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    kana_1668

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    kana_1668

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    ねつ造盗賊団時代

    子分期のネロがボスへの片思いをこじらせている
    ※モブネロ注意

    ##ブラネロ

    サークルクラッシャーネロ 刹那の熱が冷めて、脱ぎ散らかした服をまとい部屋を出ていくまでの数分間。この時間が、いつもあまり得意ではない。どんな顔で、どんな話をしたらいいかわからないから。
     だから必然といつも無言になる。今日もさっさとベッド――岩の上で寝ているのとそう大差ないのではないかと思うくらい硬い――をおりてサイズの合わない服を身に着けていると、すでに冷えた肌に、いまだ裸のまま寝そべっている男の手が触れた。
    「もう戻るの? ひと晩くらいこのまま寝ていったら?」
     どこか媚びるような声に、「朝飯の仕込みがあるから」と素っ気なく返すのは、今日に限ったことではない。目の前の男にとってはこれが初めてかもしれないが、ネロにとっては飽きるほど繰り返した台詞だ。数日前に寝た男も、その前に寝た男も、誰も彼もが、似たような言葉と視線でネロを引きとめようとする。たった一度の関係で芽生えてしまう情、あるいは執着に似た何か。ネロは伸びてくる男の腕をほどいて、乱れた髪を軽く手櫛で整えた。
     そのまま静かに出ていきたかったのに、なぜか男はネロのうしろをついてきた。気にせず扉を開けて廊下に出ると、いきなり手首を掴まれて、強引に引き寄せられる。かさついた唇を押しつけられた瞬間、思わず舌打ちをしそうになった。
     男狂い――誰かがそう噂しているのを耳にしたことがある。べつに男と寝ていることを必死になって隠したいとは思っていないし、狭いコミュニティで色々な男と寝ていればいずれはばれることだ。しかし人目につく場所でキスだの抱擁だのされるのは嫌だった。ほかの誰に見られても構わないが、『あの人』にだけは、見られたくないと思っている自分がいる。
     相手の胸を押しやり、文句を言ってやろうと口を開きかけたとき、突如「ネロ!!」と離れたところから別の男の怒声が割り入った。
     呼ばれるままに視線を向けると、暗い廊下の突きあたりに人影がある。確か、数か月前にはいってきたばかりの団員だ。名前は何だったか、すぐに思い出せない。寝たのは一度きりで、あまりよくなかったから、その後しつこく誘われても断り続けていた。あれは、いつ頃のことだっただろう。ひと月前か、ふた月前か――。
     そんなことを考えていたら、降りかかってきた拳に反応するのが遅れた。がつん、と頬骨にひびがはいる鈍い音とともに、ネロの薄い身体は勢いよく横にふっ飛ぶ。脳みそが衝撃でぐらぐらと揺れ、すぐに起きあがることができない。
     キィンという耳鳴りに混じって、殴った男が何か喚いているのが聞こえる。そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけたほかの団員が集まってきて、あちこちで囃す声や迷惑そうな怒鳴り声が渦まく。あーあ、面倒なことになったな。
     まずいことになったという自覚はあるのに、なぜか物語のなかのように現実味が薄く、ずっと遠くの雷鳴のように危機感がない。ネロは冷たい床に倒れ伏したまま、ゆっくりと遠ざかっていく意識に身をゆだねた。


     *


    「……どうしてここに呼ばれたのか、わかってるよな?」
     長い脚を組み、もの憂げな顔で頬杖をついた男――我らがボス、ブラッドリー・ベインは、ため息とともにネロに訊ねた。
    「…………」
     ネロは黙ったまま、己の拳が載せられた膝のあたりに目を落とす。その頬には無残な痣が浮かんでいたが、一度は人相が変わるほどの怪我を負ったことを思えば、かすり傷と呼べるほど軽傷になっている。彼が魔法使いでなかったら、喋るのも食べるのも困難な状態で数か月を過ごさねばならなかっただろう。
     団員同士の痴情のもつれによる暴力沙汰は、瞬く間に首領であるブラッドリーの耳にも届いた。ネロ以外の当事者であるふたりには、すでにそれぞれの罪状に応じた処分がくだされている。どうして自分が一番最後にブラッドリーの部屋に呼ばれたのか、わからないほど馬鹿ではない。
     これまでネロがおこなってきた『悪行』について、ほかでもないブラッドリーに根掘り葉掘り問いただされるのかと思うと、自分で蒔いた種とはいえ暗澹たる気分だった。自分から口火を切る気にはなれず、沈黙を守っていると、幾度目かの沈鬱なため息が空を裂く。
    「なあ、ネロ。お前が男遊びすんのは止めねえし、団員と色恋すんなとも言わねえよ。ただ火遊びがしてぇなら、もっとうまくやれ。それができねえなら、せめて内輪でどうこうすんのはやめろ」
     ブラッドリーの声は静かで、呆れてはいるものの怒ってはいないようだった。ネロは「はぁ……」と気の抜けた相槌を打つ。
    「俺はこれでもお前を評価してんだよ。器用だし、目端が利くし、魔法使いだしな。何より、お前のつくる料理は最高だ。だがお前が今後も問題を起こすなら、俺はお前を破門にしなくちゃならねえ」
     破門。その二文字を口のなかで繰り返すと、腹の底が石を詰められたように冷たくなった。ネロはきゅっと唇を引き結び、言うべき言葉を探す。これ以上ブラッドリーを失望させたくない気持ちと、ブラッドリーに嘘をつきたくない気持ちが、胸の内で交差している。結局、秤が傾いたのは後者だった。
    「……ボスに、」
    「……あ?」
    「ボスに抱いてもらうには、どうしたらいいかって相談したら、ボスは慣れてる女が好きだから、色んな男で練習したほうがいいって言われて、それで」
     俺が練習台になってやる、と言われた。それが体よく性欲処理に使われるための虚言なのだということは、うっすらとわかっていたが、ほかにできることもない。処女でないほうが煩わしくないのは一理あると思ったし、目を瞑ってボス、と呼んでいるあいだは、それなりの気分が味わえた。ひとりに抱かれたら、話を聞きつけたほかの団員が寄ってくるようになって、いつの間にか「あいつは男狂いで、頼めばすぐにやらせてくれる」という噂が団員じゅうに広まっていた。
     ブラッドリーは何も言わなかった。何も言えなかった、が正しい。ただわずかに紅い瞳を瞠り、音にし損なったような呼気を唇から漏らしたあと、ひどく険しい表情で額を押さえて俯いた。
    「……色々と言いてぇことはあるが」
    「はぁ」
    「お前、俺に抱かれたいのか?」
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