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    todome_Hayo

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    todome_Hayo

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    頭痛

    頭痛

    目を覚ました花垣タケミチは夢の中からも着いてきたような、そんな頭痛に腹を立てながら起き上がった。締め付けるような痛みがこめかみを刺し、脈打つ鼓動が脳みそで感じられる気がして指先を額に当てる。ストレスか、疲労か。それとも不良に殴られまくってとうとう痛覚がダメになったのか。
    理由は分からないが、とにかく我慢ならない痛みだった。

    「くそ…頭痛い…。」

    そう呟きながらタケミチはリビングの戸棚から強めの頭痛薬を取り出した。ぶん殴られたときにもすぐ痛みを抑えてくれる、便利で万能なお薬だ。規定量は2錠。しかし最近は飲み過ぎのせいか、耐性がついてしまっていて、2錠では痛みが引かないかと思い、勢いで5錠を一気に水で流し込んだ。

    これでなんとかなるだろ、と自分に言い聞かせ、学校へ向かった。

    しばらくすると、頭痛は確かに引いてきた。だがその代わり、妙な感覚がタケミチを襲った。頭がクラクラして、視界が揺れる。立ち上がるたびにふらつき、まるで地面が波打っているような錯覚に陥る。体の真ん中にある芯をおもしろ可笑しく子供に突かれているみたいな。

    「やべぇ…薬、飲みすぎたか?」

    痛みのない頭の中で後悔したがすでに手遅れで、頭痛が治る代わりに手に入れた不愉快な体の心地は、時計の針が午後に差し掛かってもタケミチの手元に残った。

    その日の夕方、東卍の集会が武蔵神社で開かれた。タケミチはなんとか気合いで参加したものの、いまだ手放せずにいた副作用のせいで立ちくらみがひどく、仲間たちの声が遠くに聞こえる。万次郎の号令や龍宮寺の指示が頭に入ってこない。ただ立っているだけで精一杯だった。

    「タケミチ、お前顔色悪いぞ。」

    急にかけられた。声の主は三ツ谷で、心配そうな顔をしてタケミチの顔を覗き込む。

    「いやぁ、寝不足で。」

    しかしタケミチは無理に笑って誤魔化した。今にも倒れそうだったが、ここで弱音を吐くわけにはいかない。そう思って歯を食いしばっていた。

    すると突然、一虎が手を挙げて言った。

    「悪い…気分悪いわ。ちょっと休ませてくれ。」

    一虎の声はいつもより弱々しく、額には汗が滲んでいる。万次郎が眉を寄せ「一虎、大丈夫か?」と聞くと、一虎は小さく首を振った。

    「一虎がそんなんなら仕方ねぇ。今日はここまでだ。」

    万次郎が集会を中断し、皆が一虎を気遣いながら解散を始めた。タケミチは正直ラッキーと思って神社の出口に足を向けた。しかし誰が言ったか、タケミチが一虎の近所に住んでいることを言い出して、タケミチが送るかのような雰囲気が流れ出す。

    もうこうなってしまえば「ええ、無理っすよ!」とかは言っていられない。仲間を見捨てるクズの烙印を押されて、何の信頼も無くなる。

    仕方なく「送る」と申し出た。自分もフラフラなのに、仲間を見捨てるわけにはいかない。と言い聞かせて自らを奮い立たせた。

    一虎を支えながら歩く道すがら、タケミチの頭は限界だとアラームを鳴らすように頭痛とめまいやらを交互に繰り返させた。薬の効果は波のようでまだ残っているのか、残っていないのか。わからないが、足元がふらつき、冷や汗が背中を伝ったと思えば、ズキズキとした痛みで目が覚める。

    一虎は「悪いな、タケミチ…。」と呟いたが、タケミチは「いいンすよ、仲間でしょ。」と答えた。
    なんとか一虎を家まで送り届け、扉が閉まるのを見届けた瞬間、タケミチの体が限界を迎えた。
    玄関の扉に背中を預けて、ズルズルとその場にしゃがみ込んで痛みの波が引いていくのをジッと待った。

    しばらくして痛みがピークを超えたな、と思ったのですぐさま家路についた。

    帰り道、頭痛がぶり返してきた。一歩一歩進んで電灯の下に行くたびに、その光が瞼から脳みそに渡ってズキンと痛む。一定の間隔を空けて光っているソレに、呼応するように主張する痛みが煩わしい。薬の効果が切れ、ズキズキと脈打つ感覚が戻ってくる。

