魅入る、魅入られる・不死鳥の男
　彼のバックグラウンドについて、近江連合に所属していたというぐらいしか紗栄子は知らない。兄貴分だったという渡瀬や勝矢に聞けば他に色々教えてくれるかもしれないが。
「……修一さんが朱雀なの、知らなかった」
「朱雀も鳳凰も、希少やからな。黙っとった方がえぇことやった」
　かつて近江連合の本部に乗り込んだとき出迎えたのが彼だった。上を脱ぎ背中から翼が生えたのを見たとき、本気でぶつかったとしても勝てないのではと恐れた記憶がある。それでも全力を出したわけではないようだが。
「あのとき本当に勝てないと思ってたのよ？」
「後ろに冴島さんと真島さん待たしてんねんで。真島さんの楽しみ取ったらアカンから加減したわ」

風プロ公式チャンネル・第一回
「始まりました風間プロ公式YouTube配信！記念すべき一回目は錦山彰と一輝くんがお送りします」
「メインMCの僕たち二人の他、先輩や後輩たちがゲストに来てくれるかもしれません！って台本には書いてありますけど」
「……来れるか？」
「……来ていただけるように頑張りましょう！」

・第二回
「一輝くんとは極で一緒だったけど現場で会ってないよね？」
「そうですね、僕とユウヤは序盤で出るっきりなので桐生さんしかご一緒してないです」
「別のとこだと先輩後輩役で。あそこも楽しかったな〜」
「本当楽しかったですね。往鶴くんもいたし」

・第三回
「風プロ配信初ゲストはこの方！」
「……どうも」
「お前はよぉ〜……もうちょいカメラ意識しろ、そして名前言え」

臥龍梅、枯れる　梅の見頃がもうすぐ終わる、春が目前まで来ている時季だった。
「……一馬さん、今朝はちゃんと食べれたんやなぁ」
「花燐の美味い飯を残すのは悪いだろ」
　ガン。知らぬ間に忍び寄っていた病魔はどこまで彼を蝕んだのか、花燐が聞かされたときにはもう。
「俺の後を追うな。約束しただろ」
「せんよ、大阪のおばあちゃんとしてハルトくんの制服姿も成人式も写真見なあかんもん」
　それでいい、と彼は口角を上げて笑った。見合いのときや結婚した当初、そんな笑い方をする男には見えなかった。
「……そうか、もうそんな歳か」
「せやで？　孫は知らんうちに大きなっとるんや」
　いつだったか遥たちに挟まれたハルトは無邪気にピースサインを向けていた。あれだって七五三か何かの写真だ。