たまには処刑の話を 歩み寄ろうと決めたのは、私だ。だからこれは受け容れなければならない。彼が私を受け容れてくれたように。そう頭ではわかっているのだが、心がついていかない。
「何と七歳で死刑執行人になったヤツがいるんだ!興奮するだろ?」
「はあ」
もうかれこれ何時間経ったことだろう。意を決して「また好きな処刑人の話を聞かせてくれますか?」と聞いてみたら、ぱあっと顔を輝かせた遠野くんに腕を引っ張られて部屋に連行され、延々と処刑人講座を受けて今に至る。よくぞこれだけ話が続くものだとその知識量には舌を巻くが、流石に痺れを切らしそうだ。
(少し前の私からしたら、ありえないですね)
そもそも、自ら彼の処刑の話を聞こうと申し出ること自体、私の中では革命だと言っても良い。しかも話の腰を折ることなく、ただひたすら楽しそうな饒舌に相槌を打っているのだから、自分で言うのもおかしいが明日は雪が降るのかもしれない。
(それにしても、処刑の話をする遠野くんは本当に生き生きとしている)
話の内容はさておき、好きな物を語る彼の顔は溌剌としていた。白い頬は興奮でほんのり色づき、目をきらきらさせる様子は正直、かわいらしい。こういう顔を見られるのであればたまには悪くないのかもしれない、と思うまでになったのは、私の中で驚くべき変化のひとつだ。
「……おい、聞いてんのか?君島」
無意識に真顔で彼の顔に見入っていると、不審に思ったのだろう遠野くんがこちらを覗き込んでくる。それはほぼ衝動だった。
「お前、何して、」
「ああ、すみません。楽しそうな遠野くんがかわいいな、と思っていたら、つい」
触れた唇を離すと、薄っすら紅潮していた顔はみるみるうちに林檎のように赤くなる。
「どうぞ、話の続きを」
「……できるわけねーだろ、莫迦野郎!」
どたどたと騒々しい足音を立てて、遠野くんは部屋を出て行ってしまった。ここは彼の部屋なのに。
「さて、どうしましょうか」
数分後、きっと怒ったような気まずいような顔をして戻ってくるであろう遠野くんを思い浮かべて、私は密かに笑った。
End.