自動糸車は回り続ける いくつものモニターの前に今日もミゲルは立っている。広いソサエティの中で彼がこの場所で過ごす時間の割合はとても多い。
彼は老婆のように背を丸めて、モニターのあちこちに細かく散らばる文字や数字をせわしなく目で追って、新たに文字や数字を打ち込み、蜘蛛の巣状の運命と照らし合わせていく。何時間も何時間も。自ら選んだこととはいえ、無数の宇宙の監視の重責は明らかに彼の人生を蝕んでいた。
時々、目頭を押さえながら、数多あるモニターのひとつに焼き付くほどに映している在りし日の思い出に浸っている姿は、去りし過去にのみ安らぎを求める姿は、いっそ哀れに見える。
あいも変わらずモニターの前で大きな体を小さく丸め、亡霊じみた影を背負ったミゲルは魂の置き場所を無くした常世の存在じみていて。
多次元にいる蜘蛛の運命を背負った者達の絡み合う糸を見張り、カノンを読み解き、異常を見つけると取り除き、断ち切る。まるでたった一人で運命の三女神の役割を担っているようだった。見えない糸車から吐き出される蜘蛛の糸をミゲルは紡いでいる。蜘蛛の巣の形をしたカノンは糸車の車輪にも見えて、ならばミゲルの指先の爪は糸車の針か。その指先がすでに糸を紡げていないことを、彼はとっくに知っていて、その現実を見ないようにしている。
「ハロー、ミゲル。あなたモイラって知ってる?」
「…知らん。」
機嫌が良ければ、なんだそれは、と続けてくるはずだから今はきっと機嫌が悪いのか、それとも、眠気と戦っているのだろう。
「ならいいわ。気にしないで!あなたって不機嫌な顔しててもキュートなのね。」
止まることのない糸車の糸に絡め取られて身動きの取れなくなった、かわいそうな蜘蛛は今日も一人、役割を果たそうともがいている。
「あなたが一言わたしに、助けてと心から言ってくれれば、いつだってみんななかったことにしてあげられるのよ?」
隈が色濃く沈むミゲルの寝顔を見つめながらライラは独りごちた。