    「ダメだ…もう無理…。」

    頭では分かっていても、家まであと少しが遠すぎる。公園のベンチが目に入り、タケミチはフラフラと近づいて横になった。冷たい木の感触が背中に伝わり、ゾワリと全身に悪寒が駆け巡った。しかし瞼が重くて逆らえず、目を閉じるとそのまま意識が落ちた。

    次に目覚めた時、全身に酷い倦怠感が広がっていた。体が鉛のように重く、関節が軋む。辺りは薄暗くてよく分からなかった。

    「何時間寝てたんだ…?」

    そう呟きながら体を起こそうとしたが、力が入らない。背もたれを掴んで無理やり体を起こせばめまいがタケミチを襲って、目の前がぼやける。

    ポケットに入れていた携帯を取り出して開く、画面には早朝の時間が表示されていて、タケミチはため息をついてそのまま震える体を引きずって家に帰った。

    帰ってきた我が家は何だか暖かい気がして、導かれるように自室のベッドに倒れ、また眠りに意識を投じた。

    しかし何時間かたったころ、腰あたりで震える何かに違和感を覚えて目が覚める。違和感はどうやら携帯が着信によって震えていたらしく、慌てて電話に出た。

    『タケミチ、一虎の具合が悪化した。お前、最後に会ってたよな。一虎どんな様子だった?』

    万次郎の声は焦りと苛立ちを含んでいるように聞こえた、一虎の様子がどうだったなんて聞かれたって全く覚えていない。自分の頭痛が酷く、思い出そうとするだけで疲れる体調だ。
    だが万次郎はそんなタケミチの様子を知るわけもなく、どうだった?とまた聞いてきた。

    「え、っと…。」

    グルグルと頭を強引に回してどうだったかを思い出す、昨夜の記憶なんてベンチで眠りこけたことしか思い出せない。だが言葉を交わせる程度には一虎の体調は安定していた。

    そのことを伝えようとしたがタケミチは頭が働かず、倦怠感で思考がまとまらないまま、ヘラヘラといつもの調子で口が動く。

    「あー、えっと、まぁオレが最後に見た時は平気そうでした…。」

    痛みと疲れでまともな返事ができず、口から出たのはそんな言葉だった。しかし本当にそれ以上でもそれ以下でも無いのだ。

    電話の向こうで一瞬の沈黙が流れ、万次郎の声が低く響いた。

    『…ダチが苦しんでんのにヘラヘラすんなよ。』

    そう言った後、電波の向こう側でわずかながら声が聞こえた。タケミチは連れて行かねえ、このまま向かうぞ、何買えば良い?知らねえ。何気ない日常の会話だ、体調の悪い友人の家に見舞いに行く前の普通の会話。
    それらが耳に入った時、ズクンと体の真ん中が重たくなったような感じがした。間違えたことがジワジワと重みのある場所から広がって後悔に変わる。

    『じゃあな。』

    ブツッと電話が切られて、通話終了の画面が浮かぶ。

    しばらくボーッとした後で、タケミチの目から涙が溢れた。直接聞こえたわけではないがきっと、向こう側にいた彼らはタケミチに失望したに違いない。
    心の中で放ったであろう責められる言葉が勝手に頭の中を駆け巡っては胸に刺さり、自分の無力さが情けなくて仕方なかった。

    泣きじゃくり、頭痛と倦怠感に苛まれつつも、仲間への申し訳なさだけが頭を支配していた。だが申し訳なさもすぐに吹き飛ぶような頭痛が舞い込んできて、タケミチは嫌な思いをしながらリビングへ降りて薬を飲んだ。
    泣いたせいか昨日よりもずっと酷い痛みだ、目の奥がズキズキとして耐えられないと叫び出したくなるほど。乱暴な手つきで戸棚を漁って薬を取り出し、ぶちぶちぶち、とアルミホイルを突き破り白い錠剤を手に出した。残りわずかな数だけ残してまた規定量を超えて飲み下す。
    はやくはやくはやくはやく、サッサとこの気持ちと共に頭痛も消し去ってくれ。と願いながらコップに入った水を飲み干す。少しだけ喉につっかえた錠剤の苦味が、またタケミチの不愉快な後悔を煽って笑う。

