それぞれの盆に乗ったかき揚げ蕎麦とコロッケ蕎麦を前に、パチンと手を合わせ「頂きます」と唱える。ポツン、ポツンとまばらに人が座る食堂で斎藤と以蔵は向かい合って座り、蕎麦を啜っていた。時刻は深夜11時半を過ぎた頃で、もう少しで年明けだ。2人は何も喋らずに黙々と蕎麦を食べ続けた。
蕎麦の量が半分くらいになり、ツンツンと箸でコロッケをつゆに沈めながら斎藤は以蔵に声をかける。
「以蔵ちゃん、今年もお疲れ様。」
「.....おん。」
以蔵は食いかけの蕎麦の中に一味と柚子皮を加えながらそう返す。ザクザクと音を立てながらかき揚げにかぶりつく以蔵にヘラリと笑いながら斎藤は再度声をかけた。
「ねぇ、この後僕の部屋来ない?」
「煩悩しか無いんか、おまん...」
「え〜、何想像してんだか。そっちの方が煩悩あるんじゃない?」
「おまんの誘いは何時もソレじゃろうが。行かん、これ食ったら寝るき」
つまんないの、と斎藤は不満そうに口を尖らせながら、水分をたっぷりと含んだコロッケを頬張った。
汁まで飲んで完食すれば、時刻はもう年明けまであと10分も切っていた。ズズっと食後の茶を啜りながら一息つく以蔵にまた斎藤が声をかける。
「来年もよろしくね、以蔵ちゃん。」
「おん、宜しゅうお願いします。」
少し笑みを浮かべながら、以蔵は答える。斎藤もつられて笑みを浮かべ、うん宜しくとまた声をかける。蕎麦の器を下げ、食堂を出る。
「で、部屋来ないの??」
「行かんわ、アホ。」