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    @Aoi_utauyo7

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    Knightsの公式設定ほぼ無視異能×ホラー小説
    二度と進まなそうなので供養

    設定

    朱桜司
    一般人。言霊によって生み出された霊にお憑かれ様された今回の被害者。本来ならば、生みの親である渉や、最初に話を聞いた桃李が憑かれるところだが、同じく桃李から話を聞き、少々メンタルが参っていた司が話の男とたまたま状況がリンクしたため憑かれた。桃李の帰宅方法が徒歩だったらそっちが憑かれてた。渉は憑かれないでしょ(適当)
    英語混ぜて話したら「なんだ!?お前ヘンテコなしゃべり方するんだな〜!インスピレーション湧いてきた!」てレオに言われた。変じゃないし。


    月永レオ
    お祓い屋さん。と言ってもかなり特殊。作曲の天才であるレオの作る曲はどうやらかなり神聖なもので、霊を払う効力があるらしい。曲を楽譜に書き起こし、その力を楽譜に込めて除霊する。霊は楽譜に触れると簡単に払われるみたい。楽譜=お札(カンスト)的なイメージ。
    下級霊は1,2曲ぶんで除霊できるが、今回のように厄介な霊は数曲必要なためちょっと大変だった。
    あくまで楽譜に力が込められているだけでそれ以外特に力は無く、自分が霊に近づくことはできない。そのため、ものを自在に操れる泉に頼っている。
    なんでこうなったのか作者が分かってないから本人も分からない。
    両親は数年前に他界、妹は親戚に引き取られたが、泉を連れてくるまで自分は一人でかつて家族がいた家に篭っていた。


    瀬名泉
    前述の通り、ものを自由自在に操れる。基本的に自分が望んだ通りに動かせるが、感情が高ぶった時、力が暴走する。人前で何度かその状況に陥り、孤立してしまい悩んでいた。そんな時、たまたま力を使っていた場面をレオに見つかり、無理やり連れてこられた。初めは不審に感じていたが、レオの人柄に触れ、悩みを吐露したところ「じゃあおれと一緒に住むか!」と言われ現在に至る。レオの同居人第1号。レオと一緒に、どうにか力を制御できるように特訓している。
    レオとは良い相棒で、レオの曲を起こした楽譜を霊に飛ばすことでこれまで幾度となく除霊を重ねてきた。本人は絶対に口にしないが、ここまでレオに合わせられるのは自分だけだと自負している。


    朔間凛月
    目星をつけた霊の精神に接触し、情報を読み取る能力。目星をつけた霊が、いつどこでなぜ死んだのか、という情報が映像化し、瞬時に頭に流れ込んでくる。逆に、自分が霊の精神に入り込み、現世に留まって何をすることが目的なのかを聞き出すことも可能。悪霊と化した霊は、憎悪や悪意にまみれ、言っていることが支離滅裂だが、霊も元々は人間だったため精神の奥深いところに行けば落ち着いて対話することもでき、場合によってはレオや泉が力を使わなくても凛月一人で成仏させることもできる。今回、司に取り憑いた霊が人の口から生み出されたことに気づいたのは凛月。何度も精神に潜り込もうとしたがそれが叶わず、もしやと思い司から話を聞く。
    体力こそ使わないが、悪霊と化した霊は大抵生前酷い死に方をしているため、その映像を見るとメンタルが削られるので本当はあまり使いたくない。
    吸血鬼設定はないが、霊が出現する時間は大抵夜なので、夜がんばって昼に寝ており、どちらにせよ昼夜逆転している。
    兄である零がたまたまレオと知り合いで、零が何気なく凛月の能力について話したところ、それを面白がったレオが引き取った。あんまり個人の情報は流したら行けないんだよ…(本来の零なら簡単に話すことはないだろうが、他に凛月がレオに引き取られた理由が浮かばなかった。ガバ設定)


