伝説のパティシエ・プリキュアとしてたたかっていた頃から、はや数年。ほんの一瞬交わっただけの自分たちはそれぞれの道を歩み続け、今ではまったく別々の地に拠点を構えている。ゆかりが突然留学を決めいちご坂を離れてから、紆余曲折を経て遠距離恋愛へと発展したはいいが、慣れ親しんだいちご坂から離れたとはいえ国内にいるあきらとは違い、国外にいることもあるゆかりとは特段時間を合わせることが難しい。そんなゆかりが数ヶ月ぶりに帰国し、ちょっといいところでデートし、いいホテルに泊まって、まあ所謂あんなことやこんなこともしたのだが――
「体、洗ってあげるわ」
「え!? ちょっと、ゆかり!?」
それくらい自分でやるよ、と制止するも虚しく、ボディソープのポンプに手を伸ばし、白いてのひらで泡立て始めた。弧を描いたややぽってりとしたくちびるに、こうなったゆかりは止められないと諦念を抱く。もうどうにでもなれと大人しく備え付けの椅子でうなだれる。
泡立て終わったのだろうか、ゆかりの細い指が首筋に触れ、円を描くように背中へとおりていく。両脇腹をゆるりと撫であげられ、びくりと肩がふるえる。小さく息を吐き、ちらりと視線をあげると蒸気でまだらに曇った鏡越しの自分が目に入る。今朝までまっさらだった肌に無数に散る紅い花びらに情事の名残を感じて、再び目をそらす。
前に回ってきた手が鎖骨のくぼみにそってなだらかな双丘を追いかける。給湯システムの音だけが響く中、指の腹でくるくるとまわりをなぞられ、漏れそうになる声を飲み込む。いつもゆかりがあきらにおあずけするときの気分になって、いちどはおさまった熱が高ぶっていくのがわかる。徐々に荒くなる息とはうらはらに一向に肝心なところには触れられなくて、体の奥が切ない。ようやっとゆかりの手が膨らみから離れ、ふっと力が抜けるとゆかりの指先が頂きを掠めた。
「ひ、ぁっ」
咄嗟のことに裏返った声が出て、ばっと口を塞ぐ。散々鳴かされている最中ならまだしも、今はそういう雰囲気で流せるタイミングでは無く、羞恥が襲う。せっかく綺麗に洗われた背中にだらだらと冷や汗が伝うのがわかる。気まずい空気――おそらく一方的にあきらが気まずいだけのような気はするが――を破るのがどちらかを逡巡していると、おもむろにゆかりの手がぷっくりと熟れたあきらの頂に触れる。
「っ!?」
「ここも洗わなくちゃね? ごめんなさい、忘れていたわ」
指の腹でボディソープを滑らせて先端をくりくりと触られ、甘い声が鼻から抜けていく。すっかりゆかりに与えられる快感に感じ入っていると、突如キュッと先を摘まれ、太ももが震えた。ずっと声を押えていたからか、「それだと腕が洗えないわ」と口元の手を外され、手首から肩にかけてが泡に覆われていく。
「ぁ、ふぁ、ああっ」
絶えず続く胸への刺激と熱にうかされ敏感になっている皮膚への愛撫でとめどなく声が溢れていく。緩急をつけて触れられ、視界がぼやける。意味をなさない声に気を良くしたのか、時折擦り合わせていた太ももに手が伸びる。
「あっ、ゆかり……だ、だめ」
「どうして? ……あら、もうぬるぬるになってるわね、なんでかしら?」
もう洗ってあるみたいね? というゆかりの言葉に首まで別の意味で熱を持つのがわかる。当初は切りに行く時間が惜しくなったのが、いつの間にか適当な長さを持たせる方が管理が楽なことに気がつき伸ばすようになった赤毛に紛れない紅さは、きっと背後にいるゆかりにはバレているはずで。
手のひらを内ももに滑らされ、流れるように髪よりやや濃い茂みへと続く。うっすら腫れたままの粘膜に指先が触れ、期待に胸が疼くもののやはり決定的な快感は与えられない。
再び目線をあげると、ちょうどゆかりがシャワーを手に持つのがわかった。洗い終わったのだろうか? 温度を確認しているゆかりの手からボディソープが流れ落ちていく。ちょうどいい温度になったのか「流すわよ」と言ってあきらの体にシャワーヘッドを向ける。やや弱めの水勢とともにゆかりの手のひらで肌をなぞられる。ボディソープで洗われたときと同じように首元から背中に、そして鎖骨周りを流される。無意識にゆかりの手、指先、呼吸のひとつひとつまで意識を向けてしまい、はやる鼓動が伝わってしまいそうで気が気じゃない。その反面、すべて暴かれてしまいたいような相反する感情が芽生えているのもわかる。はやく、はやくほしいと身体がうずくのに、なんでもない体を装っているゆかりに自分から言い出すのは気が引ける。
湯が胸元にあたり、どきりと胸が跳ねる。白魚のような手が双丘に触れ、吐息が漏れた。こぼれた水が先端に伝うのももどかしくて、ゆかりの手に自らのものを重ねた。
「どうしたの? お湯、熱かったかしら」
「ゆかり……」
くるりと振り向き、ゆかりを見やる。大人になって、いつの間にか短く切りそろえられたボブの毛先が水飛沫でいつもよりも大人しい。
わたしは自分でも分かるくらい真っ赤で、きっと今も物欲しそうな顔が隠せていないのにゆかりはいつも通り綺麗なままで、それがちょっぴり悔しい。でも、これ以上待てされると、燻った熱が切なくてどうにかなりそうだ。
