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    todome_Hayo

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    todome_Hayo

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    悪役令嬢(?)もの

    花垣タケミチと佐野万次郎が出会ったのはタケミチが7歳、万次郎が8歳の時だ。タケミチの家はそこそこ長い歴史のある伯爵家で、先祖代々貴族との政略結婚を多くしてきた。恋愛結婚も確かにしてきたが、長い歴史の中で見れば雀の涙程度のこと。そして佐野家は公爵家、王族の血を引いている親族が多く、この国では1番と言っていいほどの高貴な家柄。

    花垣家からの持ちかけで佐野家と政略結婚することとなった、佐野家は4人兄弟で長男の佐野真一郎は年が離れすぎているし、かなりの放浪癖があり家にいないことも多い。次男の佐野イザナは公爵家と血が繋がっていないという噂があり、政略結婚という矢面に立たせるには難しい立場である。そして末娘に佐野エマがいる、年も同い年であるが本人が「政略結婚はイヤ、ロマンチックな恋をして結婚する。」と言っているので、残っている上に「どうでも良い」のスタンスをとっている万次郎が相手に選ばれた。

    そして迎えた初めての顔合わせ、燦々とした太陽の光が公爵家の美しい庭に降り注ぎ、神秘的とまで言える光景を広げる。若々しい緑色の草はまだ朝露を乗せていて、キラキラと反射し宝石を纏っているよう。タケミチはそんな綺麗な庭に何度も目を奪われながら、母に手を引かれて歩く。
    向かいから人が歩いてくる、母が「真一郎様よ、アナタの相手を連れているわ。」と行った。
    前の道に目を向けると、背の高い黒髪の青年が感じのいい笑顔を浮かべてタケミチと同じくらいの背丈の少年を連れているのが見えた。
    互いの距離は歩くごとに縮まり、母と真一郎は顔を合わせて挨拶をした。もちろん伯爵である母が先、タケミチもそれに続いて何度もおさらいした挨拶を申して頭を下げた。

    「わざわざありがとう、顔を上げて。」

    そう言葉が聞こえ、フ、と頭を上げた。
    その瞬間、庭より、荘厳な屋敷より、宝石より何よりも美しいものが目に入り心を奪われた。ピンクゴールドの輝かしい頭髪に陶器のようにまろい肌、大きな黒曜石のような瞳。一つしか年が違わないなんて信じられないほど、大人びたその雰囲気に息を呑む、完全に一目惚れだった。なんともなかった心臓がドキドキと高鳴る。

    「ほら、万次郎。」

    万次郎、今好きになった相手の名前。知っていたはずなのに耳にするとなんとも心地のいい名前だ。

    「よろしく…。」

    聞こえた声は名前の響き以上に心地よく、タケミチの心を柔らかく撫でた。全部完璧、全部が最高。政略結婚である相手に完全に恋をしてしまった。生まれて初めての恋、生まれて初めての感情に浮かされ浮かされてその後なにをしたのかよく覚えていない。気がついたら伯爵家に帰ってきていた。
    次はいつ会えるのだろう、次は一体いつ。とウキウキしながら眠りについた。

    次に出会ったのは1週間後、タケミチが何度も何度も会いたい会いたいと言って会ってもらえるようにしたのだ。茶室で座って待っていると万次郎がやってきた。

    「万次郎さま!こんにちは、今日はいい日ですね!」
    「ああ…ウン。」
    「いまお茶を淹れます!」

    お茶をモタモタと慣れない手つきで淹れていると、見かねた使用人が「花垣様、私どもが淹れますので…。」と言った、しかしタケミチは自分で淹れたお茶を万次郎に飲んでほしいのだ。茶もまともに淹れられないのか、と馬鹿にされた気がしてカッとなって使用人の手を叩く。

    「オレが淹れるの!邪魔しないで!」
    「あ、す、すみません。出過ぎた真似を…。」

    使用人は頭を下げて後ろへと戻っていった、そうして淹れたお茶をカップへ注ぎソーサーの上に乗せて万次郎の前のへ置く。細やかな模様が美しいカップの持ち手をそっと指で掴んで、コク、と一口飲むとカップを戻す。
    その仕草にまた惚れ直してしまう。