    鳴上嵐
    怪力。
    普段は人並み程度の力だが、戦闘時になるとその十倍の力が出せる。レオの曲が間に合わなかった時、時間稼ぎとして戦う。物理攻撃がきく霊ときかない霊がいるが、きく霊にはとことん攻撃。戦い方は、その十倍の力で殴る、蹴る、ちぎる、抉る、重いものを投げるなど方法は様々。それでも物理攻撃だけでは成仏させられないので、本当に時間稼ぎ。レオの曲が完成した頃には霊の方がボロボロになっている事がある。ギャグ?凛月曰く、「いつもの可愛いナッちゃんはいない」。攻撃がきかない相手は凛月にパス。
    この中では最も力の制御ができる。というのも、まだレオの家に来て間もない頃、精神が不安定な状態に陥った時、力が暴走し、扉の取っ手を粉砕するなどしたため、「最悪家が壊れる」と判断したメンバーは嵐を最優先に力の制御の特訓をした。
    公園で蹲っていた嵐をレオが発見し、力が暴走し不気味がられたことをポツリと話したことで、引き取られた。同居人3人目。

    以下本編

    しんと静まり返った住宅地を、朱桜司は一人歩いていた。車通りのない道に、自分の靴音だけが響く。真っ暗闇に包まれるそこは昼間とは別世界のように不気味で、思わず身震いした。そそくさと自宅までの足を早める。時刻は22時を過ぎていた。

    この時間は毎日通る、塾の帰り道。初めこそ心許ない街灯の光だけの道に若干怯えつついたが、最近では慣れたものだ。しかし、普段ならばスタスタと進むこの道が今日はやけに長く感じた。もちろん、実際距離は変わっていない。ただ、司の今の精神状態がそう感じさせていた。
    というのも、塾から出る少し前、帰り支度をしていた司に、隣の席の姫宮桃李が一つ、怖い話をしてきたのだ。



    一人夜道を歩いていた男の背後を、見知らぬ女がつけていた。その女に気づいた男は歩みを速めるが、女もそれに合わせてくる。いよいよ耐えられなくなり走り出すが、同時に女は耳を塞ぎたくなるような奇声を上げながら猛スピードで追いかけてきた。捕まったら殺されるーー頭の中で警報が鳴り響く。チラリと振り返った先には、真っ白ボロボロのワンピースに身を包んだ、真っ黒で長い髪の女がいた。一瞬電灯に女が照らされる。その身体は透けていた。
    途中回り道をしながらなんとか女を撒いたことに安堵した男は、自宅の玄関を開けた。

    目の前には、先程自分を追いかけていた女が、不気味な笑みを浮かべて立っていた。



    話自体は在り来りで、その時の司は特に恐怖心を煽られることはなかった。むしろなぜそんな話をしてきたのか疑問に感じ、桃李に尋ねると、「昨日ロン毛が僕を怖がらせるためにこのお話をしてきたから、司にもその恐怖を味わってもらおうと思って!」となんとも下らない理由を話された。ロン毛、というのは、よく公園でマジックショーをしている日々樹渉のことだろう。彼はどういう訳か桃李を気に入り、突然目の前に現れてはちょっかいを出してくるらしい。

    しかしその腹いせに使われたことにカチンときた司は、桃李の執事である伏見弓弦が桃李を迎えに来るまで口喧嘩をしていた。司はよく桃李を「子供っぽい」とバカにするが、傍から見ればどちらも大差はない。
    「坊っちゃまが失礼をなさったようで」、と申し訳なさそうに謝る弓弦に、
    「お気になさらず。こちらも少し熱くなりました」と返す。もちろん弓弦に対しての心からの言葉ではあるが、同時に「子供っぽい」桃李に対し、これが大人の対応だと見せつける目的もあった。それに気づいたのか桃李は可愛げもなく睨んできたが、弓弦に軽く叱責されたことでぷいと顔を逸らし、教室を後にした。
    桃李の家はここから少し距離がある。だから、こうして毎日弓弦が教室まで迎えに来て、下で待っている車に乗って帰宅するらしい。
    だが、司の家は塾からさほど距離はない。いくら毎日22時をすぎると言えど、せいぜい歩いて10分もかからない距離だ。使用人が車を出そう、と提案してきたが、司はそれを断った。なにせ、もう高校生なのだ。こんな些細なことで、いつまでも頼っていられない。

