右手のひらでボールを支え、左手を添えて輪郭を確かめる。膝をわずかに折り、体の深くに沈んでいた重心を引き上げる。芯が一本通るような感覚。
重力と釣り合う、わずかな瞬間。世界がほんの少し、静止する。
滑らかな放物線を描き、迷いなくリングへと向かう。その軌道だけは、いつも通りだった。何も変わらない。
ネットが揺れる。音が、胸の奥底で鳴って、すぐに消えた。
そうだ。オレは多分、この音を聞くために来ている。
冷え切った空気が、体育館の高い天井にひっそりと淀んでいた。
三井から少し離れた場所では、練習着姿の部員たちがゆるやかに動き出している。ゴール下でフォームを確かめる者がいたり、ストレッチしながらふざけ合う声が聞こえてきたりする。部活が始まるまでの、束の間のゆるみ。
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