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    tamana_kanran

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    tamana_kanran

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    誰か様のツイートで見た死んだ舟で2人きりの刃景がエモくて…出来心です…
    ※全てが終わった時空間
     モブがメインだし景がショタ化してる

    「長命種なんだから」この言葉が僕は嫌いだった。いくら寿命が長かろうが僕たちの時間は有限だ。はるか昔のご先祖様のように長く生きられるわけではないし老いもする。まだ体が動くうちに無茶をしておきたいなんて気持ちは短命種と同じだろう。
     それなのにヘルタの同僚たちは長命種なのにそんなセカセカして。とか長命種なのに生き急ぎすぎだなどと苦言を呈す。その度にその倍の文句を返してきた。
     ただ。今回ばかりは自分でも生き急ぎすぎたかもしれない。量子ストームに巻き込まれ見知らぬ星に堕ちた今、やっとそう思った。
     
    「ここは……?」
     
     ストームの中で咄嗟に飛び込んだ避難カプセルから這い出る。急いで腕に巻きつけた端末で現在地を検索するも携帯端末ではざっくりとしかわからず、元いた航路からかなり離れた場所であるとしか示さない。
     ここでうずくまっていても仕方がないので立ち上がって周囲を観察する。人の気配は全くしない。地面は人工的な材質でできており、不時着した周辺は瓦礫が散乱している。カプセルが落ちた時に壊してしまったのか、と思ったがその見覚えのあるマークを見つけ、人の存在が絶望的だと察する。
     
    「スターピースカンパニーの……」
     
     思わず拾い上げるもそんな刺激にも耐えられないのかボロボロと崩れ落ちる。あの頑丈なコンテナがここまで朽ち果てるなんて、この星に人がいたのは果たして何百年前のことだろうか。
     朽ち果てた大量のコンテナとおそらくそれを運ぶ為の巨大なクレーンからこの星はかなり栄えていたようだ。遠くの方には更に大きな建物が——
     
    「変だな……」
     
     すぐそばのクレーンの柱まで近寄る。そびえ立つ鉄の柱は錆びどころか傷一つ見られずまるで新品のようだった。僕の違和感は確信に変わる。朽ち果てているのはコンテナだけだ。どう言う理屈なのか全くわからないが、一つ希望が持てた。もしかしたら朽ちていない宇宙船が残っているかも知れない。
     
    「なんとか通信設備のある星に行ければ……っうわ⁉︎」
     
     考え事をしていたら目の前の瓦礫がボフッと煙を吐いた。いや、違う。目を凝らしてみると一羽のウサギが瓦礫の山に飛び乗ったらしい。
     
    「……見たことない種類だ」
     
     桃色の体毛をしたそのウサギは金色の装飾を纏い——違う、装飾もウサギの一部のようだ——耳の端が葉のように変化し、額に小さな花が生えている。
     
    「動植物類か……?だとしたら動いているから動物的資質の方が強いとして……似たような種類はⅧ星体系の……っうわあ‼︎」
     
     再びボフッと煙が舞う。目の前のウサギが足ダンしたらしい。心なしかジトっとした目で見られている気がする。
     
    「ご、ごめんって……僕、植物学者なんだ。ねえ、君の耳、少し触っても良いかな?あっ、待って!」
     
     僕が手を伸ばすとウサギは踵を返して離れていってしまう。急いで追うが相手は四足動物。なかなか追いつけない。
     脆い瓦礫に何度も躓きそうになりながらもウサギを追いかける。やがて瓦礫のない細い道に出てきた。
     
    「これ……星槎?」
     
     駐舟場に停められた小さな星槎はおそらくこの星の中を移動するためのものだ。その星槎にウサギがぴょん、と乗り込む。呆然とそれを見てるとまた足をダン、と鳴らす。
     ——どうやら運転しろと言うことらしい。
     
     ###
     
    「見たことない生き物ダァ……」
     
     ウサギの指示通りに星槎を飛ばして辿り着いたのは巨大な街だった。今ではなかなか見ないような古めかしい仙舟建築が建ち並んでいる。道に植えられた植物は故郷でよく見たものが多い。これだけならば仙舟の移動艦にでもきたのかと思えるが、問題は住人だ。屋台のセイロの脇には大きめの狸奴が気持ちよさそうに眠り、道には狐や犬、羊や馬なんかがゆったりと歩いている。そのどれもがうさぎと同じように金色の装飾のような皮膚と植物に似た体構造を持っていた。
     動物達にぶつからないよう進むと一軒の書店を見つける。カウンターには店番なのか小さな小鳥が止まっている。尾羽がススキでできているその鳥は僕が近寄っても飛び立つことはなかった。
     
    「三……余、書肆?」
     
     店の外にも中にも沢山の書が積み上げられ、書の山より一回り小さい塵の山があった。試しに店前にある書をぱらりとめくる。
     
    「漁公物語……え、第2版⁉︎」
     
     千年以上の大ベストセラーの第2版なんてマニア垂涎ものだ。僕も小さい頃は全巻一気見したものだ。
     ただ、これが本当に第2版だとすると、明らかに新書のこの本は千年以上前に刷られた事になる。店のカウンターに無造作に置かれただけの本にしては綺麗過ぎるだろう。本来ならそれこそそこの塵の山のように——
     