    「ま、万次郎さまは何が好きですか?」
    「甘いもん。」
    「甘いもの…あ、お茶菓子!すみません、すぐ持って来させます!」

    立っていた使用人に1番いい茶菓子を持ってくるように言いつけた、万次郎は肘掛けに肘をついてボーッと外を眺めている。つまらないのかな、と思いながらも喋りかければそれなりに返してくれる。まだ顔を合わせてから日は浅い、関係を深めていくにはまだまだ時間はある。
    お茶会が終わり、万次郎が帰ってしまった。その後の予定は勉強だがタケミチは勉強が苦手で、大嫌いだった。何を言っているのかもよくわからないし、正直楽しくないのだ。

    「つまんなーい。」
    「タケミチ様、そうは言っても伯爵様からの命ですので…。」
    「嫌だ!なんでこんなつまんない事…。」
    「しかし…。」

    こんな様子なので伯爵家でタケミチの評判はあまり良くなく、使用人たちはタケミチがいないところでたまに愚痴を言っている。万次郎もそれを聞く事は少なくない。

    初めての茶会からまたすぐにお会いしたいと手紙が佐野家に届く。会って2回目だというのに手紙が届けられたと聞いて、万次郎はすぐに嫌そうな顔をした。そんな顔するんじゃない、と真一郎が咎めたが「だってアイツ、つまんねーし。」と口をとんがらせて「場地んとこ行くからムリって伝えて。」と言い、逃げるようにその場から走っていった。
    日に日に万次郎宛ての手紙は積み重なっていき、流石にもう会いに行けとされ、会うこととなった。タケミチにとっては一日千秋の思いで待っていたが、万次郎にとってはあの気分の悪いお茶会が昨日のことのように思い出せる。
    門の前でタケミチが待っている、ニコニコとしているが万次郎はその笑顔を見るとウンザリした気持ちになる。

    「お待ちしておりました!」
    「…おー。」

    此方でございます!と元気に告げて、万次郎の手を取った。
    そして終えた今日も最悪な気分、使用人の手を叩き「自分でやる」と駄々を捏ねて、万次郎が帰るとなった時「まだいましょう。」と何度も腕を引っ張った。本当に面倒くさいし嫌なヤツだな、と万次郎のタケミチに対する好感度は底辺まで下がっていった。
    政略結婚の相手だから優しくしてやっていた、というよりその振る舞いに目を瞑っていたが、この状態がずっと続くのは正直腹が立つ。公爵家の政略結婚の相手が礼儀作法も知らない無礼なヤツだと、事実だが不名誉な見聞が広まるのもよろしくない。しかし、花垣家ほど歴史ある家が好条件で結婚を結んでくれることなどきっと無い。黙って我慢するしかないのだ。

    「はぁ〜〜………。」

    万次郎は重たく長くため息をついた。
    一方その頃タケミチは次会える日はいつかな、と何度も暦帳を眺めていた。





    そのような日々が一年ほど続き、タケミチの誕生日。もちろん婚約者である万次郎もいる、嬉しくて楽しくて仕方がなかった。部屋に運び込まれたプレゼントの山の上に、一冊の本がポツンと置いてあった。

    「本…?」

    タケミチが勉強嫌いな事なんてみんな知っているはずなのに、こんな皮肉なプレゼントを贈ってくるなんて、とムッとしたがなんだかその本に惹かれてそっと手に取った。そうしてペラペラとページを巡っていくと、そこには信じられないような内容が書かれていた。

    それは正しく予言の書、しかもタケミチの人生というピンポイントなところを予言している本であった。この先起きる事、人生の終わり方。全てが載っていた、しかもこの先の人生はタケミチにとってとても辛くて嫌なことばかり。

    それは万次郎との婚約破棄、その上、タケミチは伯爵家とは血の繋がりのない養子であるので婚約がうまくいかなかったら家を追い出され、そのまま生きていけずに死ぬと言うもの。
    メチャクチャなバッドエンドだ。

    「嘘…こんなのぜってぇ嘘だ…!」

    なんど読み返しても運命が変わることはない。そして自分が伯爵家の養子であることも。このままではいけない、と幼い体にとてつもない危機感が走った。恋愛とかにうつつを抜かしている場合ではない、それどころかその恋愛で自分は早死にしてしまうかもしれない。

    「……待てよ。」

    このまま家を追い出されるのは、政略結婚が上手くいかなかったから。本の記述を見る限り、追い出される際にまあまあの量の金を持たされている(本の中のタケミチはすぐ使って死んだ)ので、もしかしたらこの金を元手にしてなんとか生き延びることができるのでは。
    恋愛なんかにうつつを抜かしている場合ではない、そう、タケミチにいま必要なのは生き延びるための知識、知恵。それを与えてくれる有り余る財力が今あるのなら、存分に吸い尽くして追い出される時は立派に独り立ちできる人間に成長してやる。
    タケミチの意志は強い、と言うよりも己の生命がかかっている人生レール調整の1日目だ、意志が強くなくてはやり遂げられない。