    しかし、今日ばかりはあの時の自分をひどく責めた。夜道を歩く自分が、桃李の話していた男と重なるのだ。
    こんなことなら、せめて今日だけでも迎えを手配すれば良かった。これまでにないくらい、桃李を恨んだ。今度何がなんでも仕返しをしてやろう。ふつふつと湧いてくる怒りも、やがて恐怖に飲み込まれる。背後から視線を感じるのだ。

    とはいえ、先程の話はフィクションだ。多分。幽霊など非科学的なもの、存在するはずがない。
    「幽霊を見たと言うのなら、それは己の恐怖心が生み出した幻覚だ」。幼い記憶で、誰かがそう言っていたのを思い出す。しかしそうは思っても一度恐怖心を覚えればそう簡単には拭えないもので、背筋にぞわりと悪寒が走った。いつの間にか小刻みに震えていた足はそれから数歩進んだのち、ついには止まってしまった。

    ああ、まさか自分がここまで怪談の類に弱いとは。腹いせにと話してきた桃李も桃李だが、そんな作り話にまんまと怯えてしまった自分にももはや呆れてしまい苦笑を零す。
    こんなところで一人立ち竦んでいるのも馬鹿馬鹿しい。未だ情けなく震える足を叱咤し、自宅までの道のりを歩き始めたーーその時だった。

    カツ、カツ、カツ。

    自分の靴音に、別の音が加わったことに気づく。ハイヒールだろうか、靴音がやけに響く。

    こんな時間に自分以外の者が出歩くなんて、珍しい。時間が時間ということもあり、これまで誰かと出会ったりすることなんてなかったというのに。それ以上は、特に何も思わなかった。

    やがてハイヒールの音がしなくなった時、「きっと自宅に入ったのだろう」と思いつつ、なんとなく背後を振り返った。しかし、暗闇が広がっているだけだろうと思っていた視界の先に、女の姿はあった。司から数メートル離れた街頭の下に立ち竦む女は俯いており、表情は確認できない。どこか異様な空気を纏うその女を不気味に思うが、もしかしたら体調が悪く動けないのではないか。もしそうだったとしたら、日本男児として放っておくことはできない、と駆け寄ったがーーその選択が間違いだった。
    来た道を少し引き返し、「大丈夫ですか」と尋ねようとしたところで、気がついた。

    女性の身体の向こう側にある電柱が、ぼんやりと、女性を通して透けて見えるのだ。
    普通ならありえない光景に一瞬思考が停止するが、現状を理解した途端先程までとは比べ物にならない悪寒が全身を駆け巡った。
    目の前の女は、一体何者なのだーーと、その場から動くことが出来なかった司はその姿を凝視して、気がつく。

    ボロボロな真っ白のワンピースに身を包んだ、ボサボサとした長い黒髪の女。それは、どこかで聞き覚えのある姿だった。

    そう、まさについ数十分前、桃李から聞いた話に出てきた女の霊の特徴と、全く同じだったのだ。

    まさか、そんな、ありえない。先程の話はフィクションではなかったのか。

    女から目を逸らしたいのに、逸らせない。アメジストの色をした双眸を、零れ落ちそうなくらい開き、尋常じゃない程震える脚を後ろへと動かした。
    とにかく、この女から離れなければ。
    頭の中でガンガンと警鐘が響くが、恐怖に震えた脚は思うように動いてくれない。

    ざり、と地面と靴が擦れた音がしたと同時に、女が思い切り顔を上げニタリと笑った。その表情は、人間とはまるで思えないほど不気味なものでーーいや、実際本当に人間では無いのだろうがーー本能が「逃げろ」と告げていた。女が司に手を伸ばしたと同時に、思い切り地面を蹴る。もしあれが桃李が言っていたのと同じ霊ならば、自宅に戻るのは危険だ、とどこか冷静に考え、家には辿り着かない道を選びながら。


    背後から奇声が聞こえる。一体どれほど走ったのだろうか。いつになれば、開放されるのだろうか。呼吸が乱れる。苦しい。何度も躓きそうになった。しかし、アレに捕まるとどうなるか分かったものでは無いので、何とか持ちこたえる。
    街中に響くほどの奇声なのに、野次馬のひとりも現れない。もしや、自分一人にしか聞こえていないのではないか。明らかな異常事態に、気がおかしくなりそうだ。いつまで、この状態が続くのだろう。

    ーー私が、一体何をしたと言うのですか……!

