飴色の声 最近、君島の様子がおかしい。
おかしいと言っても、何か特別なことが起きたわけではない。俺が話しかけると眉を顰めるのも同じだし、側から見たら相変わらずな関係に見えるだろう。
「……遠野くん」
ほら、これだ。語尾が妙に甘ったるい。お前はもっとこう、すっと冷たい薄氷のような声で仕方なしに呼んでいただろう。それが今では、まるで舌に蜂蜜を乗せたみたいな吐息で俺を惑わせる。低く歌うような音色に、背筋がぞわりと粟立った。
「何だよ」
「いえ。ただ、珍しくぼーっとしているようでしたので」
「別に、んなことねえ」
視界の隅に種ヶ島のにやけ顔が入り込む。何なんだアイツ、ブン殴りてえ。
「なら、いいのですが。……私の足手まといになるようなことはしないでくださいね」
「んだと」
はあ、とため息をつく様子は、俺が見慣れた君島だ。それなのに、ほんの一瞬見せる視線が、声が、甘い。ちらりと寄越した上目遣いに、下睫毛が長ェな、とどうでもいいことを思った。俺までおかしくなりそうだ。
「……君島と何かあったん?」
このむず痒いような、そわそわするような形容しがたい気持ちをいよいよ持て余して、苛立ちが募る。君島が立ち去るとすかさず声をかけてきた銀髪を、とりあえず引っ叩いておいた。
End.