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    私が楽しいクロスオーバー

    ルークin昭和 頭上には満天の星空が広がる。昼間、一日一冊本を読むという課題の元、図書室でふと目に入った児童書には星空へ祈ると願いが叶うなんてことが書かれていた。そんなことはないとわかっているつもりだった。
     しかし勉強漬けの毎日に、何処か余所余所しい使用人たち、一度行方不明になった焦燥感からのきつい監視の目。軟禁状態と言っても過言ではない。そのくせ両親たちは記憶をなくした息子とどう接すれば良いかわからない、というように距離を取る。
     こんな閉塞感に満ちた日々から抜け出させてくれたらば——どうにもそんなことを考えてしまう。


     水木はあんぐりと口を開いたまま、固まっていた。それはせっかく用意した朝飯がちゃぶ台の上でグチャグチャになっていることやら、その上に、明らかに日本人の髪色や雰囲気ではない少年が目を見開いたまま固まっていることやら、その少年が突然にちゃぶ台の上に降ってきたことやら、寄りにも寄ってそんなところに落ちてきたことやらによる驚きだった。
     色々と思うところはあれど、とりあえず人間ではない息子と、ちゃぶ台の上から衝撃で鬼太郎の頭の上へ吹っ飛んだ目玉だけの親父へと目を向けた。妖怪、奇々怪々においては彼らの判断に委ねるほかないが、彼らも何が起こったのか理解できずに、その場で固まっているばかりだった。
    (とりあえず、敵意のある何かではない、か)
     もし敵意があればすぐにでも飛び掛かっているはず。そう思ってハタと気づいた。ちゃぶ台の上に居る少年は濡れている。なぜか。それはちゃぶ台の味噌汁が降り注がれたから。子供がいるので若干冷ましているとはいえ、そこそこ熱い湯が少年に引っかかっている。
    「ぬげっ!」
     水木は叫んで少年を抱え、衣服を強引に剥いた。少年ははっと我に返ったように「は!?」だの「なに!?」だの叫ぶが水木は構わずすっぽんぽんにした少年をそのまま浴室へと抱えて放り込んだ。
     桶に水を溜めている間にも少年は変態だ不敬だと叫んでいたが、無視してそのまま水を上から被せると少年は驚愕で黙り込んだあと、涙ぐみ。
    「何すんだばかああああああああああああ」
     そう言って盛大に泣いた。

     とりあえず水木のシャツを着せた少年は不貞腐れて水木たちと対峙していた。
     そこに至るまで、目玉おやじをみてマモノ、と叫んで蹴飛ばしたり、水木のシャツをよれて汚く臭いと罵ったりと散々だったのだが水木が「うるせえ、少しは会話をしろ!」という一喝に萎縮して、それからぽつりと「帰りたい」と呟いた。
    「帰りたい、といってもな。君、急にここに現れたわけだが。家がどこにあるか、帰り方は分かるのか」
    「家はバチカルだ。街まで行ければ、あとはファブレ家なんて誰でもわかる」
     ふん、となぜか自慢げにする少年に水木は眉を寄せる。バチカル、なんていう街に聞き覚えはない。
    「バチカル……ってのは、バチカンのことか?」
    「はあ!? バチカルはバチカルだ。っていうか、ファブレ家って聞いてわかんねえのか!」
    「いや知らん。ここは日本だ」
    「ニホンなんて街、聞いたことねえ。まさか、マルクト帝国か!?」
    「ま、まる? 帝国を名乗る国なんかあったかな」
    「……あのぉ」
     まるでかみ合わない少年と水木の会話に手を上げ、割って入ったのは鬼太郎。きょろきょろと二人の視線を見渡しておずおずと口を開く。
    「異世界なんじゃないか、と思うんですけど。こんな異国の容姿で日本のことも知らなくて、言葉が通じ合ってる時点で、おかしな状況でしかないと思います」
     異世界、という鬼太郎の説に水木は再び固まった。人間ではない子供を育て、お陰様で奇々怪々な出来事には随分慣れたつもりでいたのだが、輪をかけて非常識な話を飲み込めるほどではなかったらしい。
     しかし機転を利かせた鬼太郎が持って来た世界地図もこんな地図は知らないと首を振り、名前の似たバチカンを指差してもこんな形ではないし、そもそも国ではなく街で、周囲を取り囲むイタリアという国すら聞き覚えはない、そして自国の名はキムラスカ・ランバルディア王国、などという聞いたこともない、地図にもありはしない国名にいよいよ信じるほかなくなった。この少年――ルークは、どうやら異世界人である、ということを。
    「……しかしそうなると、なおのこと帰り方が分からないな……妖怪のせいでもなさそうなんだよな?」
    「少なくとも、妖気は感じぬよ」
    「ルークとしては思い当たるところはないんですか」
    「……ある、といえばある……でもそんな理由で異世界なんかに飛ばされてたまるかよ……!」
    「まあそれはどうだかわからんが、なんにせよ、戻り方は分からなさそうなのか」
     ルークは静かに黙り込み、そして首を縦に振った。

