なかったか?緑の猫と赤い竜…その他と共に」
「緑…赤…?ここへ来たのは今日が初めてですよ。」
「そうか」
そう言い残すと大きな翼を羽ばたかせ一瞬にて空へ消えていった。
「俺と同じ顔………そうか…お前はここに来たのか…」
……近くの結晶が青に輝く。
帰っておいで、帰っておいで。フォーカスライト。私のᚲᚨᛏᚨᚹᚨᚱᛖフォーカスライト。碧の瞳の私とあなた。深い深い暗闇の底で私はあなたの帰りを待っています
「ミラージュ、何を独り言言っているんだい?」
足元から鳴る音を響かせながら坂を降りてくるはアプター。
「ここは綺麗なところだねえ。ミラージュとここで結婚式を上げたいなぁ。」
憎き相手。呪いの根源。全ての元凶。
昔恋をした相手、
「そんな冗談は笑えないぞ。アプター」
「冗談じゃないよ。本気だよ。」
笑っているが笑ってない。気味の悪い顔。殺れるのであれば今すぐにでも殺してやりたい…
「それより何を言っていたんだい?」
こんな男が知ってもなんの意味もない。
でも俺自身も知っても何も意味のない。本当にあの夢の“フォーカスライト“という者が存在するのかどうかも分からな。それなのに俺は声の主を探す。
フォーカスライトとは、誰なのか。声の主は誰なのか。
生前の好奇心が再び溢れ出す。
「さあ、なんだったかな。昔見た夢を…思い出していただけだよ。」