麻チョコ小説優等生なのは下心があるからです、センセイ
(お題箱 お題ガチャ「cp向けお題」より)
年齢操作を含みます。苦手な方はお避けください。
「明後日の試験、頑張ってね。応援してるから」
生徒会の皆が帰った後も、おれは一人生徒会室で自分の作業をしていた。するとコンコンとドアを叩く音。どうぞと声をかけたらドアを静かに開けたのはおれの担任の黒鳥先生。黒鳥先生はその名の通り、黒髪が似合う落ち着いた女性で、おれにとってはチョコのように甘くて苦い人だ。そう、つまりは先生に片想い中である。優しく接してくれる先生が好きで、毎日顔を合わせられるのがすごく嬉しい。でも、生徒と先生という立場上この想いを隠さなきゃいけないのは苦しい。
「黒鳥先生、わざわざそれを言いに?ありがとうございます」
「え、あ、うん…言い忘れてたなって。受験直前なのに生徒会の仕事まで本当にお疲れ様。試験前くらい休んでもいいんじゃない?」
先生がおれのところまで来てくれるのも、こうやっておれのことを気にかけてくれるのだってすごく嬉しい。のに、この喜びを邪魔するかのように立場というのが邪魔をする。
「心配ありがとうございます。でも、おれは大丈夫ですよ。今まで通りのことをしていないと、逆にそわそわするというか」
「でも文化祭前だから普段よりも忙しいんじゃない?」
「それはそうですけど、おれの私情で皆に迷惑かけたくないですし、おれ生徒会長ですし」
皆クラスの出し物もあるし、文化祭の後にはテストや夏季休暇と予定が立て込んでいる。少しでも生徒会の荷物にはなりたくないし、生徒会長だからこそ皆の負担を少しでも減らしたいのだ。祖父と父の背中を追っているおれには上に立つ者としての責任は周りよりもわかっているつもりではあるし、その責務をしっかりと果たしたい。上がしっかりしてこそ部下も応えてくれるのだ。だから、多少の無茶は受け入れるべきだろう。
おれがまだ作業を続けようと、半分は黒鳥先生に気を遣ってもらえた喜びがバレないようにと目線を机に戻したところ、ふっと影が落ちてきた。これ、先生のだ。
「生徒会長だからだよ!皆会長の合格を祈ってるし、組長なら皆のこと信頼して頼るべきなんじゃない?」
「……っ、そ、うですね…先生の言うとおりです…」
「うん。じゃ、もう今日は帰ろ。試験直前の登校で最後まで残って仕事とか、偉すぎ!」
さ、早く荷物しまってしまって。先生に促されておれは机に出していたスマホや筆記具をしまいながら、必死に溢れ出る喜びを抑える。先生、部下を信頼してって…そんなの、完全におれの家のことを理解して、生徒会長や組長のような上の立場についても考えてるじゃん…。まるで組長の旦那を叱る極妻じゃないか…!おれの足りていない部分を補ってくれるところ、本当に先生のこと好きになってよかった。嬉しい。おれらってお似合いなんじゃないか?
「それじゃ、気をつけて帰ってね。試験もうまくいくよう祈ってるから」
「先生おまじないとか得意ですよね、お願いします」
「もう、皆勝手なことばっか言って…麻倉くんもそんなこと鵜呑みにしないの。麻倉くんは自分の力で合格できるよ。皆麻倉くんが頑張ってるの知ってるから」
「そんなに褒めてもらえて嬉しいです。先生も気をつけてくださいね」
「先生の心配はいいのっ。ほら、さようなら」
「…さようなら。…試験頑張ります」
先生は校舎の玄関先までおれを見送りに出てきてくれた。ああ、帰りたくない。先生ともっといたい。でも先生に褒められて嬉しいから、先生には嫌われたくないから…渋々足を踏み出す。先生はおれのことを実家の跡継ぎのために頑張る生徒だと思ってるけど、それだけじゃない。褒められたいから、少しでもあなたに好かれたいから頑張ってるんですよ、先生。