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    Usikiyama

    @Usikiyama

    ここには進捗を気軽に投げていこうと思います^ ω ^

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    Usikiyama

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    #暮三
    6月15日新刊の進捗。

     蝉の声が、頭上でうねるように響いていた。
     どこからともなく湧いては、耳の奥にまとわりついて離れない。七月もなかば、盛夏の音だ。
     校舎の白い外壁が陽を照り返して、一階、中庭を通り抜ける渡り廊下は、歩くだけで足の裏が焼けそうだった。木暮は担任に頼まれて、クラス全員分の課題プリントを職員室に届ける途中だった。
     日陰を選びながら、廊下のはしを歩く。風が吹くこともなく、背中に汗がにじんでいた。そして、目に飛び込んできた光景に、思わず足を止める。
     空気の粒が変わったような気配がした。校舎の裏手、植え込みの向こうに人影。白いワイシャツの背中は、みなれた姿だった。三井。長袖のシャツを肘までまくり、片手をポケットに突っ込んでいる。三井の影になった所に、もうひとり誰かいる。陽を浴びて白く光るスカートのすそ。胸元のリボンを握る手が、小さく震えているのが見えた。長い黒髪が綺麗な子だった。何かを決めたような顔つきで、彼女は口を開く。
    「好きです!」
     その言葉が、蝉の声に紛れて木暮の耳に届いてしまった。とっさに壁際に身を寄せる。紙束がかさりと鳴り、あわてて押しつけるようにかかえ直した。少し、息が詰まる。おそるおそる視線を戻すと、三井は首をかたむけ、余裕そうに彼女を見下ろしていた。表情は見えない。
     二人を見る自分の視線が、見張っているような目つきになっている気がして情けなくなる。汗がじっとり手のひらを濡らし、プリントが指先に張りついた。視線を外そうとしても、できない。胸の奥が、きゅう、と縮む。肌の表面は燃えるように熱いのに、胸の内は一瞬にして冷えていくような、奇妙な感覚だった。
     ふいに三井が首筋をかくようにして、何かを言いかけた。その気配だけで、心臓が不気味な脈を打ち始める。もう耐えられなくて、次の瞬間にはその場を立ち去っていた。
     足を速める。べつに三井の返事を聞きたくなかったとか、そういうんじゃない。ただ偶然通りかかっただけで、深入りするのはよくないから。
     頭の中では言い訳がいくつも浮かんでは消えた。けれど、どれも胸のどこかに引っかかってうまく通り抜けてくれなかった。
     落ち着かない。蝉の声と自分の脈が、耳の奥で響いていた。
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    Usikiyama

    PROGRESS今書いてる暮三の進捗。
    一人で書くのがとにかくキツイので、ここには書けた分を少しずつ足していくよ。
    みんな、読んでね~~~

    言い訳タイム→あんまりちゃんと読み直してないけど、とにかくあげていくというスタンスです。全体的に雑ですが、後でなんとかします。

    (エロいシーンはページを分けようと思います。ここには健全シーンだけ)

    ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
    ✨7月4日
     右手のひらでボールを支え、左手を添えて輪郭を確かめる。膝をわずかに折り、体の深くに沈んでいた重心を引き上げる。芯が一本通るような感覚。
     重力と釣り合う、わずかな瞬間。世界がほんの少し、静止する。
     滑らかな放物線を描き、迷いなくリングへと向かう。その軌道だけは、いつも通りだった。何も変わらない。
     ネットが揺れる。音が、胸の奥底で鳴って、すぐに消えた。
     そうだ。オレは多分、この音を聞くために来ている。
     冷え切った空気が、体育館の高い天井にひっそりと淀んでいた。
     三井から少し離れた場所では、練習着姿の部員たちがゆるやかに動き出している。ゴール下でフォームを確かめる者がいたり、ストレッチしながらふざけ合う声が聞こえてきたりする。部活が始まるまでの、束の間のゆるみ。
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