ディーンが少し喘いでるので注意です
モーテルの部屋に、奇妙な静けさが漂っていた。ディーン・ウィンチェスターはベッドにいつもの横柄な態度で、ではなくちょこんと座り、頭に生えた長い垂れ耳を自らの指で触っていた。
腰の付け根からはふわふわの尻尾が伸び、時折ピクンと跳ねている。昨夜の狩りで魔女の呪いを浴びた結果、ディーンは半分うさぎになってしまった。サムはノートパソコンと向き合いながら呪いの解除法を調べていたが、ディーンの声に目を上げた。
「サム…なんか腹減った。野菜食いたい…ニンジンとかさ…。」
ディーンは甘えた声でせがみ、垂れ耳をピクピクさせた。
サムは目を丸くし、目の前で「野菜食いたい」などと言った兄貴を疑った。あれだけサムが口酸っぱく野菜を食べろ、ポテトは芋だが野菜を食べたことにはならない、牛が草食動物でも肉は肉だ、と屁理屈をこねるディーンに野菜を食べさせようとしたのに。
呪い様様と言ったら兄には申し訳ないが、いつもこうであると助かる。しかし、テコでも野菜を食わないディーンが野菜を食べたがるほどだ、呪いの力は見た目だけでなく、知らぬ間にディーンの本能にまでへばり付き始めたようだ。
「ディーン、お前、野菜なんて普段食わないだろ。ハンバーガーじゃなくて?」
と、半信半疑というか、呆れるように聞いた。だが、ディーンはベッドの上で膝を立ててサムの専売特許であるパピーアイズのような目で見つめながら
「ん…いや、うさぎだからさ…ニンジン欲しい…頼むよ、サミー。」
と懇願した。その無垢な表情に、サムは「マジか…呪いの影響だな。」と呟き、渋々立ち上がった。
「わかったよ。買いに行ってくる。キャス、ディーン見ててくれ。」
「あぁ。」
とカスティエルに声をかけ、モーテルを後にした。面倒だと言いたげな雰囲気を出しながら部屋を出たが、内心「ディーンが野菜って…笑えるけど、ちょっと可愛いかも。」と言わなかった本音が心だと簡単に溢れる。
インパラの運転席に乗り込んでここから一番近いマーケットに向かって、無農薬野菜やらをいろいろ買い込んだ。いつもは自分が乗っている助手席に紙袋に詰め込まれた野菜が代わりに座っている。これをディーンが見たら「オレのベイビーに土臭いもの乗せるな」と不機嫌混じりの軽口が飛んできそうな程だ。
▽
サムは手にニンジンやレタスが大量に入った袋を持ってモーテルに戻った。
「ディーン、ご所望のニンジンだぞ。」
そう言いながらドアを開けた瞬間、彼は目を疑った。ディーンはベッドの上でカスティエルにベッタリとくっつき、自身の髪色と同じ毛色の垂れたウサギらしい耳をピクピクさせながら「キャス…気持ちいい…。」と甘えた声で呟いていた。
カスティエルはトレンチコートの腕にディーンを抱え、頭を優しく撫でていた。ディーンの尻尾がカスティエルの太ももに擦れるたび、ディーンの垂れた耳をカスティエルの指先がなぞるたび、その隆起した喉から「クゥ…クゥ…。」と甘い鳴き声が漏れていた。
サムはその光景を見て血が一瞬で沸騰するような感覚に襲われた、何を見せられているのか、何をしているのか、もはやそんなことを冷静に考えられる脳みそは残ってない。
「ディーン! お前、僕に買い物行かせて、キャスと楽しんでたのか!?」
「さ、サム…。」
持っていた野菜入りの袋をテーブルに叩きつけるように置いて、胸に湧き上がった嫉妬と怒りを隠しもせずに二人をギロリと鋭く睨む。カスティエルは憤慨したサムに落ち着くよう声をかけようとしたが、流石にこの状況だときっと逆効果になるであろうことを察して、何も言わずに放置した。
「こっちがわざわざニンジン買ってきたのに、天使とイチャついてるなんて…。」
ご立腹のサムだが、そんな様には目もくれずにディーンはカスティエルからの緩やかな刺激に目を細めながら喜んでいる。
ディーンの無邪気な甘えが、無防備な喉や瞳がカスティエルに向けられていることに苛立ち、彼は悪辣なイタズラ心を抑えきれなかった。
「ディーン!調子に乗るなよ!」
