蝉の声が、頭上でうねるように響いていた。
どこからともなく湧いては、耳の奥にまとわりついて離れない。七月もなかば、盛夏の音だ。
校舎の白い外壁が陽を照り返して、一階、中庭を通り抜ける渡り廊下は、歩くだけで足の裏が焼けそうだった。木暮は担任に頼まれて、クラス全員分の課題プリントを職員室に届ける途中だった。
日陰を選びながら、廊下のはしを歩く。風が吹くこともなく、背中に汗がにじんでいた。そして、目に飛び込んできた光景に、思わず足を止める。
空気の粒が変わったような気配がした。校舎の裏手、植え込みの向こうに人影。白いワイシャツの背中は、みなれた姿だった。三井。長袖のシャツを肘までまくり、片手をポケットに突っ込んでいる。三井の影になった所に、もうひとり誰かいる。陽を浴びて白く光るスカートのすそ。胸元のリボンを握る手が、小さく震えているのが見えた。長い黒髪が綺麗な子だった。何かを決めたような顔つきで、彼女は口を開く。
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