    全てがダメダメだ、シャワーを浴びてボンヤリした意識に服を着せたら、ふよふよと導かれるようにベッドに吸い込まれる。ズブズブ、という音が聞こえそうなほど緩やかな入眠に抗う気持ちは起きなかった。



    頭痛に苛まれてからもう3日、食欲も失せて体が気だるい。学校に行くフリをして親が家から出て行った隙に家に帰って、ベッドで横になっていた。すると机に置いておいた携帯が震えてタケミチを呼び出す。

    慌てて携帯を引っ掴み、通話ボタンを押す。

    「はいっ。」
    『あ、タケミっち?』
    「マイキーくん?」

    相手は万次郎だった、一体なんだろう、少し嫌な気持ちがぶり返す。今度こそ間違えた言葉は言わないように気をつけないと。

    『一虎の体調が良くなんねえから見舞いに行ってくれねぇ?』
    「オレが?」

    コレはちょっと間違えたかも。ドキドキしながら出方を待つ。

    『こんな時間に電話かけてすぐ出たのお前だけだし。オレもいまトイレから電話してるし。』

    そう言われて時計をチラリと見やる、確かに学生ならお勉強に取り組む時間だ。きっと三ツ谷や場地にも電話したが、全員授業中で電話に出られなかったのだろう。万次郎はこれ以上授業を無断で出ていけば、真一郎へ連絡が行く事になっているので、誰かに頼らざるを得ないのだ。
    そうしてものの見事にいま一番暇しているタケミチを引き当てた。

    「あー、そうっすね。」
    『じゃあ見舞いよろしくな。』
    「…はい。」

    電話はまたブツッと切られて、タケミチは渋々体を起こした。ズキン、頭が痛む。残り少なくなった薬を全て手のひらに出して飲み干す。
    家を出て一虎の家に向かって歩き出す、日陰に入ると寒い、日向に出ると暑い。背骨がこんがり焼けたみたいに意識がふわりとする、薬局に入ると少し寒くて、早歩きでカゴに物を入れていく。

    冷えピタとお粥とポカリを買ってすぐに店を出た、一虎の家に行ってインターホンを鳴らすが誰も出ない。とりあえずオートロックのマンションを強引に入る気も起きないので、部屋番号のメモだけ残してフロントに置きそのまま家に帰った。

    家路に着いた時にはもうヘロヘロで、買おうと思っていた頭痛薬を買い忘れた事に気がついてちょっと絶望しながら眠りについた。
    眠りの中でさえもタケミチは頭が痛くてうまく歩けない、横に並んで歩いていたはずの万次郎や千冬、敦やタクヤたちがドンドン明るい方向へ歩いていくのに、ボヤける視界のせいでそちらへ向かえずに闇の中へ勝手に足が進む。
    違うのに、行きたいのはそっちじゃないのに。と思いながらも足は自分の意思とは真逆に動く。肩に感じていたはずの人の気配は背後に、背後にあったはずの気配は次第に感じられなくなって、とうとうタケミチは一人ぼっちとなってしまった。

    孤独が北風のように吹き曝してタケミチはその恐ろしさにハッと目が覚める、誤魔化すように携帯を開くとメールが届いていて、内容は一虎の見舞いをちゃんとしなかった事に対するいらだちが連なっている。
    インターホンを鳴らされたとき、一虎は起き上がれずにいたらしいが東卍の仲間内では階段のある場所によじ登って入り、部屋まで向かうのが当たり前。だが一向に来なかったのでエントランスまで降りてメモ書きのあった袋を持って部屋に帰ったらしい。
    タケミチはそれを読んだ時「動けるんじゃん」と思いつつ「オレのところにも頼んだら薬買ってきてくれんのかな」とすこし自嘲気味に考えたが、下らないな、と思ってその思考をシャットダウンさせた。
    とにかく、一虎の部屋まで行かなかったのは確かなので「すみません」とだけ送って携帯を閉じた。

    ここで「でもでもオレも体調悪くて、だってだって。」と弱音を吐いたら、白い目で見られる気がして嫌だ。プライドがどうこうとかではない、単純にここで出す手札としては悪手であるというだけ。言い訳は不良にとってダサくて、命乞いの次に酷いもの。宿題やってきたけど忘れました、みたいな苦しさがある。
    たとえ真実だとしてもだ。

