1は0に戻らないという話丹恒は資料室の前に誰かが立ち止まった気配を感じ取り、アーカイブの整理を進めていた手を止めた。その直後、ノックが2回。
「丹恒。入っても構わないかい?」
扉の外から列車の中ではあまり聞き慣れない、しかし列車の外ではいくらか聞き慣れた声がして、丹恒は「あぁ」と答えた。
資料室の扉が開いて、声の主の景元が資料室に入ってきた。
「やあ、お邪魔しているよ。アーカイブの整理中かい?」
デスクで作業をしていた丹恒に、景元が近付いてくる。
「あぁ。景元は好きに過ごしてくれて構わない」
「じゃあアーカイブを……」
そこまで言って、景元の視線が丹恒の寝床に向いた。それから小さな笑い声を出した。
「ふふ。床に置いている本は君の私物かい?」
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