ことの始まりある程度整ったデスク、発光するいくつものモニター、そこらに転がった試作品、その他装置やら、なんやら。見慣れたミゲルのワークスペースだ。いつも通り何も変わりはない。はずなのに。
今はそのどれもが見上げるほどに大きい。
「どうしてこんなことに……。」
すっかり小さくなった背中を丸めてミゲルはそう独りごちてみる。デスクの下のかろうじて絡まり合ってない配線の隙間に溜まったホコリがやたらと生々しくてこれが現実だと知らしめてくる。
「なに気取ってるの。シリアスに言ってるけどあなたの好奇心のせいでしょ。」
そう言ってきたライラの呆れ顔がいつもより詳細に見えた。彼女を構成している電子の光の粒の規則正しい配列が肉眼でもはっきりと捉えることができる。蜘蛛の力を得てからというもの通常の人間より遥かに視力が高くなったとはいえ、こんなにもよく見えたことはない。頭痛がする、とミゲルは眉間を指で揉んでみたが効果はさほどだった。
1940