    「何者だ、貴様」
     
     気配がしなかった。いや、正直言って今でも気配はしない。ただ低い男の声が背後から聞こえてきた。首筋にむき身の剣が添えられているような寒気が背筋に走る。指の一本も動かせない。
     
    「答えろ……さもなくば……なんだ?」
     
     指一本も動かせなかった圧が消えた。恐る恐る振り返ると黒髪の男が膝をついていた。男の前にはあのウサギがいる。ふこふこと鼻を動かすウサギを男の真っ赤な目が見つめている。
     ウサギとの会話([#「」は縦中横])が終わったのか男立ち上がる。死体のような血色の男だ。背の高い方の僕よりも大きくガタイもいいのに生気を感じさせない。顔は整っているがその不気味な赤い目のせいで背筋が凍る様だった。
     
    「ただの遭難者か。目的を言え」
    「目的……ま、まず、ここは何処なんですか?」
     
     よかった、話は通じそうだ。と先ほどの物騒な第一印象を振り払って問いかける。服の下に包帯が巻かれていることも服の隙間からみえる皮膚が傷だらけな事も見ないフリをする。
     
    「それは言えない」
    「えっ」
     
     キッパリとした返答にとりつく星もない。それ以外だ、と男が言う。
     
    「ええと……僕はあなたの言うとおり遭難者でして……できれば他の星に通信をしたいのですが……」
    「通信機器の類は使用できない」
    「じゃあ、宇宙船なんかは……」
    「それならばある。ついてこい」
     
     通信機器はないのに宇宙船があるとはどう言うことだろうか。と疑問に思うも男は話は終わったとばかりに進み出してしまう。
     
    「ま、待って!貴方は誰なんですか?」
    「……ただの亡霊だ」
     
     ###
     
     亡霊さんに連れて行かれたのは大きな駐舟場だった。階段を登り大きな門を潜ると機巧やそれを操る装置のようなもの、そして猿の形をしたやはり植物の特性を備えた見たことのない生き物達。立ち並ぶ建物からここが工房が並ぶ区画であることを知る。
     
    「あの大きな木……いや、根?はなんと言う種類なのですか?」
    「……ただの枯れ木だ。大きすぎて処理ができないだけの」
     
     流石に1人では切り倒せないから放置している、と言って亡霊さんはスタスタと先に進んでいく。僕は工房街の奥にそびえ立つ巨大な植物に目を奪われた。上の方に建物を巻き込んだその根は巨大で力強い。もしかしたらあの植物からこれらの不思議な動物達が産まれているのかと思ったがどうやらすでに枯れているらしい。
     亡霊さんは猿達に何やら声をかけると工房の更に奥に進んでいく。足場を繋ぐ橋の上でネズミのような形の生き物が跳ね回って遊んでいる。機巧の設計図——かなり昔のものだ——が延々と流れ出す建物の足元につくと亡霊さんは空中浮揚を呼び出す。それで建物の上部にまで上がる。
     
    「わあ!」
    「好きに使え」
     
     建物の上部には小さ目の、しかし宇宙に出るには申し分はい大きさの宇宙船が鎮座していた。型は古く歴史の教科書で見たような代物だ。しかし内部は新品同様で手入れもしっかりとされている。
     
    「これ、お借りしても良いんですか?」
    「返す必要はない。どうせ猿どもがまた造る」
    「え、でも……」
     
     戸惑う僕に亡霊さんは冷たい目でその代わりもう2度とここに来るなと告げる。初めて会った時と同じ冷たい殺気に背筋が震える。思わず助けを求めてウサギに目線を逸らすもウサギはもう興味が無いと言う様にぴょんと跳ねて宇宙船の向こう側、巨大な植物の根の方へ言ってしまう。
     
    「おい、さっさと——」
    「あの子にはすごく助けられたんです。せめてお礼だけでも」
    「待て、そちらへ行くな……」
     
     宇宙船で隠れて見えなかったが植物の根元には大きな花のようなものが咲いていた。ラフレシアのように地面に直接生えているその花に知的好奇心がくすぐられる。ウサギはぴょんぴょんとその花に向かって跳ねていく。
     亡霊さんの言葉が聞こえないふりをしてウサギを追って見たことのない花に近づくとだんだん細部がわかってくる。巨大な花は2種類の花弁からできているように見えたが、花びらのような萼と淡く発光した薄い花弁からなるようだ。長い雄蕊が中心を照らすように伸びている。そしてそれが照らす中心には——
     
