Te iubesuc.「あぁ~疲れた! この歳になってもポンチどもの相手をしなきゃならんのは、さすがにちっとばかしこたえるな」
「今夜もよく働いたな、ダーリン」
「さっさと帰って飯の続きが食いたいぜ、ハニー」
「はいはい……おや、ごらんよ、ロナルドくん。今夜は満月だ」
「おっ、本当だ」
「……ねぇ、ロナルドくん」
「なんだ、ドラルク?」
「『月が綺麗ですね』」
「……」
「……」
「あー……『死んでもいいわ』だっけ?」
「へぇ……さすがは作家先生。文豪の逸話に明るいようで」
「ちゃんと勉強してますから~」
「うっわ、かわいくないなその態度」
「うるせぇ! だいたいなぁ、愛してるぐらい素直に言えよ。ラテン男だろ?」
「まったく、これだから情緒を解さない五歳児はダメなんだ」
「殺します」
「ブエーーーッ! 嫁を気軽に殺すなといつも言ってるだろうが! この暴力亭主!」
「煽るおまえが悪いんじゃ」
「ふん!」
「あ、ドラルク」
「なんだ、暴力ゴリルド」
「おい、もういっぺん殴るぞ! ……じゃなくて」
「あ?」
「愛してるぜ」
「……」
「あれっ? 言ってほしかったんじゃないのか?」
「……よく分かったな、五歳児のくせに」
「かわいい嫁さんのことならなんでもお見とおしだよ」
「……本当、昔と比べてかわいげなくなったよねぇ、きみ」
「イケメン度は増したから許せ」
「そういうところがかわいくないって言ってるんだよ。まったく……あの、ちょっとしたことですぐテンパる童貞ルドくんはどこにいったのやら……」
「童貞ルドくんなら、どこぞの吸血鬼のせいで三十年前にお亡くなりになったぞ」
「私のせいか」
「おまえのせいだ」
「ならしかたない」
「勝手だなぁ」
「ああ、そうだ。ロナルドくん」
「ん?」
「Te iubesc. 」
「えっ、なんて?」
「んふふ、嫁の母国語もちゃんと勉強したらどうだい、作家先生?」
「はっ? 今のルーマニア語? なんて言ったんだよ、もう一回!」
「ざーんねん。チャンスは一度だけでーす」
「そんなルールはねぇ!」
「あーうるさい、うるさい。――さぁ、早く帰るんだろ。ぐずぐずしてると、ひと玉で留守番させたジョンがきみの分のデザートまで食べてしまうぞ」
「あっ、ちょっと待てって、ドラルク! さっさと行くな! おーい!」
◇
Te iubesc. ――愛してる。