深津の予習深津一成には予知能力があるわけじゃないし、感情がないわけでもない。
ただ、物事が起こる前に、心の中で展開を計算して、心の準備をしているだけだ。
それが、深津一成の予習だ。
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校外をジョギングしていたとき、毎日途中で彼らと遊んでいた黒い子犬が昨日車に轢かれて亡くなったと知ったとき。
沢北は無表情の深津を見て、こう尋ねた。
「深津先輩って、感情とかないんですか?」
深津一成に感情がないわけではなかった。ただ、彼には“予習”という習慣があった。
出会いがあれば別れがあり、嬉しさがあれば悲しみがあり、生があれば死がある。
常勝には、必ず敗北が伴う。
深津は家の長男で、チームの主将で、沢北の先輩だった。
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