#47水父ネップリ企画 〜和歌山編〜 登山で疲れた足をくつろげて、ゲゲ郎と酒を酌み交わす。
「乾杯!」
合わせた猪口がカチンと鳴る。涼味ある音。その向こうで八重歯を見せてゲゲ郎が笑う。皮膚の薄い白い目尻に、笑い皺がはじけているのをみとめて、水木は眉の間をゆるめた。注がれた酒の匂いが鼻を撫でる。二人の酒杯を満たすのは、とろりとした梅酒だった。今朝那智湾の浜辺から見た、朝日を盃で掬い取ったような黄金色だった。
今日は朝ぼらけの那智勝浦海浜公園を散策した後、補陀落山寺へ参り、旅館で朝食を摂ってから那智の滝――熊野古道を目指し出発した。途中までは細長い道ながらも舗装がされた道だったが、民家が減り、傾斜がついていくにつれどんどんと石の敷かれた山道になっていき、大門坂を過ぎるころには「ちょっと休憩」と言い出したい程度には、水木は息が切れていた。
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