「ちゃんとさわって、わたし、もう……」
「……おりこうなわんちゃんには、ご褒美をあげなきゃね」
ちゅっ、ちゅ、という軽いリップ音とはうらはらに、ゆかりのキスはあきらの弱いところを的確に責めてくる。どちらの唇かもわからなくなったころにぬるりと薄い舌が侵入し、あきらの整然とした歯並びをなぞる。ざり、と上顎を撫でられたとき、わずかな喘ぎがゆかりの口へと消えていくのがわかった。はしたない水音とシャワーの水音がまざりあって、くらくらする。徐々に上がっていくバスルームの湿度と性感に頭がぼんやりしてきたあたりで、突如水音が止まった。口元も離され、銀糸が重力に従う。どうやらキスされているうちに泡は全て洗い流されたようで、ゆかりの器用さに感心する。
未だ硬さを失わない突起をぴん、と弾かれ、甘い声が飛び出る。今までも胸は触られてきたが、最近のゆかりは――といっても数ヶ月単位で期間が空いたが――いつにも増して胸ばかり触ってくる。“そういうこと”をするようになったばかりの頃は、あきらにも胸はあるがゆかりほど豊満というわけではないし、特段気持ち良いものでもなかったから不思議に思いつつも気にしてこなかった。それが良くなかったのかわからないが、愛される度に感度が良くなってしまい、今ではちょっとの刺激だけでもお腹の奥が切なく鳴くのだ。あまり胸ばかり触られると焦燥感に苛まれて、自分が自分でなくなるような気さえする。いっそ蕾をこじ開けられるような暴力的な快楽であれば思考を止められるのに。ゆっくりと高められて爆ぜるときを待つしかない愛され方の方が、今となっては少し怖い。
すりすりと先端の周りを壊れ物に触れるように指の腹が円を描く。二、三回それを繰り返して、ぱくりと右の先端が桃色のくちびるに消えた。下からぐるりと舐められ、ざらついた舌で表面をぺろぺろ舐められる。
「ふ、っあ、や、ゆかり、まって」
「……待たないわ」
「そ、こでしゃべらないで……」
「あら、もっと可愛がってあげてもいいのよ」
「〜〜ぁあっ!?」
ぢゅっ、と一際大きな音を立て、ぐりぐりと乳頭に舌をねじ込まれる。ねじ込まれる、と言っても、そのような動きと言うだけで実際に入っていくことは無いが、本当にねじ込まれそうなほど強い刺激があきらを襲う。
「ああっ、ゆかり、ゆかりっ」
こわい、こわいと泣き声にも近い声を上げるあきらを尻目に、ゆかりは左乳の先端も可愛がり始めた。ゆっくり弧を描きながら時折爪で弾かれる程度の優しいものだが、今のあきらにはすべてが度の過ぎた快楽でしかない。いまだ舐めることを辞めないゆかりの頭を抱え、すがりついて行き場のない快感に身を任せる。徐々に破裂しそうな何かが大きくなり、じわじわ視界がぼやけて涙がこぼれる。
「ゆ、かり、なんかへんっ、まって、」
「あら、言われた通りに“ちゃんとさわってる”じゃない」
「は、ぁっ、そうじゃなくて……」
まって、なんかきちゃう、……そう思った瞬間、その“なにか”が爆ぜて、比にならないほど大きい何かが身体中を巡る。目の前がちかちかして、頭が真っ白になって、涙がぼろぼろ落ちた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ぎゅう、と目の前のゆかりを潰れそうなほど抱きしめているうちに、それはようやく収まった。急に全身の力がぬけたのか、バランスを崩したあきらを受け止めたゆかりは、ぐったりと身体を預けてくるあきらの荒い息を首元で受ける。
「派手にイったわね」
「うう……」
見かけによらず、ゆかりは大胆なことも言うのだと知ったのはいつだっただろうか。マカロンは大胆さと繊細さを併せ持つと言うが、こんなところで発揮しなくたっていいのに。羞恥で再び顔が赤らむ。
ゆかりがくれる快楽と胸を焦がす激しい焦燥は、どうにもあきらを狂わせる。自分よりやや低めの体温に身体を預け、とく、とくと規則正しいゆかりの心音に、だんだんあきらの呼吸も整っていく。
「ゆかり」
「なあに? あきら」
まだ倦怠感の残る身体を起こして、唾液でてらてらと光を受けている唇に軽く口付けをした。先程ゆかりに強請ったのとは違う、ただ甘えるだけの口付け。唐突なあきらの行動に、目をみはる。
「やっと名前、呼んでくれた」
「?」
「ほら、口でしてくれてるときって、あんまり名前呼んでくれないでしょ? それに、ゆかりに名前呼ばれるの、好きなんだ。なんか落ち着くっていうか……わたしを呼び捨てにしてくれる人ってあんまりいないし……」
「……あなた、自分が何言ってるかわかってる?」
「? あ、口でしてくれるのももちろん好きだよ!」
眉をひそめているものだから、思い当たったことを弁解してみたが、どうやらこれも違うらしい。
「呆れた。そういうところは変わらないのね」
「え?」
「あなたの名前、いっぱい呼んであげるわ。あなたの気が済むまで、ね」
――――