ビー玉と真葛初めて彼をみた時、思わず涙がこぼれてしまったというくらいには彼の存在はあまりに衝撃的で、言葉に表せないほどだった。
俺が美大に入って初めてのデッサン授業を受けた時のことである。
それまで生身の人間を見ながら描くということをほとんどせず、というか興味もなく、ただペットボトルだの丸太だのを何時間もかけて描いていた俺は、最初の授業で人間を描くと聞き、心底落胆した。描けないというわけではない。だけど人間は動くし、話すのだ。以前、知人にモデルを頼んだことがあるが、1時間そこらで仕上げないと腕が痛いだ、喉が乾いただと喚き、モデルの仕事をしなくなる。本当に面倒で、以来必要な時以外には人間は描きたくないし描かない。それに俺が描きたい表現ができる人間なんてこの世に1人しかいないと思っていたから、その人以外をモデルに絵を描くなんて考えられなかったし、それを想像するだけで自分のプライドがぽっきり折られるようなショックを受けた。
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