    そうと決まれば即行動、死にたくない。この一心である。

    次の日からタケミチは家庭教師の言うことを聞くようになった、とてつもない遅れがある分をなんとか取り戻そうと机に齧り付いたが、やはりわからないことは多い。その時は教師に何度も質問をして、何度も理解するまで説明を受けた。
    家庭教師はこの変わりっぷりに「タケミチ様の頭に雷が落ちた。」と感動か、恐怖かで泣いていた。
    一般的な教養はもちろん、伯爵家の運営に関わるありとあらゆる分野の勉強もする。税金のこと、土地運営のこと。作物、環境整備に災害対策。余すことなく頭に叩き込まれた。正直、追い出される身なので食べれる野草とかの知識をつけたかったが、そのことを伝えると「飢えた民のために景観保全の緑まで食用になさるとは…!」と謎に感動されてしまった。
    違う、オレが食う。とは流石に言えなかった。

    勉強漬けの日々、まだまだ勉強は嫌いだけど理解しているだけ昔よりはマシかもしれない。

    「そうだタケミチ様、この間聞いてくださったことがあったではないですか。」
    「ああ…(食べれる野草のこと)」
    「それに関しては私よりも今、稀咲家に住み込みで家庭教師をしている者の方が専門的で詳しいんです。稀咲家のご子息はタケミチ様と同い年ですし、もしかしたら勉強を共に出来るご学友ができるかもしれません。」
    「稀咲家…。」

    稀咲家は最近爵位を貰った新興貴族だ、元々銀山の運営をしていたが最近買った銀山にまさかの金脈が通っていて一気に貴族の仲間入りを果たしたのだ。なので次に家を継ぐ稀咲家の子息は勉強を熱心に受けさせられているらしい。
    まぁそんな事は庶民となるタケミチにとっては食べれる野草以下のどうでもいい事なのだが、生きる術を少しでも身につけるために、その稀咲家に住み込みで働いている教師には是非とも会いたい。

    「お会いしたいです!」
    「そうですか!わかりました!伯爵様に伝えてみますね!」
    「はい!」

    タケミチの家庭教師は「民にまで目をやれるほどご成長なされて…!伯爵様もきっと喜んでくださいます…!」と感動したがタケミチの頭の中は「食用野草」でいっぱいだった。
    そこから数日後、稀咲家の門を叩いた。新興貴族とあって屋敷は真新しく新築の煌びやかな感じがある、招き入れられた部屋には少年がいた、稀咲家の子息である稀咲鉄太だ。
    細い腕に難しい本を何冊も抱えていて、タケミチを見るやそれらを机の上に置き頭を下げて挨拶をした。タケミチも同じように頭を下げて挨拶をした。

    「お会いできて光栄です花垣様。」
    「同い年だろ?タケミチでいいよ、オレも鉄太って呼ぶから。」
    「ですが…。」

    男爵家と伯爵家では位が違う。そのことを遠慮しているのだろう、しかしタケミチのマインドは「庶民になっちゃう期間限定伯爵子息」なのであまり自分の身分がどうこうは気にしていなかった。

    「いいから!ねっ。」
    「う、うん…。」

    スッと差し出した手に応えるように鉄太はタケミチの手を握った。
    しばらくすると住み込みと聞いていた家庭教師がやってきた、タケミチは食べれる野草について聞いた。どうやら先にその事について聞いていたのか、資料をまとめて持ってきている、中々に優秀な家庭教師だ…、とタケミチは驚いた。
    資料には食べれる野草と、それに似た毒のある野草、どんな土壌で育ちやすいのか、どんな環境が適しているかなど細かく書いてあった。
    タケミチは教師の言う事を必死に聞いたが、タケミチ以上に鉄太は熱心に色々な質問をしていた。もちろん野草のことではない、経済学や地理、歴史について何度も聞いていた。

    タケミチは集中力が長く続く方ではない、息抜きをしないとパンクしてしまう。せっかくなので鉄太も一緒にお茶しよう、と誘ったがこれが終わるまで待っていてほしい、と机に齧り付きながら言った。
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