お疲れ、カツカレー私はこの春から一人暮らしを始めた。
新しい職場にあわせて引越してからはや数ヶ月、必死に毎日を生き抜いていた。嫌いな上司やめんどくさい客、度々起きるトラブルに猛烈な疲れを感じはじめていた。
「はあ……つかれるなあ」
そんな仕事が終わったからといって、すぐに一息つくことはできない。家に帰っても自分で家事をこなさないといけないこの生活は、実家を出るまでTRPG三昧で生活力皆無だった私にとって厳しいものであった。
「誰かに、癒されたいなあ」
ポツリとそうこぼしながら、クタクタになった体を無理くり動かして帰路に着く。重たい足取りで錆びた階段を登り、自宅の前へと辿り着いた。
───────何だか、いい匂いがする。
周囲の部屋かと見回しても、電気がついてる様子はない。ああ、彼らも残業だろうか……と心の中で見ず知らずの近隣住民を労わった。
引き抜いた自宅の鍵と2割引のとんかつと米のパックとが詰められたスーパーの袋を片手に持ったまま、私は肘でドアを押し開けた。
いつも通りの暗い自室……だと思ったが、電気がついている。消し忘れていたのだろうか。電気代が勿体ないな。
乱雑に靴を脱ぎ捨てて、キッチンへと足を運んだ。
「ただいま……って返事なんてある訳ないか」
ため息混じりにそう呟いた。
さて、家に着いたことだし早速この冷たい惣菜を食べますか……
「おお、早かったな。おかえり」
「えっ」
そこにいたのは、中学生が家庭科の時間に作ったかのようなドラゴンのエプロンを身にまとった金髪の男性だった。
「上着カタ着くで、はよ脱いだら?」
そういってコンロを止めた彼は、私の着ていたジャケットを衣服掛けに掛けてリセッシュをかけた。
「えっと……」
「ん?ああ!せやったな、カレー出来とるから座りや」
食器棚から私のお気に入りの平皿を取り出して、カレーを注ぐ。湯気があがると同時にふわりと漂うスパイスの香りが鼻を通り抜けた。
ぐう。
腹の虫が鳴る。
「あ、手洗ってくるね……!」
私は思わず恥ずかしくなって、慌ただしく洗面所へと抜け出した。
「はいはい、そんな慌てんでもご飯は逃げんから」
彼は、しゃもじを持ったまま手を振っていた。
これが、私と964の出会いだった。