御木 陽の話。幼い頃のことはよく覚えてない。
はっきりとした記憶はばあちゃん家の裏山にボーッと立っていたあの時からだ。
ばあちゃんが泣きながら駆け寄ってきたのをよく覚えてる。
俺が6歳の時の事だ。
周りの大人達は皆『神隠し』だって言ってた。
「ばあちゃん、神隠しってなに?」
「神様に気に入られて、連れていかれちゃうんだよ。」
「俺、そんなにすごい人じゃないけど。」
そう首を傾げた俺を見て、ばあちゃんはそんな事ないと笑いながら、首にネックレスを掛けてくれた。なにこれと聞くと、陽ちゃんを守ってくれるお守りと言っていた。
「いい?絶対に危ないと感じたものに近寄っちゃだめ。陽ちゃんは好かれやすい体質だから。」
「分かった!」
ばあちゃんが言ってたことは難しくて分からなかったけど、大好きなばあちゃんが言うことだから、元気よく頷いたのだ。それを見て嬉しそうに笑ってたっけ。
でもそんなばあちゃんにも言えなかったことがあるんだ。実は、あの時のことで一つだけはっきりと覚えてることがある。
『君の最期に迎えに行くよ。』
そう言って、笑ったんだ。
後悔のないように生きたいと思ってここまで来た。直感に従うと、不思議と上手くいくことが多かったんだけど、やっぱり他とどこか違う俺は周りに馴染めなくて、小中と友達と呼べる人は一人もいなかった。
だけど高校で水泳部に入って、初めて先輩、友達、後輩が出来た。
「水泳部の皆は、初めて出来た俺の友達っす!」