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    arei_ash

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    景丹/景恒

    一緒にお酒を呑む二人の話


    *何でも許せる方向け

    #景丹
    #景恒
    #腐向けHSR

    Amber's temptation『偶には私と一献傾けるのはどうだろうか』
    突如として送られてきた一通のメッセージに丹恒はぱちりと目を瞬いた。その送り主は、羅浮の将軍──景元であった。しばらくの間、依頼のために星穹列車は羅浮に留まることになっていた。誰かを通じて、景元の耳に入ったのかも知れない。それに軽く息を吐いて、どうしたものかと思案を巡らせる。
     彼が丹楓の生まれ変わりである自分を何かと気にかけている事は知っていた。おそらく自分とかつてのように親しくなりたいのだろうことも。だが、丹恒は、彼との接し方が未だ分からずにいた。長きに渡って囚われていた場所から救ってくれたのは紛れもなく彼だ。それには感謝をしてもしきれない借りがあるが、どうしたらいいものか。
    「丹恒?」
     その時、顔を覗き込むようにして小首を傾げたのは、ソファの隣に腰掛けていた穹だった。
    「大丈夫? 何かあった? 眉間に皺が寄ってるけど」
    「いや。少し、考え事をしていたんだ」
     彼の問いに首を横に振って答えつつ、丹恒は小さく溜息を落とした。彼と顔を合わせても気まずいだけだろう。彼が望むものを自分は何一つとして持ってはいない。
     断ろうと端末を取り出した時、また新たにメッセージが送られてきた。その相手は、またしても彼だった。
    『先日、私の部下が君に世話になったみたいでね。そのお礼がしたいんだ』
    「……それは卑怯だろう」
     そこまで言われれば、断るのは失礼になるだろう。どうやら拒否権は無いらしい。半ば諦めたように了承の旨を返した。

    *********

     指定された場所は、景元の住まう洞天であった。辺りは既に夜の気配に包まれている。丹恒が来る事は事前に知らされていたのかすぐに付添の者に案内された。
     進んで行くと、綺麗に手入れの行き届いた庭園が広がり、その奥には庭を眺められるよう四阿があった。庭には幾つか小さな池があり、その中に蓮の花が浮かんでいた。
    程なくして景元の住まう屋敷が見えてくる。
    「よく来たね」
     柔らかな銀髪を下ろしては居るが、間違いなく景元その人だった。いつも身に纏っている防具を外して軽装である。まさか彼が出迎えてくれるとは思っておらず、思わず立ち止まる。
    「その、邪魔をする」
    「遠慮はしないでくれ。さあ、こちらへ」
     近づいた景元が流れるように腰に手を回して、引き寄せる。
    「……っ、」
     ふわりと金木犀の香りが鼻腔を擽って瞠目した。少々距離が近過ぎるのではないだろうか。
     さあと急かされ、そのまま屋敷の中を進む。中も外観に劣らず立派なものだった。景元に促されるまま、外が見える居室へと通される。中は、倚子と卓のシンプルな部屋だった。傍らには人目で高級と分かる調度品が飾られており、丹恒は無意識に居住まいを正した。
    「さあ、座って」
     景元に促されるまま倚子に腰を据える。すると、すぐに使用人と思しき者が酒瓶と杯を 運んできた。
    「まずは一杯どうかな?」
     景元に杯を差し出され、丹恒は暫し逡巡した後、それを受け取った。
    「将軍、杯を」
    「景元と、呼んでくれないかい?」
    「だが、」
     その呼び方は、あまりにも不敬では無いだろうか。言い淀んでいると、尚も畳み掛けてくる。
    「気を使う必要はない。今は二人しかいないのだから」
    「……景元」
     恐る恐る口にすると、景元は嬉しそうに瞳を緩める。なんだかむず痒い気持ちになって、誤魔化すように彼の杯に酒を注いだ。
    「ありがとう。丹恒殿も」
    「ああ、……すまない」
     琥珀色の液体が杯に満ちる。景元が杯を掲げたのでそれに倣って杯を掲げる。二人の間で軽やかな音が響いた。
     景元が杯を持ち上げて口をつけたので、丹恒もそっと酒に口をつけた。透き通るような美しい琥珀色をしたそれは、芳醇な香りと濃厚な味わいで、今まで飲んだ事のないような美酒だった。
    「美味いな」
     思わず感嘆の息を漏らすと、景元が満足そうに目を細めた。
     それから他愛もない話を交わしながら、杯を重ねた。ふと会話の途切れたタイミングで疑問に思っていた事を訪ねた。
    「貴方が俺を呼び出したという事は、何か用があったんじゃないのか?」
    丹恒の問いかけに景元は笑みを深めた。
    「いいや、何も?」
     それから景元がじっとこちらを見た。蜂蜜を溶かしたような眼差しが月明かりを受けて妖しく煌めく。
    「私は君と、もっと親しくなりたいと思っている」
     景元の真っすぐな視線に射竦められて身動きが出来なくなる。彼がどういうつもりでそう言ったのかは分からなかったが、妙に居心地が悪い。
    「……だが俺は、丹楓の代わりにはなれない」
    「君が丹楓で無い事は知っているよ」
    「なら、どうして」

    「──知りたいかい?」

    ──空気が変わる。
     男が薄く目を細めて、流れるように丹恒の手を取った。陣刀を振るう男の手が手の甲に触れる。そのまま引き寄せられて、柔らかな感触がした。それが彼の唇であると気づくのに一瞬遅れた。触れられた場所が火が灯ったように熱い。
    「なっ……」
     思わず手を引いて、彼の方を見る。彼は相変わらず柔らかな微笑を浮かべたままだったが、その瞳の奥に宿る熱を隠してはいなかった。
    「……貴方は、」
    「さて、夜も遅い時間だ。そろそろ列車に帰った方がいい」
     何事も無かったかのように立ち上がって景元がこちらを見る。そこには先程までの熱が夢だったのでは無いかと思うほど、いつも通りだった。
    「今日は楽しかったよ。またおいで」
    「……失礼する」
     景元の屋敷を出て、丹恒は足早に帰路につく。未だに彼の唇の感触が消えないような気がして、そっと手を握り締める。触れられた箇所から熱がじわじわと侵食していくようだった。頬の熱さは、きっと酒のせいだけでは無い。
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