ウソツキとマガイモノ真島吾朗は読めない人間である。何をするにも常に笑みを浮かべ、突拍子もない行動をする。
長年の付き合いのはずなのについ、「読めねぇな」と呟いてしまう。
夜、目を閉じていると目の前から真島の声がしてふと目を開けた。目の前には何故かスーツ姿の真島が居た。
「桐生ちゃん、嘘はアカンで」
目の前の真島は不敵に笑う。だがそれはいつもの様な笑みではなく、どこか桐生を見据えたような目。
「何の、事だ」
何でアンタががココに居るだとか、何でそんな恰好なんだとか他に聞きたいことはあったはずなのに口から出た言葉はそれのみだった。
ふと、真島に向かって手を伸ばす。掴めると思って手を伸ばしたのに冷たい感覚と、ふにゃりと柔らかいものに触れる感覚があるのみ。
つまり、気持ち悪い。
「ヒヒッ気持ち悪いってカオしとるで」
何で分かるんだ。
「桐生ちゃんの事は何でも分かるでぇ」
やめろ。
「何でなん?あぁ、桐生ちゃんウソツキやからなぁ。もっと探りたいんやろ?儂の事」
引っ込めようとした腕を真島が掴み、もっと深くへ食い込ませていく。
指の先が、手のひらが気持ち悪い感覚に包まれ冷や汗が顎を伝う。
「眉間のシワ、深ぉなっとるで」
ツンツン、と眉間のシワを突く。互いの顔が近づき鼻先が擦れるほど近づくと思わず顔を背けた。
「なぁ、もうええかげん認めたらどうや?」
「何の⸺……」
見たときには真島の姿は消えていた。
慌てて手を伸ばすと視界は天井を射抜いていた。
「ゆ、め……か」
疲れているのか、と頭を抱える。
急いで支度をして家を出る。孤独には、慣れた。だが、夢の中の真島の声が頭から消えて離れない。
「なぁ、ラジオくらい聞けよ?」
男に言われて、勧められるままラジオを付ける。
ニュースが報じたのは真島吾朗の『死』だった。
「っ、⸺………!!!く、そ………ッッ!!!!」
ガンッとハンドルに拳を打ち付ける。脳内に真島の笑い声が反響する。
ぐっ、と拳を握りしめたまま呟いた。
「アンタなんか、大嫌いだ」
ウソツキはまた口から『嘘』を吐いた。