    恐怖や理不尽さが司を襲い、瞳から涙が零れ、空中へ放り出された。その時。

    「お前、こっち」

    真横からにゅっとから伸びた手に引っ張られ、「え」と声を漏らした。突然の出来事に頭が追いつかず、いきなり手首を掴んできた目の前の人物を呆然と眺めながら手を引かれるままに、今度は別方向に走り出した。自分と同じくらいの背丈のその人物は、月明かりに照らされキラキラと輝く黄昏色を、一つに纏めている。華奢な身体は一見すると少し背の高い女性を思わせるが、先程の声色から察するに、男性だろう。それにしては、多少幼さを窺えるが。

    と、冷静に分析していたところで我に返る。所謂これは、誘拐というものではないだろうか。名家の御曹司である自分の立場を考えると、大いにありえる。これまでこういったことがなかった為に、慢心していた。やはり、迎えを呼ぶべきだったのだ。

    「……離してくださいまし!」
    「うわあっ、なんだお前、今まで黙って着いてきてたのに!」

    いきなり手を振りほどこうとしたことに驚いたのか、目の前の男は司の手首に込める力を一層強くした。
    「痛っ……」
    なにするんですか、離してください、と抗議の声を上げるが、それに従うつもりはない様子だ。体格の似た人物の手など容易く振りほどけるだろうと思っていたのにそれが叶わず、焦りと不安がじわじわと頭を支配する。
    自分はこれからどこに連れていかれるのだろうか。何をされるのだろうか。先程まで抱いていた恐怖に、新たな恐怖が上書きされる。

    ーー霊のようなものに、誘拐犯に、今日はとんだ厄日です……司は、司は一体どうなってしまうのですか?お父様、お母様……!

    ぎゅっと目を瞑り、脳内で両親に助けを求めるものの、それが届くことは無い。もはや自分に為す術はないのかと諦めかけたその時、突然目の前の男が立ち止まり、危うくぶつかってしまいそうになる。
    たどり着いたのは、こぢんまりとした一軒家だった。近辺に他の家や建物は無く、ポツンと佇むその家は怪しさを隠しきれていない。

    「ここだ!」と快活に笑う男は以降何の説明もせず、扉を開けて強引に家の中へ朱桜を入れようとする。ぐいぐいと腕を引っ張ってくるが、簡単に連れ込まれてたまるものかとなんとか身体に力を入れて踏ん張った。

    「だーもう!面倒くさいなお前!」

    思うようにいかないことに痺れを切らしたのだろう男は、苛立ちを隠すこともせずガシガシと乱雑に自身の後頭部をかく。そして今度は司の腕を引っ張り、思い切り身体を引き寄せて耳元でこう囁いた。

    「お前、このままその状態だとあいつに連れてかれて、二度と戻って来れなくなるぞ」
    「ーーえ」

    貴方、もしやあの化け物が見えているのですか。

    そう問おうと一瞬司の込める力が弱くなったことを、男は見逃さなかった。ひらりと司の後ろに周り、力のままに押し込まれた。しまった、と思うも、時すでに遅し。ガチャリと鍵を掛けられてしまった。
    どういうわけか体格の似たこの男に力で叶わないのは、先程までの経緯で学習した。ここで力ずくで逃げようとするのは得策ではないだろう。それよりも聞きたいことがたくさんあったのだ、今は疑問点を解消するべきだ。

