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    粟已(あわい)

    @awai_simasima
    字書きです。戦国無双の腐向け みつさこ中心に書いてます。
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    粟已(あわい)

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    2021年の節分に書いた悟空と景勝の話。前編は景勝視点です。

    #無双OROCHI
    wushuangOrochi

    朋友の咲み、花の春(前編) パチパチと、豆が爆ぜる音がする。
     とても静かで、心地よい――
    「よう、景勝! なーにやってんだ……って、豆だあ~!」
     静寂は、雲に乗って現れた友によって吹き飛ばされた。

     悟空は大豆を煎っているのを見るや否や、きらきらと瞳を輝かせ、鍋の中の豆に手を伸ばす。
     わしは、その手を叩き落とす。
    「……まだだ。しばし、待て」
    「お、おう……悪りぃな……」
     言い終えてから、これはしたりと息を呑む。少し、厳しい言い方になってしまったやもしれぬ。別に、静かな空間を壊されて怒っている訳ではない。
     豆が焦げぬよう菜箸でかき回しながら、ちらりと横を見る。悟空はそわそわと待ちきれない様子で豆を見たり、鼻を鳴らして匂いを嗅いだりしている。少し、安堵する。
     豆の皮が破けて、次第に香ばしい匂いが漂う。この世界に来てからというもの、すっかり習慣になっていた。神出鬼没で、いつ現れるか分からぬ友のために豆を煎っている時が、わしは好きだ。
    「そういやぁ、今日はあちこちで人間どもが豆をまいてたが……」
    「……今日は、節分だからな」
    「せつぶん? 何だぁ、それ?」
     豆を覗いていた悟空が、小首を傾げてわしを見上げる。
    「……四季の節目に邪を祓い、新たな季節を迎えるための習わしだ。年の初めには、豆をまく。豆には、邪を祓う力があるのだ。義父上も、戦の前にはよく食べる」
    「ふーん、そっかぁ……邪を祓う、ねえ……」
    「……悟空?」
     猿のような身軽さで飛び跳ねながら話を聞いていた悟空が、にわかに大人しくなる。徐々に沈んでいく声に、わしは思わず悟空を見やる。
    「俺様、悪戯好きだし、昔は天界で暴れ回ってたし……俺も、祓われちまうのかねえ?」
     悟空はがっくりと肩を落として、足元を見つめている。その様が、悪戯をたしなめられてシュンと反省する小猿によく似ていて、可愛らしい。そう言ったら、怒るやもしれぬが。
     ……そろそろ、頃合のようだ。わしはふっと息をついて、悟空に向き直る。
    「……明日から、春になる。また、新たな年が始まる」
     煎った豆を、枡へと移す。ほかほかと湯気が立つ豆を、悟空の目の前に差し出す。
    「……これからも、よろしく頼む。友よ」
     悟空は豆の山を見、わしに目を向ける。大きく開かれた悟空の瞳に頷くと、沈んだ顔がたちまちパッと明るくなった。
    「ウッキキーッ! あったりめーよ!」
     悟空は豆を鷲掴みにして天高く投げ、大きく口を開けて飛び付く。
     その笑みに、わしはほっと息をつく。友誼を結んだ者に、邪気などあろうはずがない。この不思議な世界で、友と出会って知ったことだ。
     わしは、心から感謝している。悟空と出会ってから、好きなものが増えた。豆を煎るひとときも、お前の生み出す喧騒も。何より、友の笑顔を見て嬉しいと思う心も。すべて、お前がわしにくれたものだ。
     悟空は、猿のように――否、猿以上に嬉々として豆を頬張っている。
     今日で冬が終わり、暦の上では春になる。とはいえ、吹き抜ける風はまだ冷たい。
     だが――
    「うんめぇ~! ウッキキー!!」
     悟空は一つ、また一つと豆を放り投げていく。その屈託のない笑顔に、わしの心が華やかに色付いていく。一足早く、花が咲いたようだ。きっと、麗らかな春は目前だ。
     わしは、決して忘れぬであろう。新たな春を、友の笑顔とともに迎える慶びを。
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