    「薬…。」

    ズキンと頭が痛む、体の真ん中も痛い。じくじくと。



    タケミチの体調が良好に向かわないまま数日流れた、一虎はすっかり調子が戻り集会がまた開かれる事になった。タケミチにももちろんその連絡が来て、嫌だな、と思いながらも行かなければならない立場なので仕方なく行くことにした。

    武蔵神社には男たちが集まっていて、その中でも一際目立つ頭の彼が人に囲まれている。調子はどうだの、もう平気か?だのと聞かれている一虎は笑いながら「へーきへーき」と答えている。
    タケミチの頭の中に入ってきたその笑い声は、ぼわぼわと反響した後に目ん玉の後ろを突き刺す痛みに変わった。
    ハッキリ言ってこの場で横になって良くなるまで休みたいが、そんな事をしたら「一虎ばかりが体調不良で構われていて楽しくないから、自分も同じようなフリをして構ってもらおうとしている」みたいに映るではないか。
    そんなの恥だ。なのでタケミチは二本の足で踏ん張ってその場に立っている。石畳を進み一虎のそばに向かう。

    「一虎くん、調子どうっすか?」

    そしてもちろん、先輩に対する気遣いも忘れない。

    「ん?へーき、余裕よ。」
    「あんま無理しないで下さいよ!」

    そう言うと一虎はへへへ、と笑ってピースをしてきた。自分は、自分が言ってもらいたい言葉を人にかけているんだな。と頭の中で一瞬痛みが治って、聞きたくない言葉が誰かによって囁かれる。出来の悪い脳みそだ。宿主の嫌がることしかしない。

    「じゃあそろそろ初めっか。」

    万次郎がそう言ったので、タケミチは小走りでいつもの場所へ向かった。人の声は聞こえず、風が吹くたびに背後にある雑木林のざわめきは耳に届く。
    万次郎の言葉に耳を傾ける男たちの姿はまるで画面の向こう側にあるよう、タケミチはそれを座って眺めているみたいな気分になる。頭が痛い、胸の真ん中が痛い。

    「解散!」

    その言葉は待ち望んでいたからか、クリアに聞こえた。寝不足みたいに目頭を抑えて前を向き直す、どこかで少し休んでから帰ろう、早く。

    足早に階段を駆け降りて、林の中へ潜り込む。大きな木に背中を預けてゆっくり深呼吸をして気を落ち着かせる、良くはならないが悪くもならない。草をじーっと見つめて立ち上がる決心がつくまでボンヤリする。

    「タケミっち?」
    「!?」

    座り込んでいたら千冬が急にやってきた、驚いてすぐに立ち上がったのが良くなかった。タケミチは頭痛と胸痛で最近めっきり食事をしなくなったので、少し貧血気味だったのだ。椅子から立ち上がったりするだけで立ちくらみが起きる、そんな中でしゃがんでいたのに急に話しかけられて、勢いよく立ち上がればいつも通り立ちくらみは起きる。
    しかし今回のはグワングワンと揺れる視界をどうにもコントロールできない。

    ぐらぐらぐら、ジェンガの最終局面みたいに頭、視界、気持ちが揺れたと思ったら木の枝枝が視界に映った。その時背中に感じた冷たさでようやく倒れたのだと自覚した。

    「タケミっち!どうした?大丈夫か?」
    「あ、平気、大丈夫。」

    千冬が差し伸べてきた手をとって立ち上がる、手で特攻服についた草や土埃を払っていたら視線を感じ、顔を上げると千冬が心配そうに見つめている。

    「なぁ、本当に大丈夫か?顔色悪いぞ。」
    「暗いからそう見えるだけだよ。」
    「……。」

    疑うような目がタケミチを射抜く、心臓が5回ほど脈打った後に辛抱たまらずまたタケミチはしゃがみ込む。
    そして口元を手で押さえた。

    「どうした?吐きそうなのか?」
    「ち、がう…。」

    言いたくなった、頭痛が治らないで悪化していくこと、食事もとれないほどに胸が痛むこと。そんな中で一虎の見舞いに行ったのに、責められたこと。誰一人悪くないから誰にも文句が言えない。

    「はいちゃダメ…。」
    「何が?タケミっち、なぁ。」
    「弱音は、はいちゃだめ。」

    千冬にも伝えられない、自分の醜い感情が涙になってポロリと溢れた。
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