    「あのーー」

    「なぁに王さま、また新しいの連れてきたわけ?」

    なぜ自分を誘拐したのか、これからどうなるのか、先程の化け物が見えていたのか。尋ねたいことは山ほどあったが、それを言葉にする前に、背後から聞こえた声に遮られてしまう。驚いて振り向くと、不機嫌そうなアイスブルーと目が合った。じろりと睨んでくる目に居心地が悪くなり、ふいと逸らしてしまう。

    「ふうん。……ちょっと王さま、こいつなんか弱っちそうなんだけどぉ?ホントに俺たちの役になんて立つわけ?」

    役に立つ?一体何をさせられるのだ。重労働?いや、人一人簡単に誘拐してしまうような連中なのだ、裏の組織と繋がっている可能性だってある。法に触れるようなことをさせられるかもしれない。まさか、誉れ高き朱桜の嫡男が悪事に手を染めることになろうとは、到底考えもしなかった。ああ、お父様、お母様、親不孝者で申し訳ありませんーー
    嫌な憶測が脳内をぐるぐると駆け巡る。司はパニックに陥っていた。
    「はあ!?」
    しかし、思い切り開いたアイスブルーの男の怒り混じりの叫びに、作戦が失敗しマグロ漁船に詰められるところまで想像した朱桜は現実に引き戻された。

    「あんたっ、それホントなの!?」
    「うん。こいつは多分何も力とか持ってないよ。おれが引っ張ってきただけだから!」
    「しんっじらんない!それじゃあただの誘拐じゃん!」
    「わはは!怒るなってセナ!綺麗な顔が台無しだぞ〜。てか、お前だっておれに誘拐されたようなもんじゃん!」
    「それはそうだけど……でも俺も変な力に悩まされてたし、俺的には結果的に都合が良かったから良しとしてるだけであって、この子はまた状況が違うでしょお!?」

    目の前で繰り広げられる口論ーーセナと呼ばれる方が一方的にキレているだけにも見えるがーーに司はついていけない。変な力、とは一体なんの事だろうか。

    「あ、あの……」
    「ああ!そういえばまだ名乗ってなかったな!おれは月永レオ!よろしくな、新入り!」
    「えっ?はあ……」

    おずおずと二人の口論に割って入るが、今度はそう名乗る方に遮らる。何がおかしいのかケラケラと笑いながら言うレオを見ていると、先程まで自身を蝕んでいた不安感は消え失せてしまった。緊張感など欠けらも無い。むしろ、満足に発言できずやや苛立ってきたくらいだ。

    そもそも、自ら名乗る誘拐犯など聞いたことがない。何をよろしくするのだ、こちらは今すぐにでも帰りたいのに。

    しかしそれを表情に出してしまうわけにもいかない。なるべくなら穏便に、この場から脱出したいのだ。意図はわからないが突然人を誘拐した挙句、何の説明も無しに仲間に引き入れようとするレオには何を言っても通じないだろう。
    対してセナと呼ばれる男は、まだ常識があるように見える。先程の流れから察するに、セナにとってこの誘拐は想定外だったのだろう。この人に頼めば、解放してもらえるかもしれない。

    「その……セナ、さん?きっと両親も心配しています。私を解放していただけませんか?」

    腕時計の針は22時30分を指していた。意外にも大して時間は経っていなかったが、普段ならばとっくに帰宅している時間だ。しかし、今ならばまだ「授業が長引いた」と適当に誤魔化すことが出来る。
    本来ならば立派な犯罪だが、あまり大事にはしたくなかった。レオ一人ならばまだしも、警察沙汰にすればきっとセナも巻き込まれるだろう。こんな状況、彼にとっても不本意なようなのに、さらに面倒事に付き合わせるのは気が引けた。
    「あー……えっと」
    てっきり迷いなく首を縦に振ると思っていたのに、バツが悪そうに目を逸らした。朱桜の言葉に曖昧に返事をするだけのセナは、どこか同情したようにもう一度朱桜に視線をやる。その態度に不穏な予感がした。嫌な汗が頬を伝う。

