Unravel 今季の梅雨入りは例年より遅れての発表となったらしいですね。
どれくらい遅かったのか、詳しくは知らないですけど。
その辺の情報に疎いのは、自分が朝の準備をしながらニュースを見るタイプでも、オーディオで天気予報を聴くタイプでもないからだった。
その日の天気は起きた瞬間に肌で分かってしまうし、突然雨に降られたところで傘がなくて困った経験もない。起きて、歯を磨いて、髪を結って、制服を着る。その間は手持ち無沙汰な頭で、記憶した台本の台詞を繰り返し黙読するほうがよっぽど有意義な時間を過ごせた。
そして今日も、いつもと同じルーティンをこなして、渉は静かに家を出る。

(ふむ…やはりこれから降りそうですねぇ)

見上げれば分厚い灰色の雲が空全体を覆い尽くしていて、街も人々も、憂いに沈んでいるようだった。

薫零⬅渉『零が……零が…盗られる……』

『…渉……？』

『…そうです……！まずはその綺麗なお顔と体を傷だらけにしましょう！』

『…渉……！？』

『そうすれば、盗る人も減るはず…！！』

『やめろ、渉っ…！！』



＊＊＊



｢零くん。零くん！零くん起きて！｣

体を揺すられハッと目が覚め、夢と現実の区別がつかないまま咄嗟に身を守る仕草をしてしまった。
大袈裟に反応する我輩を見て薫くんが心配そうな顔で覗き込んでくる。
そうじゃ…、今は次の仕事先へバスで移動中じゃった…。

｢大丈夫…？うなされたけど……、嫌な夢でも見た…？｣

｢…ぁ…すまん……、ちょっと昔の夢を見ただけじゃよ｣

そう…、昔の夢。
元彼の日々樹くんに殴られ、犯され、最後は刃物で皮膚に名前を掘られたあの日の夢。