とある任務での一幕だった、世界を救うことよりはなんて事ないもので、ウルヴァリンとデッドプールがセット扱いされている特殊なこの世界。駆り出された不死身二人にとって、その任務は楽勝と言っても過言ではなかった。
敵の本拠地に潜入する際の手際も完璧、お邪魔しますと律儀な挨拶を高らかに響かせながら入ったものだから、入った瞬間からライスシャワーのごとく空薬莢が降る。カランカラン、床に落っこっては小躍りするそれらに、軽口を阻まれてしまったが。サクッと始末、もちろん致命傷を避けて、どんどん先へ進んでいく。
手強くはない相手、しかし小狡い頭をフル回転させて途中から一矢報いることだけに心血を注ぎ出した。こうなると、どんな相手だろうが面倒になってしまう、倒すのが、ではなくて後始末の話。
しかしまぁこの二人の前で、小狡い策略を巡らせたところで、付け焼き刃というところも相まって簡単に破られてしまう。敵のアジトに攻め入った二人はサクサクと攻略していき、逃げ回った敵は最後の部屋へと追い詰められた。
「はぁ〜逃げ足早すぎ。大人のオモチャでも隠し持ってんの?」
「ウェイド、早く済ますぞ。」
「わかってる、ガッツクなよ嫌われるぞ。」
「我々はそう簡単にやられるわけにはいかないのだ!」
「こんなトコまで追い詰められて言うセリフがそれ?もっと早くに言っておくべきだろ。アニメが終わった後に離れて見ろとか言われたらどう思う?馬鹿らしいよな?」
「お喋りめ。」
「よく言われる。」
追い詰められた敵さんは何かのスイッチを押した、悪あがきの果てに建物ごと爆発させるつもりなのだろうか。その攻撃が効くのはアダマンチウム骨格じゃない凡人の我々のみなのに。と、思っていたら地面が大きな音を立てて揺れ始めた。
そしてエレベーターみたく部屋ごと上へ上へと登っていき、轟音で耳は破裂しそうだし、振動でマッサージができそうだ。
やってやったぞ、と言いたげな敵の顔を見ながら、さっさと殺しておけばよかったな、というちょっとした後悔が生まれた瞬間、ついに地面を突き破って地上へ出た。天井と柱と床しか残っていない、かつて部屋だったその空間は一般人の目に晒されて、すぐさま静寂に包まれた。
何が起きたのか、今や屋根となった天井の上には巻き込まれた人たちがいる。とにかく事がこれ以上大きくなる前に片付けよう。
「俺がお喋りさんならアンタらは目立ちたがり屋だな。ふ、俺ちゃんはどっちもだけど。」
そう言って残党を切り倒していく、いつも通りだ。目覚めのコーヒーと同じくらい嗅ぎ慣れた硝煙の匂いも、目覚まし時計と同じくらい聞き慣れた銃声も悲鳴も爆発音も。退屈であくびが出てしまいそうなほどのいつも通りをなぞっていたが、イレギュラーはいつだって起こりうる。
倒したと思った敵が何故だか起き上がってきて、瓦礫の下に埋もれたサブマシンガンを引っ張り出してきた。
フルオートに切り替えた銃口がコチラを向いている。不気味とも言える顔で(どの口が言ってんの?)ニタニタ笑っては、トリガーに指をかけた。
「ハハハ、死ねえ!」
「それ言うやつ皆んな死ぬんだよね、何でだろ?俺ちゃんが銃で撃っちゃうから?」
ウルヴァリン、デッドプール 、両者に浴びせかけられた銃弾の炸裂する音で、近くにいた野次馬どもはそそくさと逃げていった。素晴らしき俊足で駆けつけて、銃をぶっ放している男を切り倒した。コイツが最後の一人だ、コイツの巻き添えになって他のやつはわざわざトドメを刺さないでいたのに死んだ。
だから、これで終わりだ。
「ハァ"〜つっかれた、アガ!?」
「い"っ。」
終わったんで帰ろうとしたところ、残っていた弾が体を貫いた。体内に残っていた弾にぶつかって、古典的ニトロブーストで押し出され、近くにいた野次馬の肩に命中。野次馬は痛がってのたうち回る。
ローガンに当たった弾は、貫通なんてするわけもなくポロポロと地面に落ちて軽い音を鳴らす。
「あーあーあー…俺ちゃんの血液付き銃弾なんてレアだぜ?安心しろよエイズも肝炎も梅毒もねぇから……多分。」
「い"でえ、クソっ、ヒーローじゃねぇのかよペテン師があ。」
「……親のセックスなんて、見ても損しかねえだろ?人殺しの場面なんざ、野次馬するもんじゃねぇの。わかるだろ?安い見物料さ。」
どうせすぐに救急車が来る、音が遠くに聞こえてるんだからあの野次馬野郎は死なない。
「ローたん、帰ってメシ食お。」
ダメだ、声のトーンはこれで合っているか?そうだ、ヒーローじゃない。俺はヒーローじゃない、グッチャリとした頭がぐるぐるしていて気持ちが悪い、混ぜこぜになった感情が気持ち悪い。スッキリしない頭をずっと抱えておくと死にたくなる、自殺したくなる、大変になる。
俺ちゃんはヒーローじゃない、ヒーローになれない、だから巻き添えの人間に逆恨みされちまう。ウルヴァリンならそんな事にはならない?ならないだろ。ならないんだよ。