    「え、お前帰るの?」

    セナの代わりに口を開いたのは、驚いたように目を開くレオだった。無理やり連れてきたくせに、何だその口ぶりは。やはり警察に突き出した方が良いだろうか。

    「ええ、もちろん。今すぐ帰らせていただきたいですけれど」
    「ーーでも今外に出たらお前、死ぬよ?」

    先程までの無邪気な表情は何処へやら、鋭いエメラルドに射抜かれた司はごくりと生唾を呑む。

    確かにあの女性は間違いなく幽霊で、自分を執拗に追いかけてきた。今までに体験したことのない異常な出来事に恐怖し、もしかしたら死んでしまうのではないか、とぼんやりと思ってはいたが。レオによって、改めて命の危機に瀕していたと自覚すると、全身からどっと汗が吹き出てきた。
    本来ならば、こんな胡散臭い男の話など信用していなかっただろう。しかし、レオには確かにあの女の霊が見えていて、自分を窮地から救ってくれた。それに、先程までの言動からは想像も出来ないくらい真面目な表情で言われてしまうと、信じざるを得なかったのだ。

    「おれは、アレをあのまま野放しにするわけにはいかないし、だからってすぐ祓えるわけではないから、とりあえず危なそうなお前を保護するために連れてきたけど。まあ、どうしても帰りたいなら無理にとは言わない。って言っても、多分アレ、扉の前に張り付いてお前が出てくるの待ってるから、ここから出た途端連れてかれちゃうと思うけど!」

    それでも帰るか?と聞いてきたが、首を縦に振ることはとても出来なかった。扉に張り付いて、自分が出てくるところを今か今かと待ち構えている女の姿が脳裏に浮かび、心底ゾッとした。
    レオを信じきったわけではないが、だからと言って聞き耳を持たず外に出ることが危険なのは明確だろう。

    「……あなた方は、私をあの女性から匿ってくださるということですね?」
    「ん?まあ、そうだな」
    「そういうことでしたら、お言葉に甘えてもう少しこちらに居させていただきます」

    ニコリと微笑んで見せれば、レオは満足そうに頷いた。その後ろでセナが面倒くさそうに溜息をついたのには、気づかないことにしておく。

    時刻は23時になりかけていた。先程から震える携帯は、きっと全て両親によるものだろう。どう説明しようか、と司は頭を抱えた。



    「さっも言ったけど、おれは月永レオ!ここKnightsの王さまだ!本当は面倒くさいけど、お前を助けてやることにしたから、感謝しろよ!改めてよろしくな、新入り!」

    両親への連絡に悩んだ末、「友人の家に泊まっていく」と電話を入れた。「もっと早く連絡しろ」「どんなに心配したか」と小言を数分に渡って言われたが、高校生ということもあってか、大目に見てもらえたようだ。
    若干納得のいっていない様子ではあったが、次回からは早めに連絡をするようにとだけ釘を刺された。両親に嘘をつくのは気が引けたが、現状を説明して信じてもらえるとも思えないので仕方がない。

    レオの話はやはり現実離れしているし、どこか胡散臭さも残るので、まだ完璧には信用出来ない。しかし、一度は助けられた身なので、ひとまず信じることにした。
    玄関から共有スペースへと案内され、今に至る。外観は、夜だったこともあってか不気味な雰囲気を放っていたが、内装は一般的な家庭と変わらず生活感に溢れていた。我が家ほどではないが十分に広く、立派な一軒家だ。
    ソファに腰を下ろした司はレオの話を聞きながら部屋を見渡した。4人分の椅子に、机に置かれた色違いの4つのマグカップ。レオやセナの他にあと2人、この家に住んでいるということだろうか。

    「で、さっき怒ってたのがセナ!セナは今日も綺麗だな〜、わはは!」

    ダイニングチェアに腰をかけ、スマホと睨み合っていたセナは、話を向けられたことでこちらに視線をやった。さっきはそれどころでなくしっかりと顔を見ることが出来なかったが、確かによく整った顔をしている。

    「ちょっとぉ。誰のせいで怒ったと思ってんの?ホント、ちょ〜うざぁい」
    心底呆れたように溜息をつく。
    「俺は瀬名泉。変なことに巻き込まれて災難だったねぇ。ええと……アンタ、名前は?」
    「えっ、わ、私ですか」
    「アンタ以外に誰がいんの」

