朋友の咲み、花の春(後編) ポリポリとした歯ごたえに、舌鼓を打つ。
「うんめぇ~! ウッキキー!!」
やっぱ、煎りたての豆は最高だぜ!
「…………」
ん? 何だ、景勝?
いつも眉間にしわが寄っててゴツゴツした岩みてえな顔が、今、ほんのちょっとだけ動いた。
「……悟空、年は……?」
「ん? 年ぃ? 何だよ急に」
口の中で噛み砕いた豆を、一気に飲み込む。うん、うめえ。
「……節分には、年の数だけ豆を食う。そうして、一年の無病息災を願うのだ」
ひゅーっ、マジかよ!? 節分最高! 人間も、なかなか面白れぇこと考えんじゃねーの!
年の数、ねぇ……ちょーっと遊んでやっか! ウキキッ!
「ふぅ~ん……まあ、ちゃんと数えたことねーけど……軽く五百はいってるかなぁ~?」
「……ご、五百……むう……」
景勝の目が、これでもかってくらいぱっちり開く。俺様の言葉が、よっぽど衝撃的だったらしい。ついには、顎に手を当てて唸り出した。
「……ぶっ、はははっ! やっぱお前、最高だな!」
俺は耐えきれずに吹き出す。こいつ、信じてやんの! いきなりそんな馬鹿みてえなこと言われたら、冗談だって思うだろ、普通!
……ま、ガチなんだけどよ。こいつ、口数は少ないけど分かりやすい奴だから、ついからかいたくなっちまうんだよな。他の奴には、景勝の顔の変化なんて分かんねえだろうけど。俺様には分かっちまうんだなぁ、これが。何でだろうな?
「あー、ははっ……ま、今すぐには無理でもよ、そのうち食えんだろ」
俺は目尻にたまった涙を拭きながら、ポカンとしている景勝の肩を軽く叩く。あー、そんな間抜けな顔しちゃって……またおかしくなっちまうだろ!
ったくよぉ……でかい図体のくせに気が小さくて、馬鹿真面目で、寂しがり屋で……ほんと、可愛い奴だ。
「五百でも、千でも、億千万でも……お前が食わせてくれるんだろ、景勝?」
「…………!」
目をぱちくりさせる景勝に、俺はニッと笑いかける。だって、さっきよろしくって言ったばっかだもんな! 今更『やっぱなし!』はナシだぜ?
「だからよ、これからもよろしくな、景勝!」
「……うむ!」
景勝は大きく頷いて、でっけえ手で豆を掴み取る。
ウッキキィ! そうこなくっちゃなぁ! 俺は重心を低くして、景勝の動きをじっと見つめる。そうだ、これは俺たちの遊びの合図だ。
いつものアレが、来るぞ、来るぞ……
「……豆!」
「来た来たぁ――っ! ウッキキーッ!!」
天高く放り投げられた豆に、勢いよく食らいつく。見事に豆を捕らえたその身のこなしは猿のように軽やかで、華麗で、愛らしくて――えぇっと……まぁいいや。とにかく、やっぱお前と食う豆は最高にうめぇぜ!
「……豆!」
「ウキーッ! 豆最高! もっとくれよ~!」
それにしても、猿扱いもすっかり慣れちまったな。でも嫌いじゃないぜ、こういうの。
だってよ、俺様は知ってるんだぜ。俺と一緒にいると、お前は元気になるって。そんなお前を見ると、俺までウキウキして猿みてえに飛び跳ねたくなっちまう。ひょっとして、これが朋友ってやつなのか? だとしたら、悪くねえな。
俺はなぁ、景勝。これからもお前と豆を食って、馬鹿みてえにじゃれ合えたら――
「……豆!!」
「ウッキー! ウキウキ、ウッキー!!」
……ま、そうだな。楽しいな、景勝!
何だか、体がぽかぽかしてきたな。まだちょっと寒いけど、これから春になるんだっけ? きっと、もうすぐ花も咲くだろうぜ。
……いや、もしかしたら、もう咲いてるのかもしれねえな。
だって……お前も、笑ってるだろ?