【夏五?】白昼夢 ガサガサと、一歩踏み出すたびに右手に握りしめたビニール袋が鳴る。中身はペットボトルの水が1本と昆布、梅のおにぎり。1番近くにあるコンビニで調達した、いつもと変わらない傑の昼食メニューである。
太陽がそろそろテッペンを通り過ぎようとしている時間に、この路地裏で誰かとすれ違ったことはない。2人ギリギリ通れるくらいの狭さで、左右に聳えるビルのせいで昼でも光は底まで届かない。見るからに治安が悪そうだからなのか、誰も近づかないのである。
あともう数メートル少し進んだところに、傑の今の住居兼アルバイト先である半地下のバーがあった。今はまだ準備中の札がぶら下がっており、開店まではまだ6時間以上ある。行き場を無くした傑が住み込みで働くことを勧めてくれたオーナーは、きっとまだ夢の中だ。
28909