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    @side_full 鋭百
    夜に泣く🍑くん

    ##鋭百

    No Reason 人前で泣くことはあまりしたくない。みっともない、と叱責する声は遠い昔のものなのに、僕の鼓膜にこびりついている。それを思い返すのも、追い出そうと別の事を考えるのもひどく億劫だ。そもそも泣きたくなるようなことが少ないからめったに泣いたりはしない。……少なくとも、何か理由があって泣くことはここ数年なかった。だからこれは多分、人体の防衛機能ってやつ、なんだろう。

     夜中目が覚めて、ふと気づくと涙が目にたまってる。怖い夢を見たとか、そんな覚えはない。見たくない夢を見ることはあるけど、それはもう見放されてしまった今となっては恐怖と結び付けることが難しくなってしまったから。きっとあまりにも普段泣かないから、いい加減目の奥にたまってる涙を出しちゃえって身体が言ってるんだ。暑い時に汗をかくのとかわらない。
     夜中のゆっくりとした瞬きと一緒にぼろ、と零れた涙は拭くのも面倒だから、ただただ垂れ流しにする。壁の方を向いて丸まって寝てる僕の頬と鼻の頭を通ってシーツに染みてく熱い涙はどうやら空気を読むのが得意なようで、例えば地方のロケでぴぃちゃんやアマミネくんやマユミくん、315プロのみんなと同じ部屋で眠ることになった時には一度も流れたことがない。
     一人で、次の日特に誰かと会う用事がない日。かゆくて擦って赤くなった目元も、次の日の朝びしょびしょになったシーツも、誰にも見られなくて済む日。
     どうせならお風呂の時とかに流れてくれれば洗い流せて楽なのに。そう思わないこともないけど、まあでも僕の身体は割と便利にできている。


     ……そう、思ってたのに。


    (……あ、れ?)

     ぼろ、ぼろ、滴が落ちる慣れた感触。目を開けても広がるのは暗闇。いつもと同じ、たまった涙を追い出す作業。なのに今日はどこかおかしい。具体的には、……背中の、熱。僕じゃない誰かの寝息。
     うそでしょ、と思うと同時に今まで涙だけしか出さなかった僕の体は他のたまったものも出そうとしたのか、こみ上げてくる嗚咽がぎゅるりと喉で音を立てて。慌てて口元をおさえた。ゔ、ふ、とみっともない声が手のひらの隙間から漏れる。おさえこもうと飲み込んだ空気が逆流して変なしゃっくりが出た。まずい、まずい、なんでよりによって、僕一人じゃない時に。この人がいる時に。
     もぞっと動く気配に喉が鳴った。声と涙をおさえこもうとした体が不自然にぎくんと跳ねる。なんでもない、こんなのなんでもない。だから気にしないで。そのまま寝ててよ。キミ、眠りは深い方でしょ。ねえ、お願いだから。

    「……ももひと」

     いつもより舌足らずで柔らかい声音が僕の名前を呼んだ瞬間、ぶわりと全身に鳥肌が立った。うぐ、と誤魔化しきれない音量で喉が鳴る。

    「……っ」
    「どうした、……おい」
    「な、っでも、ぁい」
    「………むりがあるぞ、それは」

     いじっぱり、なんていつもの生真面目さも強さも鳴りをひそめたように、寝ぼけてるみたいなふわついた声と、のったりとした手つきで、壁を向いて丸まってた僕の体はゆっくり反対側に、マユミくんの方に、向かせられた。

    「……さびしくて泣くくらいなら、ちぢこまってそっぽむいて、ねるんじゃない」
    「っだ、ぇが、さび、しっ、て」
    「ああ、ほら、ゆっくり息をしろ。……ちゃんと、ここに、……」

     先にねるかもしれないが、ここにいるから。
     耳たぶに息がかかる距離で囁かれた言葉に、また目の底から涙が溢れた。

     そんなんじゃないよ。キミがいるのにさびしいなんて思わないし、今までだってそんな理由で泣いてたんじゃない。そう言いたかったのに、背中を撫でるてのひらがあたたかくて、またこみ上げてきた涙と肺の底から押し出された空気が邪魔をして何も言えなかった。

    「ひ、ッ……ぁ、ぅみ、く」
    「いいから……理由も、いいわけも、おきてから、おまえがはなしたければきく。……ちゃんといきをして、おちついたら、目をとじろ。だいじょうぶだから。ももひと」
    「……………っ」
     
     今にも眠気に負けそうな顔をしてるくせに、さっき先に寝るかもしれないって言ったくせに。僕が泣き止んで眠るまできっとマユミくんは起きてるんだろうという予感が苦しくて、また喉が変な音を立てた。いつもはシーツに吸い込まれる涙は、そのままぽろぽろとマユミくんの胸元に溶けていく。

    (……やだ、な)

     これから先、こうやってひとつずつ。ひとりでもなんとかなっていたことが、できなくなっていく気がして。それがひどくおそろしいのに、じくりと胸の底が甘く疼く。

    (これ以上、マユミくんがいないとダメになるのは、こわい)

     だけど、離れる方法がわからない。前にも後ろにも進めない。そんな絶望がひたひたと僕を犯していくのに。心のどこかはもっとダメになってしまいたいと子供のように駄々をこねている。

    (ねえ、マユミくん)

     寂しさでも、不安でもなく。
     ただキミが与えてくれるやさしさのせいでこんなにも苦しいんだと伝えたら、キミはどんな顔をするのかな。思ってるだけで、伝える気なんてちっともないけど。

     浅くなった呼吸を、絡まった喉を戻すためにゆっくり深く息をしながら、再び押し寄せてきた眠気に身を任せて目を閉じる。
     おやすみ、と降ってきた掠れた声に、僕は返事をしなかった。


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