サムはディーンの腰に近づき、ふわふわの尻尾をオモチャみたいにギュッと掴み、握りつぶしてしまうのではないかというくらいに力を込める。ディーンは「ヒャウッ!」と驚きの声を上げた。
ディーンは尻尾を掴まれた瞬間、腰を中心に体の隅々まで走る電流のような刺激に震える。
「サミー…やめ…うっ!」
驚きの声が甘い呻きに変わり、目の前がチカチカし、全身の力が緩んだ。尻尾から送られる感覚が背筋を震わせ、ディーンは目の前のカスティエルに縋りついた。
「キャス…助けて…。」
ディーンの声は快楽に散々やられてしまい甘く掠れ、垂れ耳がピクピクと震えた。カスティエルのトレンチコートの裾を握り、その借り物の体に身を寄せて顔を胸に押し付けた。
「クゥ…キャス…気持ちいい…。」
その声は色っぽく、うさぎの本能が彼を支配していた。
カスティエルは戸惑いながら「ディーン、どうした?」と呟き、ディーンの頭を撫でた。柔らかい垂れ耳に指先がちょこんと触れると、ディーンは「クゥン…!」とさらに甘い声を上げる。
耳が敏感に反応して、さらにディーンが強くカスティエルを抱き止めようとする。
「これは…呪いの影響か。」
そう呟きつつ、珍しく素直なディーンの愛らしさに心が揺れた。ディーンはカスティエルの腕に抱きつき「キャス…欲しい…もっと…。」と甘くねだり、腰を微かに揺らして体を擦り付けた。その動きは色っぽく、ストリッパーのよう。表情はまさしく発情といった具合で唇が半開きになり、瞳が潤んでとろけていた。
ディーンはカスティエルの首に腕を回して唇を耳元に寄せる。
「キャス…欲しい…もっと触って…。」
甘く囁き、腰を揺らして擦り付けた。酷く熱をもった吐息がカスティエルの耳に届き、彼のトレンチコートにディーンの熱い体温が伝わった。コチラまで可笑しくなってしまいそうな程の、溺れるような甘い美しさと、官能的な囁き、それらは肉欲の沼に引き摺り込まれる天使を笑うだけで、なんの救いにもならない。
カスティエルは「ディーン、これは…正気ではない。」と呟き、サムに助けを求めた。
「サム、どうしたらいい?」
その声は困惑に満ちていた。だが、サムはノートパソコンに目を落とし「くれてやったら? キャスが甘やかしたんだろ。」と、冷たく返した。その声色には怒りと冷静さが混じり「キャスがディーンをどうしようが、コッチは呪いを解くだけだ。」と割り切った。もはやそう割り切らないと天使様に過剰なサービスをしている兄に対して、何をしでかすか自分でもわからない。
この暴れ出しそうな感情が、兄の尻尾を握りしめた感情が、怒りなのか嫉妬なのか、戸惑いなのか何が何だかで、気が狂いそうになる。
カスティエルはディーンの潤んだ瞳を見下ろし、辛そうな顔に胸が締め付けられた。
「淫らな行いは天使として許されない…ディーンは呪いで正気を失っている…。」
天使は自分にそう言い聞かせた。だが、ディーンの「キャス…満たして…。」という甘い懇願と、腰の動きに与えてやりたい衝動が湧いた。だがグッと堪える、彼が求めてる刺激を与えてあげることはできない。
カスティエルはディーンの耳を優しく撫でた。
「ディーン、我慢しろ。サムが呪いを解く」
と呟き、頭を抱き寄せた。ディーンは「クゥン…キャス…」と甘えつつも、満たされない欲求に体を震わせた。
▽
サムは資料を読み終え「呪いの解除は月桂樹の葉と塩だ!」と立ち上がった。キッチンで月桂樹を焚き、塩をディーンに振りかけて呪文を唱えると、煙がディーンを包み、垂れ耳と尻尾が消えた。
「うっ…何だ…?」
ディーンは目を瞬き、人間に戻った。サムは「ディーン、元に戻ったぞ!」と笑い、カスティエルは「呪いが解けた。」と安心したように頷いた。ディーンは「俺…何してたんだ?」と二人に尋ねる、記憶は曖昧だがなんだか少し恥ずかしいようなことをしていた気がする。
カスティエルの温もりとサムの怒った顔が残響として残った。
サムはニンジンを手に持ちながらディーンに迫り。
「ディーン、お前、野菜食いたいって言ったよな?」
とからかった。ディーンは「うさぎだったのか…気持ち悪ぃ。」と顔を赤らめ、カスティエルは「君は…非常に魅力的だった。」と呟いた。