    「こ……ども……?」
     
     花の中心で眠るそれは少年の形をしていた。厳かな祭事の時にしか見たことがない様な上等な服を纏った10歳前後の少年だ。すよすよとあどけなく眠る顔は美しく、左目の下には特徴的な泣き黒子があった。銀色に光る絹の様な髪は青いリボンで緩くひとまとめにされている。そして何よりも目を引いたのはその頭部から伸びる角だ。鹿の様な形の角が少年の側頭部から伸びている。よく見るとその角は木でできていた。正面の死んだ根とは違い今にも芽吹きそうなほどの生命力が感じられる。明らかに異常な存在だ。しかしその神々しいほどの美しさに目を奪われる。がくりと膝を折りそうになった僕の腕を誰かが支えてくれた。
     
    「こいつに対して膝を折るな」
     
     ほとんど腰が抜けた様な僕を片手で支えた亡霊さんが苛立たしげに言う。亡霊さんが来なければ僕は目の前の存在を拝み始めていたかもしれない。今だって彼から目が離せない。寝ているだけなのに溢れ出る様な生命力を感じる、まるで授業で習った豊穣の——
     
    「うぎゃっ」
    「ぐっ……このクソ犬……」
     
     とんでもない方向に思考が進む僕に1匹の狼が飛びかかってきた。少年にしか目が行っていなかったがどうやら彼を守る様に側に仕えていたらしい。金毛の狼に飛びかかられて僕は無様にも床に倒れた。同じく飛びかかられた亡霊さんは文句は言うものの少しよろけた程度だ。青い首輪をした狼がうるるると僕に唸る。
     
    「げん、きょう……?」
     
     高い透き通る様な声が聞こえた。狼はその声に反応してすぐさま花の中へ戻っていく。ふわぁ、と欠伸が聞こえてくる。
     
    「おい、出てくるな。寝ていろ」
    「符玄が呼んできた客人だろう?」
     
     桃色のウサギを撫でながら少年が花から出てくる。黄金の様な瞳が優しげに僕を見下ろす。無意識にそれに触れようと手が伸びるが、彦卿と呼ばれた狼が間に割り込んできた。
     呆けた僕を亡霊さんが無理やり立たせる。襟首を思いっきり引っ張られて潰れたカエルの様な声が出た。
     
    「こら、刃。客人に乱暴など……」
    「客ではない。遭難者だ。直ぐに叩き出す」
     
     そう言うと亡霊さん——刃と呼ばれていた——は宇宙船の方に僕を引き摺る。少年は困った様に眉を下げているが刃さんを止める気はないようでウサギを抱いていない方の手をバイバイと降っている。
     そして無理矢理操縦席に僕を押し込めた刃さんは未だ少年を見つめる僕の胸ぐらを掴んで顔を合わせてくる。彼の真っ赤な瞳はじっと見てると体の芯から震える様な恐ろしさがある。
     
    「無事にここから逃げ出したければ今直ぐこの船で宇宙へ行け」
     
     声を顰めた彼はそう言うと操縦席の中をいじり出す。直ぐに地図が現れた。明るく点滅しているところが目的地に設定されているらしい。彼の包帯の巻かれた血の気のない肌を見てつい言葉が漏れた。
     
    「貴方は逃げないんですか?」
    「……どう言うことだ」
    「貴方は……彼等とは"違う"でしょう?」
     
     少年も含めこの星の動物は植物の特性を持ち、生命力に満ち溢れている。その中で目の前の男だけが異質だった。生気を感じさせない肉体、傷だらけの身体、死体の様な気配……。しかし僕の言葉に刃さんはくつくつと喉の奥で笑う。
     
    「違うも何も……この場所には俺と奴の2人しかいない」
    「え、でもあの動物達は……」
    「アレらは奴の人形遊びだ……違う枝から伸びた葉でも幹が同じならばそれは同じものだろう?」
     
     奴、とは少年の事だろう。彼がこれらの生物全てを産み出しているならば同じ様な存在であることも頷ける。
     
    「あの子達を産み出すなんて……彼は何者なんですか?」
    「……奴も亡霊だ。俺と同じ、この舟で朽ち果てていくだけのな」
     
     そう言うと刃さんは宇宙船を起動させる。無機質な音声がオートパイロットに切り替わったことを告げた。閉まっていく扉越しにもう用はないとばかりに立ち去る刃さんの背中がみえる。もっと聞きたい事、知りたい事はあったのに、無常にも宇宙船は飛び上がり宇宙を目指す。空に飛び上がって初めて根の後ろに根の本体であろう巨木が立っていることに気付く。しかしそれは根本に水があるにも関わらず刃さんの言う通り枯れ果てていた。
     使われていた頃は1日に何百もの舟が行き来したであろうゲートを潜り宇宙に出る。そこでやっとこの星の全貌が見えた。いや、星ではない。それは巨大な舟だった。
     
    「符玄に彦卿……そうだ、歴史で習った……確か羅浮の——」
    『時空間転移に入ります。安全ベルトを付けてください』
     
     無機質なアナウンスの後、文字通り光の速さでその舟は見えなくなる。アキヴィリの航路から大幅に逸れたこの舟を見つける事はもうできないだろうと言う確信に似た直感が僕にはあった。両胸の前に手を合わせて信じてもいない神に対して今だけは祈る。
     
    「——願わくば、2人の亡霊に安寧が在らんことを」
     
     
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