一途に思う少年と、応えられない人妻の話「好きです」
いい歳した、夫を既に持つ女に毎度のこと求婚してくる彼は、まだ幼い少年の姿をしている。小さな体の割に雰囲気は少し落ち着いていて、まるで外側と内側がちぐはぐのよう。
「ありがとう」
それだけ言って、頭を撫でてやる。子供とはいえ、感情の表現があまり得意ではないようだった。少しだけ眉間に皺を寄せ、納得いかないと主張している。しかし、何度も言うようにこちらは既婚者である。子供の戯れに、正面からきっぱりと振るのも可哀想だと思ってのことなのに。それでも子供には関係ない。好きと言ったのならば、それ相応の返事を貰わないと気が済まない。
毎度のことに、困ったなと頭を抱える。最初は可愛らしいと微笑んでいたが、何年も立て続けに告白されては私も勿論、何より彼の将来が困ってしまう。
「どうして、私のことを好きになったの」
ある日、そう聞いてみたことがある。少年はじっと私の顔を見上げ、眩しそうに目を細めてこう言った。
「貴方は、太陽のような人。暖かくて、優しくて、縋っていたくなる人……」
小さな体が、私の懐に収まる。まるで母親に愛情を求めるかのように抱きしめられた私は、そんなはずはないと言い聞かせながら彼の背を撫でた。
「……それは、貴方のお母さんにしてあげて。私は貴方の母ではないし、お嫁さんにもなってあげられないの」
「まだ、子供だからですか」
「それは、そうだけれど」
「なら、成人してからも続けます。貴方の温もりが得られるなら、諦めません」
固く決意するように、目を閉じた少年に目眩がするようだった。…親からの愛情が不足しているのだろうか。
例え私に惚れているのだとしても子供のことだから、きっと大人になれば考えが変わるはずだと思い込んでいた。でも彼は、年月が経つに連れ、こちらにその気がないと知ると完全にそれを否定した。この思いは変わることがないと。
嗚呼、彼のようだ。肉体一つ残らずに死んでいった、あの人のような執着心。少年にそれが芽生えてしまうことに危惧しつつ、どこか否めない。すれ違うことがないように、少しでも受け入れてあげたい。二度と、違えないために。
「……そうね。大人になっても思っていてくれるのなら…少し、考える」
夫が聞いたら詰め寄られるだろうけれど。少しだけ。少しだけ、考えてみよう。私は夫を裏切りたくないし、裏切るつもりはない。だから結局、少年の希望には応えられないのだけれど。それでも、歩み寄ることは大事だから。
少しだけ。その言葉に少年の不満気な表情は消えなかったけれど、希望が途絶えることがないと知った彼は少しだけ微笑んだ。