    ほら、と促されるが、果たして名乗っても良いものかと逡巡する。出会ってまもない、しかも怪しさを拭いきれないこの相手らに対し簡単に名前を教えるのはどうなのだろうか。とはいえ、事が解決するまで匿ってもらうというのに名乗りもしないというのは失礼に値する。いくら胡散臭いとはいえ、命の恩人に変わりはないのだ。

    「……朱桜司、と申します」
    少し迷って、短く答える。
    「ふうん。じゃあ"かさくん"ね」
    「……はっ?え?はい」
    聞き慣れない渾名に一瞬反応が遅れてしまった。かさくん、と言ったか。自分の事を。生まれてこの方渾名らしい渾名なんて付けられたことがないから、なんだかむず痒い。念の為「それって私の事ですか?」と聞くと、アンタ以外に誰がいんの、と少し笑われてしまった。

    「おお〜い、セナ!おれのマグカップ取ってくれ〜!」

    いつの間にかキッチンへ移動していたレオが大声で泉に向かって叫ぶ。夜だから静かにしてよねぇ!と怒る泉も大概だが、それは言わないでおいた。それくらい自分で取りに来れば良いのに、と小言を零しつつもマグカップを一つ手に取る泉は、何だかんだ面倒見が良いのだろう。四色並んでいるうちの、レオと同じ髪の色のマグカップ。それをそのままレオに渡しに行くーーと思ったのだが。

    「行くよぉ」

    泉は椅子に座ったまま動こうとしない。もちろんレオも取りに来る様子はなく、その場で渡されるのを待っていた。もしかしてーー投げて渡すつもりだろうか。泉からキッチンのレオまでは距離にして数メートル。ものすごく遠いというわけではないが、だからと言って投げてしまうと最悪割れて怪我をしかねない。
    レオと比べたら良識がありそうだという認識はどうやら間違っていたようだ。司の想像通り、マグカップは泉の手を離れた。そしてそのまま弧を描きながら宙を舞いーーということにはならなかった。
    確かにマグカップは泉の手を離れたが、そのまままっすぐ水平に空中を移動し、やがてレオの手に収まった。「危ない!」と喉から出かけた声はとっくに引っ込み、司はその光景を呆然と眺めていた。今、何が起きたのだろう。当の本人らはあっけらかんとしており、まるで自分がおかしいのかとすら錯覚した。

    「……んん?新入り?大丈夫か?おーい」
    「……ふっ、アンタ、なんて顔してんのぉ?」

    おっかしー、と泉はくすくす笑い、変なヤツだな、とレオは不思議そうに首を傾げながら渡されたマグカップにホットミルクを注ぐ。いや、なんだその言い草は。どう見たって今おかしかったのは、変だったのは。

    「あなた達の方でしょう!?」

    ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。数秒思考したがやはりおかしい。普通ではない。さも当然かのようにやってのけたが、この16年間生きてきてこのような現象に立ち会ったのは初めてだった。普通ではありえないのだ、物体が空中を水平に移動するなどと言うことは。かなりのスピードをつければ可能かもしれないが今はそんな様子はなかった。それこそ、何かの能力を使ったとしか思えない。

    「まあ、最初はびっくりするよね。なんか懐かしいなぁ、その反応」





    以下書きたかったところだけ


    「ああっ、湧いてきた湧いてきた、霊感インスピレーションが!」
    「Inspiration……?」
    「書ける書ける、今なら宇宙一の名曲が書けるぞ!最高傑作だ、これならバカ売れ間違いなしだ!待っててベートーヴェン!すぐに追いつくからヴィヴァルディ!お前はどっか行けモーツァルト!」
    「ちょっとぉ、王さまぁ?今はそんなことしてる暇ないの。こっちに集中してくれる?」
    「止めてくれるなセナ!……おい、ペンを取り上げるなよ〜!ああっ、消えていく!おれの名曲が消えていく〜!これは世界的損失だ!いや、宇宙一の名曲だから宇宙的損失?わはは、どっちでもいいや!」




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