     全くどうしたものか、検討もつかないことに水木は一旦考えることをやめ、中断されていた朝飯の仕切り直しに鮭を拾い上げ、箸で汚れを削る。
    「鮭が減るな……今日は握り飯でいいか」
    「しょうがないです。ちゃぶ台の周りは片付けておきますね」
    「えっ!? その魚、まさか食うのか?! 地面に落ちたやつだろ、不衛生だろーがっ!」
     水木たちの言葉にルークが目を白黒させ、指さして叫ぶ。ご意見はまあ、最もと言えば最もだが。
    「うちは裕福じゃない、このくらいで壊すような腹の作りでもない。お前の世界のことはよく知らないが……似たような食生活、衛生基準の家はきっとあるはずだ」
     きっぱりと言い放てば、そんなわけがないと言い返せるほど世間を知らないルークはだまり、その場に立ち尽くした。ややあっておにぎりを囲む簡易な食卓に、その視線は釘付け。腹は減っているらしく、ぐぅという遠慮がちな腹の音をきいてまで立ち尽くす子供を無碍にしたまま、食事を続けられる無神経さを水木は持ち合わせていない。
    「拾った鮭のおにぎりでいいなら食べるか」
     振り返って尋ねれば、わずかに瞳は輝くが、しかし持ち出したおにぎりに、視線が泳ぐ。やはりそう簡単に価値観を変えることは叶わない。水木だって流石にこれがもし半ば腐りかけの食材だったら流石に口にするのを躊躇う。だが時代や場面、国によってはそれでも口に入れることもあるだろう。
    「意固地なやつだなあ」
    「鬼太郎。よしなさい」
     むすりとした様子でそう吐き捨てる鬼太郎を制する。こちらが問題を感じず、口に入れているものをこうも拒絶されるのはいい気分ではないのは確かだが、こればかりは生まれ育った環境の齟齬でしかない。
    「腹は減ってるんだな。半端な一切れが残ってはいる、ソレを焼けば食べられそうか」
    「……まあ、食えなくはねえと、思う」
    「へっ、上から目線の生意気なやつだ」
     立ち上がり、台所へ行くついでにルークの頭を小突いて去る水木の背中を追いかけた鬼太郎の目は、流れてルークへ向けられる。大きな瞳が細まり、ぼそりと。
    「して貰う身で、生意気だな」
    「これ、鬼太郎。水木にも言われたじゃろ。あんまり言うてやるな」
    「父さんまで。だって此処まで失礼な態度される謂れはないじゃないですか」
    「言いたいことは分かるがの。家主の水木が良しとしておるなら、良いんじゃよ」
     少し強引な論ではある。だがバカ正直にルーク本人も本人でまともに状況がわからず、家族や知り合いという味方のいない孤立無援、虚勢や強がりで気持ちを保ちたいのだ、などと言うのはルークの尊厳をボコボコにしてしまう結果になっては可哀想だ。
     鬼太郎は納得行かなさそうな顔をしながらも、水木を出されてしまえばソレ以上言い争うこともできず、おにぎりを貪りなおす。水木家の中では水木が許可した、という事実が全ての不条理を捻じ曲げて正しくなる。鬼太郎はそのルールに従順だった。それはいずれ、ルークにも及ぶかもしれない。

    「ほら、おにぎり」
     新たに焼いた鮭を混ぜたおにぎりをルークに差し出せば、ゴクリと喉を鳴らして渋々というような手つきで、それでいて目を輝かせながら、ルークはおにぎりを口に入れた。むぐむぐと口を動かし、飲み込めば「美味い」と存外素直な言葉が口をついてでてきた。
    「そうかい。ほら、ちゃんと座って食べろ」
     そう言ってちゃぶ台の空いたスペースにおにぎりの皿をおいて招けば、握りしめたおにぎりとともに、おずおずとちゃぶ台の前に座る。水木が見つめているのが居心地悪いのか、無心なふりをしておにぎりを貪るルークに水木は小さく頷いた。
    「とりあえずの宛がないなら此処にいればいい、最低限の衣食住は保証してやる。だが、ある程度はうちのルールを守れよ」
    「え。はっ……?!」
     そんなことを言われるとは思いもよらなかったのだろう。目を見開いて水木をみたが当の本人は何てこともなさそうにおにぎりを貪ってルークの視線には気づかない。非常識ではないのかという賛同を求めるように鬼太郎へ視線を向けられる。世間一般では確かにありえないのだが、水木は鬼太郎本人で十二分に証明できてしまう。こうなるとはほとんどわかりきったことだった。
    「水木家じゃ水木さんが絶対だし。君の好きにすれば良いんじゃないか」
     鬼太郎としては増えてほしくはないが、という本音を含めて、そう言うだけだった。
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